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35 転移の塔でお別れを。

「おい、ルチル、またリビングのソファで寝ているのか?」


 コバルトブルーの髪の間から眠い目を覗かせ、寝返りをうつように体をひねり、うにゃうにゃと猫のように何かを言っているようだが意味はわからない。


 俺達が何もない樹海の中央で出会った時から、彼女はゴロゴロするのが大好きだった。俺とシールが中庭街の構想を練る間も話を聞いていたと思ったら岩の上で横になりこっちを飽きもせずに見ていた。


 話を聞いていないようで聞いていて、突然、思い付いた要望を喋りだしたり、俺とシールが意見の食い違いがあると自然と間に入り場の空気をゆるめる。


 この拠点の屋敷に大きめのソファを置くことを提案したのもルチル、三人でいた時は大体、今のソファに寝っ転がっていた。彼女の部屋に物が少ないのは殆んど使っていなかったから。


 そこが彼女の定位置。


 俺は二人と別れた後、長きに渡り竜人として生き、新しく生まれ変わった世界であらゆる国の首都を巡りその建築技術を眺め盗み、また自国に戻り歴史に残るような巨大な建造物を造り上げる。楽しい人生だった。


 死して、また無限回廊に戻ってきたがルチルがタイミングを同じくして、あの世にいるとは思わなかった。

 彼女は何故、俺がルチルと呼ぶのか覚えていないだろう。魂の記憶スキルを最近取ったのでは記憶喪失とあまり変わらない。


 ディザイアでは透明な水晶に金の針状の物質が入った宝石を富の象徴としていた。

 ルチルクォーツ、当時の彼女は既に自分の名前を覚えていなかったから俺がそこから名前をとり()()()と名付けた。


 俺もシールもルチルに会わなければ、多種多様なスキルを取得していなかったし、この中庭街もなかった。

 勿論、三賢人なんて呼ばれる存在も生まれないし安らぎの泉もない、ただあるのは無限回廊と中庭と呼ばれる何処までも広がる樹海が有るだけの殺伐とした魂の戦場。


 本人は自分がしたことの自覚はないようだけど…俺達にとってルチルは黄金のような存在。



「ルチル、俺は出かけるからな!」


「つ…ついて行く」


 彼女は今度はむくりと起き上がりボソリと呟いた。

 そして、バタバタと動きだす。


「待ってすぐ準備する!」


「わかった…今日は3つの塔の状態を確認しに行くだけだが」


「一緒に行く!」


「はぁ~っ、庭で待ってるから慌てるな…転ぶぞ」



※※※※※※※※



 僕とブロックモは屋敷を出てしばらく歩き、やっと中央部の3つ塔にたどり着いた。

 屋敷から、そこそこ距離があるんだよね。


 基本的に街中の移動手段は徒歩になる。


 バスや馬車など公共交通手段はない。でも、たまに外の話せるの魂獣と交渉して魂Pコインで一時的に使役する者がいる。例えば荷車を引かせたり移動の為に乗ったりと、だけど、それらは長くは使役できない。

 何故なら、仕事後に貰ったコインを吸収して何時かは魂人に姿が変わってしまうからだ。

 そうなると次は獣として使えなくなる。


 例外もある、馬の体に人間が生えているタイプの魂人がいてコインを払えばタクシーの代わりにもなるけど、これもあまり人数がいないので、たまにしか街中で見ない絶対数が少ないのだと思う。


 そんな使い勝手が悪いこともあって基本徒歩になる。


 最初は左の図書館の塔に入る。

 入口の扉に魂Pコインを入れると思ったら、鍵のような物の先に複雑な模様のコインがついているものをブロックモが取り出しコインの投入口に先の方を入れる。

 するとガチャンと音がして扉のロックが外れた。

 マスターキーのような物で中庭街のメンテナンスが必要な主要建築物には、それで自由に入れるらしい。


 僕とブロックモは建物に入ると彼は手際よくスキルを使い、壁や床、階段といったものに触れていく。

 上層階まで調べたら、また下に戻ってくるらしい。

 その間、僕は無限回廊にある色んな扉の情報が書いてある本を読んで待っていた。


「ルチル!終わったぞ。次は真ん中の鐘の塔に行く」


「今、本を片付けるよ」


 僕は置いていかれたくないので急いで本を棚に戻す。


「別に本を読んでいて良いんだぞ。帰りに声をかけるしな…」


「鐘の塔がどうなっているのか見てみたい!」


「そうか」


 二人で図書館の塔を出て隣の塔の前につく。こちらは別に扉に鍵などは、かかっていなかった。普通に誰でも入れるらしい。


 1階は待機場所のようで普通の大きな部屋になっていた。

 それをブロックモは先程と同じように建物に手をあてながら少しづつ上にあがる。


 長い階段がぐるくると続いていて屋上に出ると大きな鐘が柱のある台の上に吊るされていた。その側に3メートルはあろうかと思われる巨大な体をした女が鐘を鳴らすための大きな木槌を脇に持ち立っていた。


 彼女は砂時計の砂をじっと見ている。


 その砂時計は一般的なドラム缶ぐらいの大きさで、あと少して砂が全部落ちる。


 これ、怪力スキルが有れば僕も持って、ひっくり返せるのかな…丈夫そうな金属と分厚いガラスで作られていて中の砂は何故かピンク色をしている。


「ルチル、耳をふさげ!バカになるぞ」


「えっ?耳?」


 ブロックモを見ると両手で耳を押さえている。


 うわー!耳を押さえなきゃ!僕は即座に両耳を塞ぐ。


 ゴーーン!



 ゴーーン!



 巨大な女は2回鐘を鳴らすと手に持っていた木槌を床に置き、直ぐにピンクの大きな砂時計を担いでひっくり返していた。


 凄く重そうだ。


 巨大な女は一仕事終えると無言で1階に降りていく、木槌は鐘の台座の脇に立てかけてあった。


 この仕事、単純そうだけど、いくらスキルがあっても僕には無理そうな気がする。腕の長さ的に規格外の大きさの砂時計は持てそうにない。

 これの為に怪力スキルを取らなくてよかった。


「ルチル、ここは全部確認できたから降りるぞ!」


「次で最後だね」


 僕とブロックモは最後の転移の塔に先程と同じようにゆっくりと登る。こちらも、やっばり入口に鍵などなく長い階段を登れば誰でも頂上の屋上のような場所にでれる。


 すると、そこには転移の塔というのに相応しい巨大な魔方陣が床に大小様々な魔石で刻まれていた。


 その中に発光する石も混じっているせいか幻想的な情景が辺りを満たしている。そこからは確実に何か凄まじい力を感じる。


 それだけではない、その魔方陣を囲むように4つの柱が四隅に配置されていて、その上の空間にそれぞれ大きなスイカ大の玉が浮いていた。

 どうやって浮いているのか?わからない謎な球体。


 なるほど、ここで転移するのか。



 僕は最初、魔方陣にばかり気をとられていたが、よく見ると魔方陣の前に魂人が数人並んでいた。


 きっと、あの魂たちは、これから無限回廊にこれを使って転移するのだろう。


 ブロックモは自分の作業を黙々と始めて、まずは階段周りからスキルで確認をしている。


 僕は何の気なしに、その列の近くまで歩いた。 

 最後尾辺りに床からつき出した石碑がある。

 最後には聞き覚えのある名が刻まれていたが気にしないことにする。


 それには、こう書いてあった。


《無限回廊への道は己のみで魔方陣の中央へ進み、台座の窪みを魂のコインで満たせ、さすればおのずと道は開かれる   ルチル》


 列の一番前の魂人が魔方陣の中央へ歩く。


 そして真ん中にある小さな台座の上で、手から魂Pコインをじゃらじゃらとだし中央のコイン大の穴にコインを重ねて入れている。


 何枚位で、その穴が埋まるのだろうか?


 僕がじっと超視力スキルで、それを見ていると4つの柱とその上の玉が突然光だし最後に強烈に1度、ピカッと光った。


 僕が眩しくて目を瞑ってしまった瞬間に転移は終わっていた。


 中央に立つ魂人の姿はない。


 すると、次の者が前に出て同じように中央に行き魂Pコインを入れ転移をしていく。


 ふーん、こうやって樹海を通らずに安全に無限回廊の近くに行くのか。


「ねえ!ブロックモ!」


 階段付近にいた彼に声をかけ転移の魔方陣の事を聞く。


「あれって、行き先はどこに出るの?」


 彼は床石にしゃがんだまま質問に答える。


「無限回廊の壱の門に一番近い安らぎの泉だな、門から近いから迷わないと思うぞ」


「ふーん、そうなんだ」


 僕とブロックモが話していると、また新しい人が階段から登って来て列に並ぼうとしている。


 あれ?あれって…。


 僕は列の最後尾に駆け出す。


「レイ!レイブン!」


 最後に並ぶ魂人はワインレッドの服を着こなしたレイブンだった。

 彼の耳には大振りのイヤーカフがキラキラと輝いている。

 黒い髪に二束の金の髪があるので翼型の金のイヤーカフはとても似合っていた。

 僕と比べると彼はやっぱり派手で目立つと思う。


「なんだ!ボークか、お前も無限回廊に行くのか、行く世界はもう決めたのか?」


「あっ僕は、もう少しだけ考えるつもり、レイブンはもう旅立つの?」


「ああ、陸地が少ない世界を中心に生まれ変わろうかと思っている、やっぱり空を飛べる種族が良いからな。前回は戦いに明け暮れたから今回は、のんびり出来る世界にしようと思っている」


「ふーん、のんびりね。それにしても、もう行っちゃうんだね」


「何を言ってるんだ!魂のポイントがたまったら直ぐに生まれ変わるのが一般的だぞ!中庭街に長く滞在するのは大体()()()()だ」


「あっ、そうだね…そうかも。そうだ!これ、良かったら無限回廊の管理人のひとりから名刺を貰ったんだけど、あげる!」


 僕は胸の月と星の銀のブローチから名刺を取り出しレイブンに渡す。彼はそれを受け取り紙の裏も見ている。


「それ、南国リゾート風の世界なんだって魔物もそんなに強くないみたいだし陸地が少なくて、しかも空人(そらびと)って言う空に住んでいる羽が生えた種族がいるらしいよ。地面を歩きたくないレイブンにピッタリだよね」


 僕がそう言うとレイブンは感心したような顔をする、彼のそんな表情は初めてかもしれない。


「なんだ、ボークにしては気が利くな!」


「僕だって、そういう時もあるよ!」


「そっか、そうだな…これはとりあえず貰っておく、扉の場所も裏に書いてあるみたいだしな。おっと、俺の番だな!それじゃーお前も良い転生ができるように頑張れよ!」


 レイブンが片手をあげてから、あっさり前に進んでしまう。


「あっ、レイブンも()()()()()!!」


 彼は僕が声をかけても、もう振り向かず手だけを適当にふり前を向いて歩いて行く。そして中央の台座の窪みにコインを十枚位重ねて、そこに入れる。



 別れって呆気ないものだね。もう、レイブンと中庭街のお店で偶然に会うこともない。


 ()()()何て言葉もない。



「ああ…レイブンも行っちゃう、たんぽぽちゃんの次にレイブンも…」



 優柔不断な僕を皆が置いていく。


 何だろう、胸にぼっかり大きな大きな穴が空いたみたいだ。

 その穴が僕の瞳をよりいっそう暗く染める。




 そして、光と共にレイブンの姿は魔方陣から姿を消した。


 

 


 




 


 

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