20 ポポナと穴場で狩りをする。
僕とタンポポちゃんは、あれから門を出て彼女の種族固有魔法により空を浮遊している。
レイブンで空の旅は慣れていたが彼女の浮遊魔法は少し変わっていた。
「ホウロウ!手をつなぐ、空を飛ぶ、安全」
彼女は僕と手を繋ぎ安心させるようにニッコリと笑う。
『遊覧飛行!』
彼女が魔法の言葉を叫ぶと僕とタンポポちゃんの体がふわふわ中に浮く。
気がつくと風の抵抗もなく樹海の木の上を一定の速度で移動していた。
樹海は道もないから普通に進むと方向がわからなくなり目標を見失う、なので移動は空を飛ぶのが定番らしい。
僕も空を飛べるスキルとかとった方が良いのかな…。
しばらく二人で手を繋ぎ浮遊していると、やっぱり同じように空を飛ぶ魂獣が僕達を獲物と認識して接近してきた。
「タンポポちゃん!後方から何か来た!」
僕の超視力スキルで早い魂獣の動きをとらえる。すると、彼女は焦らずに髪から伸びたフヨフヨしていた触手を素早く伸ばし、後方から来たワイバーンをペシリといなす。
ぐぎゃーーーー!!!
ワイバーンは巨体のバランスをくずし森に落ちていく。
「凄いね…軽く当てただけで、やつけちゃうんだ」
僕は彼女のふわふわした外見からは想像出来ない強さに驚いた。
「ホウロウ、私の触手、痺れ毒ある。触ると動けない、落ちる」
「そうなんだ、僕もうっかり触らないように気をつけるよ」
知らずに触っていたら、ヤバかったんじゃないか?そういうの先に教えて欲しいかも。
「ポポナ、空中クラゲ獣人、普段は毒、出さないしてる、安全」
「あっ、そうなんだ」
それから、僕達を度々魂獣が襲ってきたが皆、タンポポちゃんが触手で叩き落としていた。
凄く頼もしい。
「ホウロウ、ついた!湖」
タンポポちゃんが下に広がる湖を指でさして、高度を下げる。
僕達は湖の真ん中にある小島のような場所に降り立った。その小島には何処かで見た石像が三体あり噴水が流れていた。
「あれ、湖の中の小島に安らぎの泉がある?」
「ホウロウここ安全、背中に泉、道具使う」
ここで、あの道具を使うってことは…。
タンポポちゃんは頭についた太陽のようなキラキラした髪飾りにふれ、そこから街で僕が買った道具を出してくれた。
「髪飾りの空間収納って便利でいいね」
「これ、前、ホウロウくれたコイン、余りで買った。ホウロウ、ありがとう」
彼女は嬉しそうに髪飾りの位置を直す。
凄く高そうな空間収納付き髪飾りの御値段って、どれぐらいするんだろう?しかも、余るほど魂Pを渡したって…、それって本当に前の僕なのかな?
そんな甲斐性が前の僕にあるとは思えないんだけど、魂ポイント稼ぐのに他人に頼りっきりの僕なのに?!宝くじでも当たったとかなら信じられるけど、中庭街に宝くじとかあるのかな…。
僕は中庭街で購入した釣竿とバケツを持ち、タンポポちゃんが指定した場所に座る。
「天の滝、落ちる新しい魂、ここの湖来る。スキルない安全、狩る」
タンポポちゃんが言うには、天の滝で誕生した新しい魂がここに自然に集まっていて、まだスキルを持ってない魂だから安全に狩れるという事らしい。
生まれたばかりの無垢な魂を狩るのって、少し残酷じゃないかな…とも思うけど、ごめんなさい僕はタンポポちゃんの提案をまるっと呑みます。
背後の安らぎの泉、安全地帯に入らずギリギリの場所に自分は立ち、釣竿を湖に向ける。
餌は魂Pコインをパキッと半分にしてコインが刺さる特殊な金属でできた針にさしてある。これで魚型の魂獣が食いつくらしい。
あとは釣竿を目の前の湖に投げ入れ静かに待つだけ。もし危険を感じたら、一歩後退すれば素早く安全地帯に避難できる。
僕は湖に釣竿をたらしのんびりと景色を堪能する。ここが無限回廊の中庭でなければ最高のシチュエーションなんだけどね。だって、緑にかこまれた森の美しい湖畔でのんびり釣りをしているんだから。
森から出てきた魂虫や魂獣は一度、僕達をちらりと見るが安らぎの泉だと気がつくと、そのまま何処かへ消えて行く。
タンポポちゃんは釣りをしないで僕の様子を安らぎの泉の噴水のふちに座り眺めていた。
二人だけの静かな時間が森の中で進んでいく。
森に囲まれた湖の水面が美しくキラキラ光に反射していた。
僕はフードを外してタンポポちゃんが見つめる中、釣竿にかかった魚型魂獣を釣ってはバケツに入れるという作業をしている。
魂Pコインにひかれて針を呑み込む魂獣は意外に多く、短い時間に5匹ほど釣れてしまった。
釣った魚型魂獣は水の入れていないバケツに入れるとピチピチと跳ね、しばらくすると弱く光る魂石になった。
1匹につき50ポイント以上の魂ポイントが増えるため、僕の所持ポイントが474ポイントになる。
この時、小さな幸せスキルが発動していた。死ぬ直前に「幸せだと思うことをまだまだ…いっぱい感じたかった…」と強く思い、それが魂に響いたことにより無意識に全魂ポイントを消費してこのスキルをとっていた。それにより壱の門に魂石状態で出現するはめになっていたのだが…僕はこの事実に気がついていない。
釣りというな名の狩りが順調に進み、後ろのタンポポちゃんを振り返ると彼女は泉の噴水の縁に横になり寝ていた。
タンポポちゃんと成り行きで行動を共にすることになったけど、彼女は変わった子だと思う。
空中クラゲ獣人だと言っていたけど、ふわふわした髪や服装なのにワイバーンをものともしない強さ。
寝顔は無害そうな少女のそれだ。
クラゲというより野良猫みたいだなと思う。
しばらくすると湖の回りが暗くなってくる。
霧だ。
また、空から滝が落ちてきているのだろう。周囲に濃い霧が立ち込める。僕は後ろのタンポポちゃんを見たがギリギリ彼女が見えるぐらいの濃い霧だ。
辺りは霧のせいでひんやりとした空気になる。この暗くなり視界が狭まる霧はどうしても慣れない。前回、この霧の後に2両編成の魂獣と出会ったのがトラウマになってしまったのか?
ただの霧だけど、早く晴れて欲しい。
僕は身動きせずに霧が晴れるのをただ、じっと待っていた。
時間とともに霧が晴れてくる。
僕は視界が確保できてほっとする。そして、正面の湖に向き釣竿をふるう。その時、僕の右側でも同じ動作をするものが目に入る。
僕はビクッとして動く影に視線を合わす。すると影も僕の存在に今、気がついた様にこちらを向く。
それは、ひょろっとした長身の明るく短い茶髪の癖っ毛の男だった。
男は細い糸目で微笑み軽く会釈してくる。
僕も慌てて会釈し返す。
男も釣りが目的らしく僕より立派な釣竿で便利そうな折り畳み椅子や他にも道具が回りに置いてあった。
一見、人間のように見えるが肌の色が白い。それに僕の超視力スキルは、男の口に少し突き出た犬歯をとらえている。そう少し吸血鬼みたいな感じの。しかも、釣りには場違いなワイシャツにベスト、スーツのズボンの下をはいている。よくみると椅子の背にスーツの上着がかかっていた。まるで仕事の合間に釣りに来たような格好の男。
僕は糸目の男をできるだけ見ないように意識する。絡まれたら怖い。
「ホウロウ、釣れてる?」
「あっ、タンポポちゃん」
タンポポちゃんは、いつの間にか僕の側でバケツの中をしゃがみこんで覗いていた。そして、触手だけが僕と糸目の男の間にフワフワと浮いている。
タンポポちゃんも怪しい糸目の男を警戒しているらしい。とりあえず、今のところ男は釣りにしか興味がないようなので何もなければよいのだけれど。




