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32 酒席で人格が変わる人。

 短髪グレー髪の鱗がまだらにある男が深緑色の超長髪男に椅子を近づけて聴く。


「お前の知り合いか?」


「いやー知らん。お前の知り合いじゃないのか?」


 二人は我に返り小声でボソボソと会話していた。


「お腹すいた~♪もっと食べたい!君たちも食べる?」


 乱入者は二人のこを気にせずに手のひらから魂Pコインを出現させてコトンとテーブルに落とす。そして人差し指をたて、その先に青い炎を灯す。


「あのカウンターのお肉のパイと、魚も食べたいからカルパッチョみたいな奴と果物のタルト、持ってきて~!」


 乱入者の指から放たれた3つの炎はコインに宿り各カウンターに飛び去った。そして、炎はコインをカウンターに置くと代わりに食べ物が乗った皿を持ち上げ戻ってくる。


 コトリッ!


 青い炎は行儀良く皿をテーブルに並べたあとに消滅する。

 

「「はぁ?」」


「どーぞ、召し上がれ~」


 二人が中々手を出さないので乱入者は不機嫌になる。


「何~食べないの?僕、嫌いなの選んじゃった?」


 慌てて短髪男が口を開く。


「いや、美味しそうだ。ありがたく頂く」


 彼は自分のフォークで皿に魚を取り分け食べながら乱入者に質問を投げかける。


「えー、俺達は初対面ではないか?」


「う~ん?多分、初めてかも~でも、僕さぁ、魂の記憶スキル最近取得したんだよ~だから、深緑の人に名前を呼ばれたから知り合いかも知れないよね」


「名前?」


 ご指名をいただいた超長髪男が答えた。


「僕、ボーク・ホウロウだよ~呼んだじゃん、ホウロウってさぁ~」


 乱入者は美味しそうにテーブルの料理とカクテルを口に運びヘラヘラ笑っている。


「放浪って、まさか魂の放浪者?まさか、そんな…でも、依頼内容の人物像に似ているか?中庭街にいるって話だったし…お前はどうだ?」


「いや、確かに三賢人の石像の1つに背格好が似ている。でも、あれはフード付きで顔が半分隠れているようなものだから…昔すれ違った時にもジロジロ見なかった…覚えていない」


 二人は其々がボソボソと小声で話ながら飲食を続ける。


 乱入者がオレンジ色のカクテルを持ち上げ悲しそうに話す。


「このオレンジジュース美味しい、タンポポちゃんの髪の色にそっくりだ。あはは~タンポポちゃん、僕を置いていった女の子ね~彼女が僕のことをホウロウって言ってたから、僕はホウロウね!よろしく~♪」


「あっ、それオレンジジュースじゃなくて、お酒っ」


 短髪男が親切に教えてあげたがボークは一方的に話すばかりで、こちらの話を全く聞かない。


「なーに?お酒の追加!ハイハイ、麦酒と赤ワインね、オッケーオッケー!ちょっと待ってて~」


「いやっ違う!そうじゃなく」


 ボークは先程と同じようにコインを出して青い炎に酒を買いに行かせる。直ぐに炎は器用に酒をこぼさず、それを二人の前に静かに置いた。

 

「炎なのに熱くないんだな」


 超長髪男が赤ワインのグラスに手を伸ばし熱を感じないのに驚いている。


「えっ、何か燃やすぅ~?ここは三賢人の結界内だから出力を出さないと消し炭にはならないかも~やったことないけど~やってみる?できそうな気がするし~ここでは魂を攻撃できないんだっけ?あっでも、樹海なら綺麗に燃やせるよ~、さっき門の外に出たら魂獣が襲ってきたんだよ。僕が悲しみに浸っているのにだよ~信じられる?邪魔だから燃やしちゃった♪」


「そうか…燃やしたのか、その青い炎で」


 短髪男が少し青ざめながらも話の流れにあわせて答え、その表情の変化を読み取りボークが口を開く。


「どうしたの~顔色悪いよ♪ああ…大丈夫!火事にならないように()()()()()()()()()~木には燃え移らないから!自然破壊は駄目だよね~僕、()()()()()気をつけているよ~」


「燃やした後に凍らしたんだな…」


 超長髪男がぎこちなく言葉を発した。 

 それはまるで伝説の樹海の悪魔と同じではないかと心に思いながら。


 ボークは残りのカクテルを飲みほしてグラスをテーブルに置く。


「そー()()()???この後、一緒に樹海に行く?見せてあげるよ、この青い炎、凄いんだよ何でも燃やしちゃうんだ」


 ボークの瞳が暗い光をやどし、その顔には不適な笑みが浮かぶ。

 彼の指には先程より勢いの強い青い炎が燃え上がり、彼は二人をじっと見ている。


「あっ…樹海で会ったら()()()()()()()()()()、困っちゃうね~でもしょうがないよね?だってタンポポちゃんが敵だよって言うんだもん、僕も心を鬼にして二人を消し炭にしなきゃ~ごめんね?!」


 二人はボークの魂から発する禍々しいオーラに押さえられ、不定の言葉を出したいのに口を開くことができないまま話は勝手に進んでいく。

 目の前では熱いはずの炎を目の前にしているのに魂は凍りそうに寒い。



 おかしい、なんだこれ、ヤバイ。


 心なしか呼吸も苦しくなってきた気がする。

 心を強く持たないと何かが壊れる。  

 二人の顔に冷や汗が流れる。


 中庭街では多少の痛み、熱さ、寒さ、毒や痺れなど感じることはあっても結界のおかげで魂が減ることもなく、体に損傷を与えるような我慢ができないような作用のものは行われない、でも、魂以外のものは別だ。炙れば熱くなり燃やせば燃える。そうでなければ料理すらできなくなる。

 これが常識だった。だから、超長髪男はワイングラスを炎が運べばワインが炙られ温かくなっているだろうと考えた。それで、あの発言をした。


 今はそれが失言だったことだけはわかる。


 このテーブルで指先から大きな青い炎を燃やしていることの異常さは回りの客がやたら静かなことに現れていた。


 他の客も店の物も誰も動けない、言葉を発することができない。


 魂から魂に響く力の波動。


 ただ、それは一人を除いて、その一人がボークのテーブルにつかつかと歩み寄り声をかける。


「おい、ルチル!久しぶりだな~ここで火遊びは危ないだろう?美味しい料理が台無しになったらどうするんだ。食べ物は粗末にしちゃだめだって昔、教えただろう」


「えっ誰~?」


 ボークが振り向くと巨大な黒い影が彼女に覆いかぶさるように近づく。


 ゴツン!


「痛!!!」


 ボークは頭に拳を落とされテーブルに体を沈める、勿論その衝撃で手の炎も一瞬で消えてしまう。

 そして、そのまま気絶したのか動かなくなった。



 突然現れたのは、がっしりとした体の男で上半身の半分しか隠れていない服を着ている竜人だった。

 鎖骨の下までびっしりと鱗でおおわれ、腕の外側にも鱗が生えている。

 頭には茶色い髪の間から黒曜石のような2本の角が耳の上に生えていた。顔の正面は肌が露出していて人のようだがサイドの耳の下辺りには少し鱗が見え、ズボンの尻から爬虫類のような長く太い尻尾が地面に垂れ下がっていた。


 純粋な竜人の男は何でもないようにボークを肩に担いで、その場を去ろうとするが何かを思い出して振り返る。


「ああ、お二人さん!ルチルが迷惑をかけたな、すまん」


 彼は謝罪の言葉を残し酒場を後にした。


 しばらくして、二人の男は厄災が去ったかのようにホッとし体の力を抜く。


「俺たち何かに巻き込まれそうになりギリギリで回避した感じだな…」


「そうだな…結局、あれは魂の放浪者で樹海の悪魔だったのか?」


「多分な…最悪の遭遇だ。俺、この後、無限回廊に行ってサクッと転生してくるわ」


「そうか奇遇だな私も、これから転移の塔から無限回廊に飛ぶつもりだったよ」


 二人の男は、お互い目が合うと頷き同時に席を立ち酒場から出て行く。そして、その後、彼らを長い間、中庭街で見た者はいなかった。


 


 


 


 




 


 



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