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33 魂の記憶スキルがあっても記憶が飛びました。

 ここは中庭街にあるとある屋敷。


 石造りで、そこそこの広さがある二階建ての建物が二つ建っていて、その二つをアーチ状の渡り廊下が繋いでいた。

 庭は特に広くないし草花も植えていない地面は固い土で踏み固められたような実用的な庭。屋敷の入口から大きな鉄製の門までは石畳が歪みなく並べられている。


 この武骨な屋敷で女が目覚めた。


「うう…ん、えっ何処!いっ、頭がガンガンする…知らない部屋の知らないベッド???」


 女はボサボサの自分の頭を優しくなでながら、大きな確りとしたオーク材のベッドからむくりと上半身を起こし部屋を見渡す。そして、紫がかった深い青色の髪の毛を手ぐしで整え、銀の髪止めを綺麗に止め直す。


 天井には太めの焦げ茶色の木材の張りが力強く張り巡らされていた。

 大きな窓もあり、ゆっくりバルコニーに出ると爽やかな風が吹く。


「えっ、中庭街の中だよね。遠くに3つの塔も見えるし…でも何にもない部屋すぎる。ベッドとソファとテーブルだけって、あっ、テーブルに僕の銀のブローチが置いてある!」


 僕はテーブルにかけより胸にブローチをつける。誰かが寝ている僕から外して置いておいてくれたみたいだ。


「それにしても僕、タンポポちゃんと別れて泣きながら門を出て、それからの記憶が…思い出せない。食堂みたいな所でオレンジジュースを買ったような気がするんだけど…うっ、頭がズキッとした。何かに頭でもぶつけたのかな」


 部屋には扉が2つある。


 1つを開くと納戸だろうか?はめ殺しの小さな窓が高い場所にあり弱い光が小部屋を照らす、よくわからない物が適当に放り込まれている場所だ。きっと、この部屋の持ち主が物置として使っているのだろう。

 物は雑に置かれているが全く埃っぽくなかった。

 もう1つを開くと廊下が見える。


 誰もいない。


 僕は恐る恐る廊下を歩き誰ともすれ違わないまま下に通じる階段を見つけた。


 誰もいない屋敷なのかな…でも、掃除や手入れはされているようだし。それにしても僕なんで知らない屋敷にいるんだろう?


 出来るだけ音を立てずに階段を降りる。


 一階に降りて直ぐの扉のついていない入口があり、部屋を覗くと大きながっしりとした体格の知らない男がテーブルでパンとスープを食べていた。


 美味しそうな目玉焼きまである。


 男は竜人なのか、2つの黒い角が頭にあり上半身は筋肉の上に鱗がびっしりとある。上の服の布地が縦に半分しかないので、それらがよくわかる。

 下はダボついたズボンをはいていて尻から長い確りとした竜の尻尾が地面に垂れている。


 僕の鼻がテーブルの上の食事の香りをスンスンと嗅ぐ。その小さな音を感じとったのか鱗の人が入口の僕に気がつき振り返る。


「ああ、なんだルチルか?起きていたなら、そんな所に突っ立っていないで椅子に座れよ。同じもので良ければ準備するぞ!待ってろ、今、これを片付けるから」




「あっ…」


 鱗の人は僕がきちんと答える前に食事をペロリと食べ終えて、食器を片付け奥の方に行ってしまう。しばらくして彼がトレーに先程のメニューとコーヒーを持ちダイニングに戻ってくる。


「なんだ…ルチル、まだ立っていたのか、さっさと座って食べろ!冷めちまうよ」


 鱗の人がトレーを僕の前のテーブルに置くので、僕はたまらず美味しそうな朝食?の前に座りフォークを握りしめる。そしてジーと彼の顔を見る、本当に食べてよいのだろか?


 知らない屋敷に知らない人、そして美味しそうな朝食。


「何だ?料理スキルは最近とったんだよ、食えるはずだ。何、話がしたい?はぁ~そんなの食ってからだよ!食ってから!」


 僕は鱗の人に強引に勧められるままに従った。


 料理スキル取得の宣言通りにトロリと焼けた目玉焼きとカリカリベーコンの焼き加減が僕好みだった。勿論、透明のスープには複数の野菜が浮かびコンソメスープのような味がした。


「美味しい~」


 僕がそう言うと鱗の人は角と同じ色の黒い瞳でニカッと笑い、熱いコーヒーを飲み始める。


 彼は僕が食べ終わるのをのんびりと待っていた。


「あの~ごちそう様でした」


 僕、今、食後のコーヒーまで出してもらって、すっかりマッタリとくつろいでいる。

 しかも何も言わないのにコーヒーにミルクが入っていた。

 砂糖は自分で少し入れかき回す。


「凄い、料理スキルって相手の好みまでわかるの…」


 僕はつい思っていることを口にだした。


「そんなわけないだろう。ルチルの昔の好みを思い出したんで入れただけだ。変わってなくて良かったよ」


「あっ、僕、ルチルさんじゃないです。ご飯を食べちゃってから言うのも変ですが人違いなんです」


 僕が必死に弁明する。だが彼は全く信じてくれない。


「あっ、ルチル、お前…何だか性格が変わったな、おとなしくなった。昨日の酒場で酔っ払って人に絡んでいた時は変わってないと思ったが…まさか」


 彼は少し上を向いて思案する。


「だから~()()()()()じゃないって!それに、何?酒場で酔って人に迷惑をかけるなんてしてないから!お酒だって一度も飲んだことないし…」


 僕は大事なことなので二度いう。タンポポちゃんの時も似たようなやり取りをしたのをふと思い出す。うっ悲しい、タンポポちゃん元気かな…。


「あれか!魂の記憶スキルがないものは転生すると性格がすっかり変わるものもいるとか聞いたことあるぞ!ルチル、魂の記憶スキルは、いつ取った?俺達と無限回廊で別れてから、どれぐらいで取得した?おい、教えろ!」


 彼は僕の服を掴み返答を急かす。

 僕は頭をガクガク揺らされながら必死に答える。


「最近でふっ…」


「最近?何百年前だ?」


「ゆっ、揺らさないで…答えるから、数日前だよ」


 鱗の人が手を放したので僕は噛まずに言えた。

 だがその後、彼は深いため息を吐く。


「はあーーーーーー」


 鱗の人は僕の顔を見ながら頭をポリポリとかき言葉を続ける。


「わかっていた。ああ、ルチルが昔っから()()()()()()にも()()()にも全く興味がなかったことをわかっていた、そのつもりだったのに…あれほど俺達にスキルを取得させるだけさせておいて自分はゴロゴロ、ダラダラと近くで見ているだけ!それはいい、ルチルの性格を考えれば…それは百歩譲って仕方ないと思う。でも、魂の記憶スキルぐらいは興味がなくても直ぐに取れ!」


 僕は何故、知らない竜人に知らないうちに説教をされているのだろうか。これ、いつまで続くの?飲み物もなくなったんだけど。


 話、まだ続くの?


 僕が集中力を切らし落ち着かなくなると話の途中で彼は席を立ち、さっとテーブルの上を片付けて、また奥に行ってしまう。多分あっちは台所なんだと思う。


「クッキーだ!!」


 彼は戻って来ると無言でクッキーとコーヒーのおかわりを持ってきてくれた。

 僕はジーと静かに彼の許可を待ちクッキーを見つめる。


「食べろ」


「いただきますー!」


 ゴーサインが出たのでクッキーとコーヒーに飛びつく。素朴な甘さ控えめのクッキーだけど美味しい、いくらでも食べれる。


「食べながらで良いから聞け」


 僕は口のクッキーをモグモグしながら頷く。


「ルチルは記憶がないようだから自己紹介を軽くしとくぞ!俺はブロック・モ・スキーだった。転生して新しい名前が増えたから正確には、ブロック・モ・スキー・アスファルトだな!」


 えっ、それって三賢人の1人で建築の賢人の名前だよね。びっくりして口の中がクッキーで一杯なのに息を吸ってしまう。


 ゲホッ、ゲホゲホ…。


 ちょとー待って苦しい。


「ルチル!大丈夫か!」


 ブロック・モ・スキー・アスファルトさんが僕の肩甲骨の間を手の平で優しく叩く。


 ふぅ、もう苦しくない。


「あ、ありがとう」


 それに知らない人だと思ったら実は知っているっぽい人だった。


 あれ?三賢人の石像に竜人なんていたかな…何?

 転生先で竜人族として鉱物族より長寿を全うしたから魂の姿が上書きされたって!!

 なるほど、そうやって魂に姿が馴染むんだね。


 僕が地球の人間の姿にならなかったのは、闇の精霊の僕の方が遥かに長生きしていたからだったんだ。

 レイブンにそれとなく説明を受けていたかも知れないけど、実際に目の前の人物で使用前、使用後のわかりやすい姿を目にすれば納得する。と言うことは僕が()の姿に戻るには()に転生して、しかも闇の精霊より長生きする種族に生まれ変わらないといけないって事だよね。

 ハァー、精霊より長生きする種族ってかなり絞られるよね。何だか転生のハードルがあがってきた気がする。うーん、とりあえず、この事は後で考えよう。


 今は自己紹介には自己紹介で返すのが先決だ。


「僕も自己紹介するね!名前はボーク・ホウロウ、気がついたら名前がそうなっていた。あと多分、無限回廊の住人とか魂の放浪者とか言われていると思うけど好きに呼んでください」


「おいおい、ホウロウって通り名だろうが!」


 僕がそう言うとブロック・モ・スキー・アスファルトさんは豪快に笑いながら言った。


「じゃールチルは()()()だな」





 どうやら僕はこれからルチルと呼ばれるようです。







 




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