27 図書館で時を忘れよう。
中庭街の中央にある三つの塔、これは三賢人が其々の希望で建てたものだという。
結界の賢人シール・ドハルが無類の本好きのため図書館の塔を望み、建築の賢人ブロック・モ・スキーは時刻を知らせる鐘の塔を作り、最後に救済の賢人、魂の放浪者が中庭街と無限回廊が遠すぎると転移の塔をブロック・モ・スキーに作らせた。
僕は今、銀行を出て図書館の塔へ走っている。
目に見える塔は意外と近く直ぐに着いた。
3の鐘がなった後だ、夜の鐘なので図書館が閉まっている可能性もある。どうしよう、タンポポちゃんは、まだ図書館にいるのだろうか?それとも閉館してしまい閉め出されているかもしれない。
僕が銀行で時間をかけなければ…考えても仕方ないので心を切り替える。入口を探し頑丈そうな金属の扉の前に立つ。
「ここかな?」
扉の横には本を型どったモチーフのプレートが壁から垂れ下がっていた。
扉の横の壁には注意書のような文章が書かれたものも張り付いている。そして、どこかで見たようなコイン型の窪みもある。
「えっと…何々?」
【図書館は常に開かれている。時を忘れて本を読みたいものは下の窪みにコインを1枚入れよ。
シール・ドハル】
ここに魂Pコインを入れるのかな?
ガチャンッ!
「おお!自動で鍵が解除されたみたいだ」
僕はゆっくりとその重い扉を押し中に入った。
中は暗すぎず明る過ぎない落ち着いた明るさで、外の騒がしさなど嘘のように静かだ。
本の独特の薫りと本棚の回りでする人の気配、時たま何処かで話し声がするが耳障りと呼べるものではなかった。
中庭街とは違い隔離した独特の空間。
僕は特に本が好きという訳ではないが…それでも、ここは本好きの楽園なのだということは理解できる。
大きな通路には3人掛けの長いソファが幾つか並び、そこで顔に本を乗せたままゴロリとねっころがっている黒と白のしましまの毛並みの獣人さんが尾尻をゆらし気持ち良さそうに寝ていた。勿論、ちゃんと本を読んでいる人も沢山いて寝ている人は一部のようだが…。
僕は毎度お世話になっている超視力スキルを使いタンポポちゃんを探す。本棚や柱が邪魔をして視界が悪いため、机と椅子の間を縫うようにキョロキョロとしながら歩き回る。
「見つけた、タンポポちゃんだ」
彼女は何階もある塔の2階にあたる場所、その机に本を開いたまま眠っていた。
待ちくたびれたのかもしれない、僕は申し訳ない気持ちになりながらも静かに彼女に近寄る。
机には《扉の色で見分ける世界の特色》と《あなたにピッタリの種族を知る》などのタイトルの本が並んでいた。
あまりにも、よく寝ているので僕は彼女を起こさずに近くの本棚を物色する。
「何々?《回廊の気難しい管理人の避け方》へえ、管理人って名刺をもらったチャイガさんもそうだよなぁ、変わった人だけど気難しくはなかったけど…。《樹海の正しい歩き方》《中庭街の食べ歩きガイド》って、タイトル見ると本の並び方が凄いバラバラだよね」
僕はタンポポちゃんの隣に座り彼女の読んでいた本を読むことにする。隣からスースーと可愛らしい寝息が聞こえる。
ああ、何だか落ち着く。やっぱり1人でいると悶々とするし色々と考えちゃうけど1人じゃないと思うとそれだけで心が満たされる。
パラパラと本を読み進めて行くと自分にあった種族がノーマルな人族になった。
因みに長命種族は向いていないらしい。もし僕がエルフになったら絶対に生まれてから死ぬまで森から出ないし、変化のない場所で石のように動かない生活をしそうだ。
それから何冊も目を通して無限回廊の世界の扉の数が恐ろしく多い事と、時と共に扉の数が増減を繰り返していることを知る。
この中から、たった1つの自分の生まれ変わる世界を決めるなんて本当に僕にできるのだろうか。
興味のある本に一通り目を通して、しばらくすると僕も1日の疲れがでたのかタンポポちゃんの寝息が心地よく、それに誘われるように眠くなってきた。
「ホウロウ!ホウロウ!」
僕はハッとする。
あれ?短い間だけど寝てしまったようだ。タンポポちゃんが僕の肩をゆすって起こしてくれた。
「あっゴメン、タンポポちゃん。銀行の用事が終わったから来たんだけと長く待たしてしまったみたいで」
「ポポナ、ちゃんと待ってた、嬉しい?」
彼女が僕の顔を覗き込むように聞いてくる。
「うん、ありがとう!タンポポちゃんは本をもっと読む?」
「ポポナ、本読む、疲れた」
「そっか、図書館を出る?」
タンポポちゃんはウンウンと顔を縦にふる。
「ホウロウ、空間収納、買う?」
「そうだね…買いたいんだけど、ここに来る時に夜の鐘がなっていたから外に出てもお店がやっていないと思うんだ。あれから鐘の音が聞こえてこないし」
タンポポちゃんは何か考えるようにして僕の手を引いて図書館から出ようとする。僕はそれに抵抗せずついて行く。
入った金属の扉をギィーと開き外に出ると道には魂人達が行き来していて賑わい、道沿いの店も開いている。
どういうこと?
1の鐘の音が聞こえなかったけど、こんなに鐘の塔に近いのに???僕が混乱していると彼女が説明してくれた。
「図書館塔、防音されてる、鐘の音しない、時間忘れる」
「そういうことか…そういえば【図書館は常に開かれている。時を忘れて本を読みたいものは下の窪みにコインを1枚入れよ】だったよね。鐘の塔の音が聞こえない仕様になっていたなんて知らなかった。少し寝ていたつもりでガッツリ寝ていたんだ。タンポポちゃん、教えてくれてありがとう」
タンポポちゃんはニコニコしながら僕の手を引いて街中を宝飾品、雑貨がある通りに誘導する。
人混みをかき分けながら何とかお店が並ぶエリアに到着した。
この時も僕はポンチョを羽織らず左手にぶら下げていた。あれから前のような視線を感じることもなくなり僕を見て驚くものも減った。
とても歩き安い。
やっぱりフード付きポンチョは三賢人の1人のトレードマークのようなものだったのかもしれない。空間収納付き宝飾品を買ったら、さっさとしまいたいとも思った。




