42 消滅。
僕は変な紫色の妖精に絡まれ、気落ちしながらトボトボと歩く。
そして、前を歩く彼から、かなり距離が開いた。
これだけ間があれば、接触する事もないだろうと僕はホッとする。
但し、僕の超視力スキルにより離れていても、相手の行動が手に取るようにわかる。何せ、紫妖精は前を歩いているからね。ドゥールスみたいに礼儀正しい魂人ばかりじゃないのは、わかるけど。あれは嫌だな…レイブンも僕を振り回すタイプだったけど系統が違うと思う。
あれ?扉の前で立ち止まってる?!
僕は距離を縮めないために足を止めた。
その後、1つの扉の前をうろうろした末、紫妖精は扉をノックし、その中に入って行った。
彼が入って行ったのは淡いピンク色の扉。僕は絶対にあの扉には入らないと心に決める。
見える範囲に他の歩いている魂はいない。僕は静かになった回廊をのんびりと歩く。
しかし、それは束の間の平穏だった。
僕は、そこを通りかかる時に違和感を感じた。
初めで感覚、何もない場所て甘いフルーツのような香りがする。
うっとりするような香り。
それは媚薬のように僕の魂を魅了する。
不思議に思い一番近い扉を見れば…先ほど、あの紫の妖精が入った扉だ。
淡いピンクの扉。
香りは確実にそこからきていた。
僕は、その扉の前で無意識に歩みを止める。
おかしい!何か変だ!
この扉が甘い香りを発している。花のようにピンク色だから、それが香るのだろうか?扉に近づき鼻をスンスンする。
あれ?
これって、ヤバイやつだよね!!
そう、僕は淡いピンクの扉が下の方から少しづつ暗い色に変色していることに気がついた。
それは時間と共に少しづつ確実に進む。
えっ!香りも強くなってきた。どういう事?
僕は黒くなる淡いピンクの扉に引き寄せられるように近づき、それに触れた!
何だろう…これって案内人のメイドさんが言っていた良くないことが起きているということだろうか?
まさか、そんな…。
頭では危険だから、この扉から離れなければならないのに体が言うこと聞かない!
嫌、ここから、この魅力的な扉から離れたくないのだ。
この時の僕を他人が見ていたら、かなりの異常行動にうつっただろう。淡いピンクの扉に張り付くように頬をつけ微笑みながら手のひらで、その扉を優しく撫でているのだから…。
僕は知らなかった。
この行動をさせていたのは死の精霊という種族的なものだということを。
そう、この扉の先の世界は必ず滅びる。
多くの命が死する瞬間の前触れの余波が死の精霊の僕の心を惑わせる。
だから解る。
滅亡する世界が発する熱量の波が僕の魂を揺さぶる!
ああ、何て気持ちいい波動なのか!!!
うっとりしながら、その扉から漏れる死の香りを全身に浴び堪能する。
そして、僕の瞳の色も扉のように暗い色に染まり始めた。
この様子を他者が客観的に見ていたなら、死とは遠い存在ではなく身近な存在だったと気がついた事だろう。そう、死が形をなしたなら恐ろしい形相の漆黒の衣をまとい、大きな鎌を持つ存在ではなく。
彼女のように素朴な何処にでもいて群衆に紛れるような…その時が来るまで誰もが気づかないほど、平凡な姿で身近に潜み存在するもの、それが死だと。
僕の魂は歓喜にうち震えていた。だがそれは長くは続かなかった。
始まりがあれば終わりもある。
グラグラグラグラ…ドドドドド!!!!!
強く短い振動が無限回廊と僕を襲う。
僕は魅惑の扉から弾き飛ばされ回廊に転がる。
それと同時に扉が一瞬にして消滅し中から何かが吐き出された。
えっ?何?
甘い香りはもうしない。魅惑の黒い扉もない。
扉の有った場所には壁が有るばかり。
その場所の前に倒れているのは僕と知らない男だった。
僕は扉があった壁を残念そうに見詰め、その突然現れた男に視線を向ける。男は背中を向けたまま体を丸め倒れている。
さあ、この男は何故、突然現れ、ここにいるのか?
分からないことがあれば聞けば良い。
そう思い僕は立ち上がり、倒れていまだ動かない男にそっと近づいた。




