30 不本意な見送り。
僕は宝飾店で銀の羽の髪止め15000魂Pもするそれを買うことにした。実はこの髪止めは、この店で一番高い商品らしく心なしか妖精店員さんが嬉しそうに見える、でも無表情は変わらない。
その背中にある虹色の妖精の羽がゆっくり開いたり閉じたりと動きが大きくなってきたので、多分商品が売れて嬉しいのだと思う。犬が嬉しいと尾尻をぶんぶんする、あれと似たようなものなのかもしれない。
妖精店員さんが琥珀の魔石に僕の魂の情報を登録する手続きを特殊な機械でしている。これをしないと購入できないらしい。
後少しで、それが終わるタイミングでタンポポちゃんが慌てて僕の元に走り寄る。
その手には二つのブローチを持って。
「ホウロウ、これ、ポポナ選んだ」
「アンティークな見た目のブローチだね、全く同じデザインで金と銀の…」
僕はブローチを二つ受け取り手のひらで角度を変えて見る。
小さなダイヤモンドのような透明な石が幾つか使われていて、月と星を型どったそれは悪くないデザインだった。
「お客様、そちらは肩掛けカバンに入る量の比較的安価な商品になります。直ぐに取り出したいような小物を入れるものです。ペンやお菓子、ハンカチなどですね、ナマモノを入れると時間経過で腐るので気をつけてください、どうされますか?」
タンポポちゃんは自分が選んだ物を僕が買うかドキドキしながら見ている。銀と金、僕には金は派手で似合わないと思うけどタンポポちゃんには金が似合いそう。
どうしよう!どちらを選ぶ?
そうだ、そうしよう!!
「すみません、両方もらいます」
僕は結局、悩んだ末に両方のブローチを購入した。こちらは、お手頃価格で1つが50魂Pなので2つで100魂P、銀の髪止めと会わせると15100魂Pになった。
僕が無限回廊の門の前でレイブンと出会って、チマチマと魂ポイントを必死に集めていた頃と比べると中々の出費になる。でも、悪くない買い物ができたと思う。
僕は支払いを済ませてタンポポちゃんと店から出る。道の端に移動し左腕にかけていたフード付きポンチョを銀の髪止めの琥珀に近付ける。すると触れるか触れないかの距離でポンチョが中に吸い込まれていった。
すごい、面白い!
これが空間収納付きアクセサリーなんだ。僕は感心して、タンポポちゃんに預けておいたチャイガさんから貰った釣竿と折れた釣竿、バケツを渡してもらい早速収納する。それが終わり、さっき買った銀の月と星のブローチを自分の服の左胸につける、そしてチャイガさんの名刺と中庭街の地図をしまう。
「タンポポちゃん、今まで色々ありがとう!これをもらって欲しい、僕と同じで色違いになるけど」
僕はタンポポちゃんが動かないことをいいことに彼女のワンピースの左胸に金の月と星のブローチをつける。
彼女の金の太陽の髪飾りと金のブローチは全体的にバランスがとれていた。
「うん、いい感じだね」
「ホウロウ、ありがとう、ポポナ、恩返せた?」
タンポポちゃんが僕の顔色をうかがう。
「うん、色々と助けてもらって本当に助かった。ありがとう」
彼女は僕が本心で言っているのが読み取れたのか頷く。
「ポポナ、新しく生まれるする、旅立つ」
「そうだよね、無限回廊に行く?」
タンポポちゃんは門のある方に顔を向け、そのあと歩きだす。
「待って門から樹海を通って行くの?門まで見送りするよ」
僕は急いで彼女の隣に並んだ。分かっていた事だけど別れの時が来てしまった。
こんなに直ぐに行ってしまうなんて、もしかしたら…もう少し僕と行動を一緒にしてくれるのではと、そんな甘い考えを持っていた僕が恥ずかしい。
この数日、マップ売りのエルフの間に突然入って値切り交渉をしてくれてから、一緒にスイーツを食べたり釣りをしたりと楽しい毎日だった。
ひとりに戻ってしまう。
狭まる行動範囲、決められない日々、幸せが僕から逃げていく。
タンポポちゃんの横顔をチラリと見る、彼女は何の迷いもなく自分の進む道を決め歩んでいる。決して後ろを振り返らない潔い性格。彼女の表情、言動からそれらを理解していた、僕は気づかないふりをしていた。そう彼女が恩返しをしたら、去ってしまうことも気づいていた。
二人で門の前にたどり着く。
後、数歩で門から出る所でタンポポちゃんは止まり振り返る。彼女は僕と向かい合うと僕の顔を見て言う。
「ポポナ門でる、樹海、ホウロウ、敵」
「えっ!」
タンポポちゃんが僕に敵って言った?樹海で会ったら敵だって。
嘘!
彼女はいつものニコニコを顔してはくれなかった。キリッとした顔つきで、いつもより好戦的な表情で僕を見た。
そして、門に背を向けたまま僕を見つめつつ門の方にゆっくりと後ろ向きで進む。
門を越えたと同時に彼女の髪がフワッと上がり、その間から多くの触手が伸び広がる。
『遊覧飛行』
タンポポちゃんは、どんどん上空に上がり僕の首が痛くなるくらいになると森の方を向き飛んでいってしまった。
僕は呆然と彼女を見送り門の前で立ち尽くす。
敵、タンポポちゃんは次に森であったら敵。
仲良くなったと思っていた。また、会えば笑いかけてくれると思っていた。
友達になれたと思った、でも違う。
てき。
何だろう…目から水がこぼれ落ちる。
悲しみのしずくがボークの買ったばかりの銀のブローチにポタリと落ちる。
彼の心とは真逆にブローチはしずくをうけてキラキラと輝いていた。
タンポポちゃんが出た門を無意識に僕はフラフラと出ていく、目的もなく何も考えず。
ただゆっくりと…。
狼煙の上がる音がして空に赤い線が伸びる。その後に街で聞きなれた鐘の音。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
塔の鐘の音が僕の心に鈍く響いた。




