31 酒は飲んでも飲まれるな。
中庭街の一番大きな酒場、今日も魂人達が1日の疲れを癒す為、自分にご褒美をあげる為にこの場に集まる。
ガヤガヤと雑多な音に紛れ思い思いに魂は飲食を楽しむ。その多くの魂の中に普段はあまり、ここに足を運ばない魂のご新規の訪問もある。
体に鱗がまばらに見える短髪グレー髪の男と床に深緑色の長い髪を引きずりながら歩く腕に数本トゲを生やした男。
二人の男は話ながら適当に自分が好む酒を酒カウンターに買いに行き、ついでに近くの別のカウンターでつまみを買い皿を抱えて空いている席に座る。
ここは他の単体営業の酒場とは違い、フードコート風の酒場で小学校の体育館並みの大きさなので場所取りもせずに席に座ることができる。
「へえ、ここって、こんな感じなんだな」
「行きつけの酒場とは雰囲気も広さも違うな」
一人は麦酒を片手に一人は赤ワインを片手にかかげて、お互いの近況を語り合う。
「たまには違う場所で飲む酒もいいな、酒場のオヤジの酒も良いんだが…クコちゃんの料理スキルが低いから、たまに刺激のあるものや複雑な味の物も食べたくなるんだよな、悪くはないんだけど」
「まあ、いいじゃないか、こうやってたまに別の店に足を運べば…スキルは急激に成長しないからな」
短髪男が鱗のまばらに生えた腕を伸ばし肉の揚げ物を口に放りいれる。
「おお、熱々だ!ただの肉を揚げた物なのに複数のスパイスの味と香りがする、うまいな!」
超長髪男もトゲが生えた腕を伸ばして山盛りのチーズと生野菜のドレッシングがけをフォークに刺し口に含む。
「確かにドレッシングも複雑な味で美味しい、悪くない」
二人は一通り皿に手を伸ばすと、いつもの情報交換を交えた会話を始める。
「それで最近はどうなんだ?もうそろそろ魂Pも貯まっただろう…転生する世界の目星はついたのか?」
「ああ~俺か、5つくらい候補は絞ったんだが後は回廊に直接行って扉の管理人に相談しながら最終的に決めるわ。先日、情報屋から特別依頼があって懐もあたたかいからな!」
「おお、そんなことがあったのか、どんな仕事なんだ?」
超長髪男が短髪男の話に興味をもち問いかけた。
「前に話しただろう俺の千里眼スキル、あれを使った仕事なんだが」
「ふーん、何かの調査的な仕事か」
「無限回廊の回廊部にいる特定の魂を調べる単純な作業だったんだが…何せ、あの無限に広がる回廊の全部に目を通したから時間がかかったし、休みなく働かされたから報酬は良かったが正直、もう二度と受けたくない!目の疲れから来る頭痛で吐きそうになったぞ!」
「それは大変だったな…それにしても、無限回廊全体を見れるスキル持ちっていうのも凄い話だけどな」
短髪男は仕事のことを思い出し疲れたようにため息を吐く、そして麦酒をあおり話を続ける。
「鐘の塔の一番高い場所に登り、そこから回るように回廊を見た。結局目当ての魂人は発見できなかったんだが魂Pコインはもらえたからタダ働きにならずにすんだけどな」
「だから、この間すれ違った時に目が充血していたのか?明らかにスキルの過剰使用だな。それで、その情報屋が探していた魂人って?何かヤバイ奴なのか?」
短髪男が声を少し押さえて口を開く。
「まあな、お前も聞いたことあるだろ。無限回廊に長い間放浪している魂の話」
「ああ、何度もすれ違ったことはあるが…それがヤバイのか?話したことはないが無害そうな魂人だったぞ」
短髪男は指を右左に揺らし、それを否定する。
「あれって実は三賢人のひとりだったらしいんだ」
「中庭街を作った古い魂のひとりだったのか…言われてみれば安らぎの泉の石像の1つに似ているな、それで?三賢人だと確かに偉業をなしとげた魂だけど、それが危険性に繋がるのか?」
「ああ、三賢人のひとり、魂の放浪者には樹海の悪魔説があるんだよ!」
超長髪男が深緑色の長く重い髪をかきあげて耳を短髪男に向ける。
「言い伝えでしか聞いたことがないがあの樹海の悪魔か?」
「樹海で出会ったら最後、一瞬で消し炭の後、凍れる魂石にされてしまうっていう嘘みたいな昔話のあれだ」
超長髪が最後のワインをすべて飲み口元を手でぬぐう。
「ヤバイなんて話じゃないぞ!それが回廊にいないなら、どこにいるんだ?場所の把握はされているのか…それとも転生したのか」
「落ち着け、実はこの中庭街にいることが判明していて、おっと…この先は情報屋で聞いてくれ、口止めされているんだ」
「おいおい、それはないだろう…中途半端な情報を流しておいて酷いな、お前、情報屋の回し者か?!」
「まあまあ、これも仕事の一環なんだよ。すまんな」
短髪男は次の麦酒に手をかけて反対側の手で謝罪のポーズを取る。
「無限回廊の住人、魂の…」
「放浪者か」
超長髪男が噛み締めるように言葉を紡ぐ。
すると突然、隣のテーブルに突っ伏していた魂人がむくりと起き上がり、カクテルらしきオレンジの酒を片手にこちらにフラフラと近づいてくる。
二人は不思議そうにその様子を目で追う。
ギィー、ドンン!
酔っぱらいは、二人のテーブルの空いている席に無断で座り手の酒をそこに置くと焦点の合わない瞳を二人に向けた。
知らない酔っぱらいの魂人の突然の乱入に、二人はポカンと口を開けて固まる。
「ねえ~僕のこと呼んだ?」
光の反射で虹色がかった乳白色に緑や青がチラチラ見える多色性の瞳が二人の魂を鷲掴みにする。
酔っぱらいの魂人はテーブルの皿に手を伸ばして口に揚げ肉を放り込みムシャムシャと食べて妖しく微笑む。
「から揚げ~美味しい~♪」
二人の男は見えない力に縛られたように無言で、しばらく乱入者を眺めていることしかできなかった。




