41 やっと無限回廊に。
「高い山が多い世界に行きたい、どの扉がいい?」
クラシカルメイドさんの前には、ごっつい顔に眼帯をつけた男が立っていた。
まるで海賊の船長経験者です!という貫禄。しかし、メイドさんは臆することもなく淡々とそれに答える。
「暑い山と寒い山が有りますが」
「雪山が望ましい」
「なるほど、でしたら氷のような少し暗い水色の扉が幾つかあります」
メイドは手帳を見ながら、紙にペンを取り出して更々と何かを書いている。
「はい、これに複数の扉の場所を記載しました」
眼帯の男は紙を貰うと、さっと目を通す。そして、お礼を言うとすぐに回廊に行ってしまった。
メイドさんは手帳をしまい、もとの場所に戻る。そして、チラリと僕を見てから正面を向く。
あっ、僕が質問をする番だよね。メイドさんが無言で待っている所に近寄る。
「扉を選ぶ時の注意点とか、ありますか?」
色々聞きたいのに口から出だのはそれだった。
「注意点ですね。まず、扉を開けて管理人がいない部屋がありますが…あまり、おすすめできません。管理人がいないということは、あまり人気がない世界の可能性があります。あと、管理人がいない場合は自分で部屋の書物を読み、書類を書いて手続きすることになるので手間がかかりますね。面倒だと言う方は、それらを避けます」
「あっ、そうなんですね。覚えておきます」
「あと、これは常識的な知識なのですが重要なので、お伝えします。扉の一部が黒ずんでる場合と黒に飲み込まれつつある扉は避けてください」
「黒ですか?」
メイドさんは真剣な顔で言う。
「はい、黒は滅びのサインです。生命体が存在しなくなる前兆だと思ってください。真っ黒になると回廊が振動し縮みます。当然、扉は消滅します。その時に近くにいると、かなり揺れますので転倒などに気をつけてください。また、突然扉が増えることもあります。こちらも回廊の壁に異変がおき、振動と共に出現します。御注意を」
僕は無限回廊が縮んだり伸びたりすることに驚いた。
だから、無限回廊なのか…と。
「あの~、おすすめの扉とかは、ありますか?」
僕はメイドさんに行く世界を決めてもらえないかと甘い考えで聞いてみた。
「ないです」
メイドさんは即答した。
「ご希望の世界に近い扉を紹介することは、できます…どのような世界がいいですか?」
「あっ、希望、希望の世界…それは、まだよく分からないので」
「でしたら、気になる色の扉に入り管理人に、その世界の情報を貰うと良いでしょう。その内に希望の世界が見つかるかと思いますが」
「はい…そうですね。ありがとうございます」
うっ、正論を言われてしまう。
メイドさんに行く世界を決めてもらうという僕の浅はかな企みは塵とかした。
僕はトボトボとクラシカルメイドさんに別れを告げ、回廊に足を踏み入れた。
へえ~、ここが魂石の時に遠目から見ていた回廊か、何処までも続くような回廊の先が途中でカーブするようになり、それが中庭の木に隠れ、その先は見えなくなっていた。
進行方向の右手が壁になっていて、そこに色んな色の扉が並んでいる。左手側には樹海が見え回廊部から飛び降りれば、すぐにでも森に入れる。そして森からは、約1mの高さが有るので勢いをつければ簡単に上れると思われる。
僕は特に気になる扉も見つからず景色を見ながら散歩をするように回廊を歩く。
風にのり、鳥の鳴き声が時折聞こえてくる。
森からは魂虫や魂獣が出てきて、そこら辺で戦い勝者と敗者を決したりしていた。
その中に、知能の低い魂虫が回廊の僕にめがけて飛んできては、回廊の見えない力に弾かれて森に弾き飛ばされる。
ああ、回廊は魂人以外を拒絶するのだなと改めて思った。
そんな感じで足を止めずに景色を見ながら進んでいると、前方で森から魂人が回廊に向かって走って来る。
あれは中庭街で訪れた店にいた妖精族と似た種族だろうか、背中に透き通るトンボのような羽が生えている。
体は少し小さいかな?
僕と同じぐらいの身長だと思う。
それは、ここに近づくと羽を広げ回廊に飛び乗った。
勿論、回廊に弾かれることもなく無事に着地する。そして、僕に気がつくとツカツカと早足でこちらに近づいてくる。
うわー、こっちに来るよ!何しに来るの?!
僕は少し後ずさる。
「ねえ、君!」
「あっ、僕に何か…」
紫の髪でおかっぱ頭の青年は羽も瞳も薄い紫で、やや気が強そうな顔立ちをしている。
「ここって、弐の門と参の門、どちらが近いか知りたいんだけど!」
「あっちに、しばらく行くと参と書いてある門があるよ」
僕は来た方向を指でさす。
「ふーん、参の門の近くに出たのか…そうなると、目的の扉は意外と近い…か、わかった」
紫の妖精は、もう、お前には用はないという感じに話を聞くと僕の進行方向と同じ方にスタスタと歩いて行く。
あっ、お礼とか言わないんだね、ビックリだよ。
僕も行く方向は同じなので気まずいけど仕方ない、扉の色を順番に眺めながら彼の後ろを距離をおいて歩く。
数十分歩いていると彼が突然、足を止める。
僕は、そのまま足を動かし彼を追い越そうとするが…。
「君さぁ、何でついてくるの?気分が悪くなるんだけど!」
すれ違い様に言葉を投げつけられる。
はぁ~あ?
誰が紫妖精について行ったよ!ここは一本道みたいなものだろうがっ!
体の大きさも同じで歩く速度もあまり変わらないから、抜かせなかったんだよ!!!
僕が唖然として足を止め、心の中で叫んでいると彼はスタスタと足早に先に進む。
えっ、折角、抜かそうと思ったのに…これじゃーもう抜かせないじゃん。
どうやら僕が彼に興味があると思われたようだ。見た目が女だから、それに拍車がかかったのかも。
うわー、凄い迷惑な勘違い野郎じゃん。
とりあえず、いっーぱい距離をおこう。
今の僕は上着も着ていないし、胸があるから女だと見れば分かる。ここは街ほど魂人がいないから、多数の視線を気にすることもないかと思い、銀の髪止めから最初に着ていたポンチョを出して着る。
これで体のラインが曖昧になり性別が少し分かりづらくなったはず。
それから僕は、しばらく進まないで、じっとしていることにした。




