34 僕、金魚のフンになる。
鱗の人改め、竜人で三賢人の1人のブロック・モ・スキー・アスファルトさんと僕はテーブルのコーヒーも飲み終えた。
ガタン。
彼が立ち上がりコップを片付けてから外出準備をし始めたので僕は慌てて聞く。
「ブロック・モ・スキー・アスファルトさん、何処に行くの?」
「ああ、街中の建物の状態を確認しに行く。あと、ブロックモと呼んでくれ!スキー族は沢山いるからな」
僕も席を立ち彼に続いて歩く。
「よくわからないけどスキー族って、そんなにいるの?」
僕は知っているスキー族を数えてみた。チャイガさん、コイン・ワ・スキーさん、それとブロックモになるけど3人か、それなりにいるね。
彼と僕は屋敷の扉から庭に出る。
「ああ、忘れてるから一般常識が何もないのか…」
その後、ブロックモは僕にスキー族の事を教えてくれた。
スキー族はディザイアという世界の人種を全てさす。
彼らの全ては己の欲望に忠実に生きていた。
そして誰もが回りを顧みずに、やりたい放題に生きる。そんな事が行われれば、どうなるか?
当然、その世界が混沌に飲み込まれ結果、滅亡した。
死後もその多くの魂たちは自己の欲望の赴くまま新たな世界を求め魂ポイントの収集にあけくれる。
そして最終的に無限回廊に居座り、自分が望む世界を見つける手段として扉の管理人に在籍するものが後をたたなかったり、中庭街に店をどっしりと構え長期滞在しながら情報収集に明け暮れる魂もいた。
ブロックモが言うには死後、何故か?その世界の全ての人種には自動的に魂にスキーの字が刻まれた。まるで同じ過ちを魂達に起こさせない為の楔のように。そうして、ここ無限回廊では彼ら全体をスキー族と呼ぶようになった。
スキー族は能力は優れているが集まりすぎてはいけない。
それは滅亡の一歩にすぎないから、これは無限回廊の一般常識となった。
ちなみにブロックモのモは名字にあたるらしい。
世界が滅亡するくらいに欲望に忠実な世界って凄いね。スキー族は僕が地球人と呼ばれる単位と同じ感覚なのかもしれない。
僕たちは話ながら庭の金属の大きな門にたどり着いた。
「何だ?ついてくるのか、来ても街中を建物の状態を確認して歩き回るだけだ。自分の部屋でのんびりゴロゴロしていてもいいんだぞ、つまらないし疲れるがいいのか?」
「うん、駄目でなければついて行く。じ…自分の部屋って?」
「ルチルが寝ていた部屋は、お前が昔使っていた部屋だ!この屋敷は中庭街を建設した時、俺たち3人が拠点にしていた場所だから建物的には古いがそこは俺が確りとメンテナンスしているから安心してくれ。奥の方には俺とシールの部屋も二階部にあるぞ。ああ、そうだ…街についてくるのはいいが騒いで俺の仕事の邪魔はするなよ」
ブロックモが僕に念を押す。
何だか僕が問題児みたいな言い方をする、変なの?
それにしても、知らなかったことだけど過去の僕は中庭街に三人で拠点となる屋敷を持っていたんだね。
それからの僕は中庭街の外壁からメイン通りの石畳などをくまなく見てまわる彼の後ろを静かに黙って、だけど決して離れずに金魚のフンに徹してついて行った。
長時間に渡る街中の移動は中々に大変で、だけど疲労とは逆に誰かと一緒にいることの幸福感は、レイブンやタンポポちゃんといたのとは、また違ったものだった。
まるで子供が父親と一緒に知らない場所に出かけ、でも頼れる存在があるから気を許し外出先で父親に、それとなく甘えられるような。
竜人の大きな体の影に隠れるように彼の仕事の邪魔をしないように、ひっそりと気配を消すようについていく。
ブロックモは行く先々で壁や地に敷かれた石に手のひらを当てて何やらスキルを使っていた。
「ふう、あらかた街の様子は見れたか…大まかな修繕必要箇所は把握できた」
ブロックモはズボンから手拭いを出し汗を拭う、ふと静かにしていたボークと目が合った。彼はボークの存在をすっかり忘れていたことに気がついた。
そう、彼もスキー族だ。興味のあることに集中すると周りがみえなくなるようだ。
彼は主に建築物に執着する魂らしい。
「うわー、悪い集中していた。今日は長時間、連れ回しちまったな!すまん、何処か行きたい所とかあるか?」
ボークはブンブンと頭を横に振り無言だ。
そう僕は金魚のフン、フンは喋らないし作業の邪魔もしない。
「おいおい、おとなしいルチルは何だか調子が狂うな」
ブロックモは頭をかきながら長い尾尻を地面の上でバタつかせた。
「よし次は後一軒だけだ!ついてくるのか?」
僕は無言で頭を静かに縦に振るう。
次に二人で訪れたのは数日前に訪れた銀行のあの豪華な控え室。また、この部屋に来てしまった。そして、今、僕は前回同様に出されたデザートと紅茶を食している。
今回は二人で。
「美味しい~、ここのケーキ美味しい♪」
僕は金魚のフンをあっさり辞めて目の前のデザートを堪能する。それをうんうんと頷きながら温かく見守るブロックモ。
「やっとルチルらしくなってきたな、俺は甘いものは少し苦手だから全部食べて良いぞ!」
彼は紅茶のみを口に入れ、その香りを楽しみながら僕を眺めていた。
残すのは悪いので僕がデザートを綺麗に美味しく頂くことにする。
僕が味わいながらチョコケーキに手を伸ばしているとノックの後、前に僕の担当をしてくれた羊獣人さんが部屋に入りブロックモと挨拶をかわす。
「お待たせしました。ブロック・モ・スキー様の魂の確認がとれましたので話を進めさせていただきます」
「ああ、それと名前の最後にアスファルトも新しく追加してくれ」
「ブロック・モ・スキー・アスファルト様ですね。後で変更しておきます」
二人は隣で僕が果物のタルトに手を伸ばしたのを優しい目で見て気にせず仕事の話を始めた。
「この書類に修繕場所の詳しい内容、必要な材料の数と費用の見積もりを提出してください。後日確認後、書類にサインを頂き中庭街共同基金から経費を引き出し、お渡しします」
「そうしてくれ、屋敷に連絡をよこしてくれれば足を運ぶ。基金の運営はどんな感じだ?図書館と転移の門の使用料は貯まっただろうか、あれから何百年、何千年か経過したから魂Pコインも増えただろう?」
「はい、十分に貯まっています。図書館の収益は、あまり有りませんが転移の塔は需要も多く金額が大きいので、鐘の塔のバイトの賃金をそこから出しても余裕がたっぷりあります」
「そうか、俺達が過去にここを離れる前に想定した。大規模修繕の資金も十分だということだな、わかった」
二人は何やら難しい話を終えたのか、羊獣人さんは書類をブロックモに渡すと挨拶をして部屋を出ていってしまう。
僕のお口はすっかりデザートを平らげ満足げだ。
することもなくなったので質問をしてみる。
「大規模修繕って?何?」
「ああ、俺達が昔にこの中庭街を作ってから長い年月がたっただろう?いくら丈夫に作ったからといっても永遠には維持できない。だから街を作った当初から未来を想定して、その時に困らないように中庭街共同基金を設立しておいたんだ。運営は銀行に委託だがな…手数料もたっぷり取られているから、まあ~細かいことはいいだろう?考えるのはシールの担当だからな、今は無限回廊にはいないようだし、この仕組みを考えたのも奴だ。俺は現場で体を動かすの担当だからな」
僕は、おかわりした最後の紅茶にミルクをたっぶり入れて飲み考える。マンションでも毎月、修繕積み立てをしないと後々困るのだから大きな街ひとつを維持するのにお金がいっぱい必要なのは当然だろうなと思う。
僕も難しいことはわからない、考えるのは苦手だ。だからと言って建物を造るのも無理だし。
「ふーん、僕の担当は?」
「お前は一番最初に、恐ろしい程の魂のポイントの放出をして俺達に必要なスキルを取得させるために貢いだだろう?あの時は本当に助かったし好きなだけ建物建設できた。ああ、思い出すだけで楽しかったな~」
「そっか」
どうやら僕はお財布担当らしい…無駄使いをしないように気をつけよう。
ブロックモは嬉しそうに、しばらく昔を振り返っていた。
彼の今日の用事がすべて終わり、その後二人で大きな屋敷に帰宅する。
僕はリビングの隣の大きな部屋の沢山あるソファにゴロリと寝っ転がり欠伸をする。
そして目をゆっくりと閉じ自然に眠りに入った。




