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25 そうだ銀行に行こう。

 僕達は銀行の前にたどり着いた。


 銀行というから、お堅い建物をイメージしていたが洋風のお洒落な建物で窓ガラスがステンドグラスのような質感でできていて果物や植物がデザインされている。


 ここ本当に銀行?

 よく見ると入口に看板があり魂Pコインを型どった物が張りついていた。

 ここで間違いなさそうだけど…入るのに勇気がいる。


「タンポポちゃんは銀行に用事ないよね、一緒に入る?」


 彼女は少し考えてから首を横にふる。ああ、一緒には来ないんだね。


「ポポナ、あそこ図書館、塔、本読む待つ」


 彼女が指をさしたのは近くに見える3つの塔の1つで一番左の塔。地図を見ると図書館と書いてある。なるほど、僕も一度は行ってみたいと思っていた場所だ。

 銀行はそんなに時間がかからないと思うし終わったら行こう。


「銀行で用事をすませたら僕も図書館の塔に行くから待ってて!!」


「ポポナ、待つ、ホウロウ嬉しい?」


「うん、待っててくれると嬉しいかも」


 僕はタンポポちゃんと銀行の前で別れる。


 最近、タンポポちゃんと行動を共にするのが当たり前になってきた。

 あまり長い間、彼女を拘束するのは良くないことだと分かっている。彼女も彼女で生まれ変わる世界を探さなければならないんだから…。でも、もう少し、もう少しだけ一緒に行動をしてもらいたい。

 

 僕がひとりになると停滞する未来が見える。


 前から、ひとりで人生を左右する事柄を決める事が苦手だった。進学もそれで最後まで行きたい学校が決まらず家族にどうするのか?と何度も聞かれて困り果てていた時に、友人が俺と一緒の学校受験すれば?と軽く言ってくれて、その言葉に救われた。


 人生を左右しないものは決められる。食べたいものとか着たい服とかは普通に選べる。でも、どうしてか人生の分岐点的なものは絶対に自分で決められない。どうしてなんだろう?何で友人は大事なことを決める事ができるのか!


 ずっと、不思議に思ってた。


 他者と自分の違い、それは何なのかと…でも、ここに来てステータスを視認して納得した。


 僕の称号、()()()()()()()()


 この称号はいつから僕についているのか分からないけど。無限回廊の住人にして魂の放浪者が放浪してたのは、この称号のせいじゃないの?

 いや、放浪していたから、ついた称号なのかもしれない。

 兎に角、日本人として生まれた最初から、この称号がついていた可能性が高い。

 僕って、誰かに決めてもらわないと転生先の世界を自分で選べないと思う。


 そうすると放浪者って、何をきっかけに転生する世界を選べたんだろう?だって、僕に転生しているんだから誰かに地球のある世界を進められたんだろうか…。


 ああ、この称号、消すことできないのかな!


 そういえばチャイガさんがお金を払えば、いらない名前を偽装屋で消せるって言ってたよね。称号はどうなのかな?そこらへん調べないと。


 僕はタンポポちゃんと別れてから、まだ銀行の入口に立っていた。あれ?考え事していたら時間が経過していたみたいだ。


 僕の悪い癖だ。


 タンポポちゃんの姿は何処にも見えない。


 僕は急いで銀行の入口の扉を手で押した。

 両開きの大きな扉をゆっくりと開き覗いてみると壁際に、お洒落なデザインのソファが並び、窓の前には美しい花が花瓶に飾られていた。明るい店内はホテルのロビーのようで落ち着いた空気が流れていて高級そうな絨毯の上をゆっくりと歩き、辺りを見回す。


 客はあまりいないようで1人か2人だった。


 僕が受付らしき正面のカウンターに着くと、チャコールグレーのスリーピースのスーツを着て白い手袋をした男が笑顔で出迎えてくれた。彼の頭には山羊のような角があり、グレーの髪を後ろで一つにまとめている。


「いらっしゃいませ御用件をどうぞ」


「あの、初めてなのですが魂Pコインを預けに来ました」


「初めての方も、そうでない方も来店時の手数料として1(こん)P頂きます。よろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


「それでは、こちらの機械の丸い窪みに、目の前で(たましい)ポイントからコインを取り出して置いてください。その際に他人から譲渡されたものは使えません。使いますと違法になりますので罰金の対象です御注意ください!」


 山羊獣人さんでしょうか?キビキビと説明する。


 僕は彼の指示通りに体内からコインを取り出し手のひらから機械の窪みに置く。


 コトリ。ガチャン。


 コインは窪みにはめると中に取り込まれ消えてしまう。これで、あっているのだろうか?

 しばらくすると、レジのレシートのような物が印字されて出てきた。それを山羊獣人さんが手に取り別の機械で何かを照合していた。


 彼は何度も手元の紙と機械を確認してから口を開く。


「お客様、失礼ながら、お客様は当店をご利用された過去があり現在、魂Pコインを預かっております」


「えっ僕、利用していたの?残金があるんだ。本当に?」


「はい、本当でございます」


 僕は驚いたが記憶にないだけで、そういうこともあるのかと納得する。


「いくらぐらい預けていますか?」


「しばらく、お時間を頂きますがよろしいでしょうか?それと、お客様は前回お名前を登録されてないご様子、お名前を伺っても?」


 僕が気軽に聞くと山羊獣人さんは言った。


「あっはい!ボーク・ホウロウでお願いします」


「はい、ボーク・ホウロウ様ですね」


 彼は機械に僕の名前を登録しているのか何かを操作する。


「登録させて頂きました。それでボーク・ホウロウ様、こちらの部屋でしばらくお待ちください」


「あっ、はい」



 そして僕は、背の部分が複雑にデザインされたアンティーク風の二人掛けソファに座り、何故かしばらくして出された紅茶と果物と小さなケーキがのっているケーキスタンドを前にして落ち着かない気持ちでいる。


 今、僕、銀行で残金を確認しただけなのに別室に呼ばれお茶とケーキを頂いています。




 タンポポちゃん!銀行は意外と時間がかかりそうです。



 豪華な個室に案内されてから、することがないので紅茶とケーキを食べる。

 紅茶の香りが心を沈め甘いクリームが緊張をほぐす。一息ついた所でノックの音がする。


「はい」


「失礼します。お待たせしました」


 ガチャリと扉が開き先ほどの山羊獣人さんがトレーに小さな紙を乗っけて歩き、それをテーブルに置く。


「こちらになります」


「これは?」


 トレーの紙には数字が並んでいた。それを僕は二度見した。


「残金565,646Pになります」


 僕は思わず息を飲んだ。


「何か…の間違いでは?」


 並んだ数字の意味が分からなかった。

 桁がおかしい。


「いえ先程、至急計算し預金額を割り出しました。今期はこの金額です」


 少し頭が痛くなってきた。()()()()


「来期だと金額が変わるんですか?」


 僕はつい尋ねてしまった。


「勿論です。銀行建設時の創設メンバーですので創設時の資金援助額と利益の一部が還元されたものになります。創設者代表コイン・ワ・スキー様より、そのように指示されております」


「はぁ…そうですか?僕は創設のメンバーなんですね。そうなんですか…」


 ああ、何だろう。お茶で癒えた心が締め付けられるように痛い。前の僕、何してるの?どうやって、援助資金稼いだの?!怖いんだけど…。


「はい、先程の魂Pコインにより魂の波動が一致しました。間違いありません!」


 彼が胸を張り断言する。


 胃も痛くなってきたような気のせいかな。


「あの、創設者代表のコイン・ワ・スキーさんとは会って話を聞くことはできますか?」


 過去に何があったのかの話を当事者から聞けば、安心できる要素も見つかるかもしれない、僕はいちるの望みに希望を見いだした。


「申し訳ありません。お会いできません」


「やっぱり、お忙しいとかですよね」


 彼は僕の勘違いを正そうと首をふる。


「コイン・ワ・スキー様はスキー一族ですので無限回廊の中庭街に勿論、()()()()されていました。ええ、数百年前までいらっしゃったのですが…通貨のデザインが複雑かつ技術が高い、各国全部が独自の異なる通貨を多様している世界を()()()見つけてしまったんです。引き継ぎもそこそこで彼は直ちに回廊に飛んで行き()()()()()()()


「旅立たれた…」


「ここでは旅立つとは生まれ変わることです。今頃、大好きな通貨の収集やコインのスケッチをして人生を謳歌しているはずです。当然、短命種族だと堪能できないので長命種族になると言っておりました。スキー族ですし多分こちらには、早々お戻りにはならないかと」


 山羊獣人さんは申し訳なさそうに、それでいて丁寧に僕に現状を教えてくれが衝撃的な事実に心をやられ僕は現実逃避する。



 頭痛が悪化してきたかも…あぁ誰でもいい!僕が知っている人に今すぐ会いたい!!気持ちを落ち着かせたい!!


 そうだ!タンポポちゃんが待っている。僕は細かいことは忘れることにして、この場を直ちに去ることにした。


 そう細かいことは考えない絶対!


「すみません、とりあえず半分おろします」


 普段の僕なら絶対にしない決断。

 いつもの僕なら、いくらおろそうかと長々と考えた末におろさないという道をたどる。

 

 でも今の僕は考えない。


 早くここでの用事を済ます。ここから出る。そして待たしているタンポポちゃんに会う。


 これだけ!大事なことだけを心の中で思考する。


「ありがとうございました。また何かご用の時は、お立ち寄りください」


 僕の担当をした山羊獣人さんには悪いけど、僕は手続きを終え簡単に挨拶をすると左手にポンチョを抱え逃げるように、その場を後にした。




 ゴーン、ゴーン、ゴーン。




 直ぐ近くの塔から、大きな鐘の音が僕の行動を後押ししてくれるように鳴った。


 そして夜を知らせる鐘の音が僕の耳にいつまでも残った。



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