29 初期投資はお高めに。
僕が空間収納付き宝飾品の店で、ぶつかった相手はマップ売りのエルフの所で別れたレイブンだった。
彼も僕と同じで空間収納が欲しくて買いにきたのだろうか…それらしいアクセサリーをつけてるようには見えないから、きっとそうなんだろうと思う。
「レイブンって、空間収納付きのアクセサリーとか持ってないよね、だから買いにきたの?」
「あぁ?いやアクセサリーは持ってないが別のがあるぞ、一般的なのが欲しくて買いにきたんだが…お前、見たことなかったか?」
「えっ僕、見たことあるの?」
レイブンは服の正面の胸ポケットからゴソゴソと黒い手袋を取り出す。
それに細かいがキラキラと黒光りするビーズで何かの不思議な模様を型どっていた。あれってポケットチーフじゃなかったんだね。
「これだ、小さな魔石のビーズで空間収納が添付された手袋だな、これは武器しか入れることができないタイプで生前、魔国で作らせたもので気に入って使っていたんだが…魂に馴染んだせえか無限回廊でも普通に使えている。今日はこれとは別に普通の収納アクセサリーを買いにきた」
僕はレイブンの黒い手袋を見た記憶があまりなかった、確かいつもは着けてない気がする。
レイブンは手袋をしまい僕が見ていたガラスケースの中を覗き品定めしている。
「レイブンは買うとしたら(僕には)どんなのが良いと思う?」
「ああ…そうだな買える範囲の金額で一番収納力があって勿論、特殊な効果つきだな。デザインが優れていれば尚いい…」
「ふーん、一番の収納力と特殊な効果つきあとはデザインが良いね」
僕はレイブンの言葉を頭に必死に書きとめていた、だから、その後の言葉をあまり聞いていなかった。
「…まあ、そんなの買ったら魂Pコインがなくなるから実際は買わないけどな……」
レイブンが小声で呟いた。
彼はそれからしばらくしてガラスケースの中の美しい青紫色の石が数個、それがついた鳥の翼を金でデザインした大ぶりの耳のラインにそったイヤーカフ…イヤーフック?を店員に言って、その場で着けて購入していた。
金の翼に夕暮れ時の夕と夜の狭間の空ような石はキラキラと輝き、艶のあるレイブンの黒髪にそれはとても似合っていた。
「おいボーク!目当ての物が買えたから俺はもう行くぞ、じゃーな!」
レイブンは、さっさと用事を済ませ店から出て行く。
僕もレイブンみたいに買い物をサクッとできたらいいのに、でも助言はもらった。それを参考に選べばいいじゃん。
僕は妖精店員さんを店内で探す、彼の手の空いたタイミングで声をかける。
「すみません、このガラスケースの中の物を見たいのですが!」
声を聞いた妖精店員さんが来てくれる。
「はい、こちらのどれをご所望ですか?」
「このケースの中で一番収納力があって特殊な効果がある商品はどれでしょうか?」
僕が尋ねると妖精店員さんは迷わず銀細工の髪止めを選び取り出す、それは他の物をより高価なのか特別なケースに入り飾られていた。
「こちらの銀の髪止めに付いている宝石は、どこかの世界の世界樹の樹液からできた琥珀になります。大変珍しく当店で一番の収納力で丁度、この店が丸々入る大きさです」
「このお店が入っちゃうんですね。それは大きいかもしれない」
僕は彼の持っている羽をモチーフにした銀の髪止めを見る。先程レイブンが買ったものは翼のデザインだったのを思い出す。あれは金細工で紫の石だったけど、これはこれでシンプルなデザインでいいかもしれない。何せレイブンがお薦めしてくれた物に近いのだから…。
この時ボークの頭の中ではレイブンに一般的なアドバイスをもらったことがこの賞品を薦めてもらったことになっていた。
妖精店員さんが話を進める。
「特殊な効果は複数付いています。時間停止機能は食べ物が腐らず果物や肉が腐りません。生き物は入りませんから虫や寄生虫のついたものはしまうことが出来ませんので安全に食べ物をしまえます」
僕はそんな機能があっても僕たちは生きていないんだから、安全も何もないのではと思いそれについて聞いてみた。
「この世界樹の琥珀は特別で、転生時にお客様が転生して生まれ変わる世界に持ってきて行けるんです。ただし普通のここにある商品には、それらの効果はありません。なので銀細工の部分は無限回廊でのみの仕様になります。ですが宝石の部分は、あらゆる世界と通じる世界樹の琥珀になっていることから転生先で使えますし勿論、空間収納の効果も石に直接添付されていますので問題なく使えます」
僕はその特殊な仕様に驚いた。
「もしかして石の部分だけ、新しい世界に持っていけるですか…でも人間だったら赤ちゃんですよね、どうやって???」
「そうですね、聞いたことがありませんか?赤子が手に石を握って生まれてきたなんていう不思議な話をそれらはこれに付随するものですね」
何も不思議な事でもないように店員さんは言った。
地球では聞かない話だけど物語の中でならあったかもしれない。
「でも、人間の赤子ちゃんだったら落としたり、取り上げられたり犬や猫のような動物だったら持てないですよね。こんな高価な宝石をなくしちゃいませんか?」
彼は相変わらず無表情のまま、それでいて自信たっぷりに答える。
「ええ、お客様のそのような不安も最もです。ですが当店は、そのような場合の為にも備え複数の効果を添付しました。赤ちゃんが誤飲しないように誤飲防止と登録者から一定時間経過しつつ半径5メートル以上離れた場合に発動するオートリターン機能がありますので登録者の元に自動で戻ります、失くすことはまずありません」
彼がガラスでできた小箱から琥珀のついた銀細工の髪止めを手に取り僕に見せてくれた。僕はそれをそっと受け取る。
その琥珀の色はレイブンの瞳の色と似ている、その内部にはよく見ると黒い影になった物がわずかに入っていた。
「素敵な琥珀の髪飾りですね。あの…この宝石の中の黒い影は何でしょうか?」
「ああ、琥珀ですので虫とかの不純物が入っていることがあるのはご存じですよね」
僕はギョとした。
確かに琥珀にかのような虫が入っている話しは聞いたことがある。でも虫は少し嫌かな。
僕の表情を読み取り妖精店員さんは素早く説明する。
「こちらは虫ではなく植物になります、世界樹の葉の一部が樹液に閉じ込められた状態ですね」
彼に促されるまま琥珀を注意深く覗き込む。
本当だ葉脈のような物が見える、宝石に閉じ込められ葉の筋が綺麗にそれとマッチしていた。
「失礼しますね」
妖精店員さんが髪止めを着けてくれる為に僕の長い前髪を櫛を使いかきあげた。
視界が広がり前がいつもより明るくなる。
パチン。
「お客様はオパールのような不思議な瞳をされているのですね。銀色の土台と琥珀の色がコバルトブルーの髪色ともあって、とてもお似合いです」
差し出された鏡を前に自分を見る。彼の言葉は商売上のお世辞だと思う、でも銀の翼のデザインは悪くない。
いいかも!
「これにします!これをください!」
レイブンが僕に薦めてくれた宝飾品だから…そう思った瞬間に僕の魂の何かがカチリと音を立てた。
それがこれからの僕の運命を変えることになるとは、この時の僕は知らなかった。
※※※※※※※※
ボークとポポナが宝飾店から出て店の前から姿を消した後、店の店員達がざわついていた。
「店長、あれが売れました」
妖精店員が恰幅の良い落ち着いた感じの男に近づき、そのふさふさの狸の頭についた丸い耳に耳打ちした。
「あれって、まさか…私がこの店のオープン当初にドワーフに作らせた技術と素材を盛りに盛った作品か?」
「そうです、無駄に特殊効果を重ねがけしすぎて高額商品となりホコリをかぶりつつあった、あれです」
「本当に?」
あんな高額商品を買うものがいたのか…と店長が今しがた支払われた魂Pコインを目視で確認する。
「本当だな…」
「店長!お約束通り、あれが売れたら店員全員に特別手当てが出るんですよね?」
店の他の店員たちが会話に耳をそばだてていた。
「勿論だ、営業終了後に渡そう!」
店長の言葉に、店の店員全員が客に気づかれないよう、同時に小さく拳を握り喜びを表した。
そして何事もなかったように店の中は通常通りにまわり始める。




