19 酒場で耳を傾けよう。
ボークとポポナは出てきません。
中庭街の赤レンガの道を軽快に歩く黒髪に金の差し色が入った髪色の男。ワインレッドのアンシンメトリーなデザインの服が風にゆれていた。
ボークと別れたレイブンは地図を片手に街中を散策していた。
普段なら必ず地面から少し浮いた浮遊スキルを必ず使うのだがここは安全地帯、レイブンは珍しく地に足をつけ歩いていた。
前の時と建物の違いがどれぐらいあるか?をまずは確認して歩く。相変わらずスキー一族が持つ店は前回と同じ場所にあった。それ以外は殆んど新しい店や名前に変わっていた。やっぱり情報屋の場所は全部違っていて同じ所には無かった。
あのエルフの地図は、こっちのを買って正解だ、これがなければ情報集めに苦労する。
俺は街中をしばらく散策すると2の鐘の音を聞く。入った門とは違う近くの門に向かい今日の狩りをする。最初から黒い羽を広げ剣を片手に樹海へ飛び立ち、あらかた目星をつけて丁度良い獲物を数匹狩り今日の酒代を稼ぐ。この稼ぎを元手に酒場で無限回廊の世界の扉の情報収集をするのが今日の目的だ。
本格的に情報屋を使っても良いのたが割高になるし、事前に簡単な情報集めをする事でそれから上手く欲しい情報を引き出す手立てにもなる。事前準備に適した場所それが酒場だ。
レイブンは、そんな感じで狩りをしては3の鐘に酒場に足を運んでいた。
「今日は、ここにするか…」
彼は中庭街で一番大きな酒場の前で足を止める。
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ここは中庭街で一番広い石作りの酒場、小学校の体育館並みのスペースにテーブルと椅子が無造作に置かれている。
入口から入ると壁際に幾つものカウンターが種類別に並んでいて各々売り物が違っていた。自分で欲しいものを買ってきて真ん中のテーブルゾーンで好き勝手に食べる。
フードコートのようにセルフサービスで客らは酒やつまみを片手に知り合いの魂人と話をし楽しんでいた。
レイブンも酒とつまみを買って適当なテーブルと椅子を選び、そこに座る。外でそれなりにポイントを稼いで懐には余裕もできた。
今日は、ここで軽く情報を集めたい、その為に彼は聞き耳スキルを50ptで取得した。このスキルは地獄耳100ptの下位のスキルにあたり、同じ室内の会話のみ小さな声も聞き取れる。つまり情報収集に最適なスキルになる。
レイブンは自分を鑑定する。
名前 レイブーン・フリューゲル・クローバー・ルルリヤ
種族 翼人族※魂人
魂pt 428pt
スキル 念話 鑑定 浮遊 魂の記憶 言霊(力のある言葉を発する。一度口から出た言葉は二度と口に戻らない、言葉に気を付けよう) 聞き耳new!
称号 空の王者(空中にいる限り他者からの攻撃では致命傷を負わない、だが地に落ちた者に安息はなし)
レイブンは無事に聞き耳スキルを取得できた事と現在の魂ポイントを確認し、このスキルで各席の話の内容を順番に聴いていくことにする。
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「おう、最近どうだ」
「そうだなボチボチだな…それにしても相変わらず中庭街はスキー一族が顔をきかせているなぁ」
「あの一族がいた世界も昔に滅んだんだよな?最近、ふたつの世界が無限回廊から消えたらしいぞ」
「本当か!」
レイブンは興味深い話をするテーブルに耳を傾け静かに酒を口にする。
世界の滅亡は特に珍しいことではない。逆に新しい世界の誕生もあり両方とも、その度に無限回廊が収縮や膨張を繰り返す。だから、自分の生まれ変わる世界を決めるのに情報が重要になる。
レイブンが幾つかの話に耳を傾けている時、突然、酒場に走り込んできた短髪男エルフが1つのテーブルに走りより息を切らせながらも、そのテーブルの黒豹獣人と髪が綺麗に編み込まれた女エルフに大きな声をあげ駆け寄る。
あまりの声の大きさに回りの客も振り返る。
「どうした?そんなに慌てて」
「あら嫌だわ、少し落ち着かれては?」
はぁ、はぁ。短髪男エルフは息を整えて言う。
「探しましたよっ!協会長ー大変なんです!マップ売りの1人が奴をここ中庭街で目撃したそうなんです。私では判断がつかなくて協会長をあちこち探し回ったんです。今度っから行き先ぐらい誰かに伝えてください」
「あらあら、ごめんなさい。それで誰を目撃したのかしら?」
協会長こと編み込みエルフは白い果実酒のグラスを持ち上げる。
「放浪です」
ガタッ。
黒豹獣人がその言葉に反応した。
顔全体が黒い毛皮でおおわれている彼なのに動揺しているのがわかる。黒いしなやかな尻尾が床をビタン、ビタンと叩く。
「あら?放浪って、あの無限回廊の住人とか、魂の放浪者とか言われている魂のことを言っているんじゃないわよね。だって、あれは私の知る限り何百年、へたしたら何千年以上も前から回廊をさまよっていて…」
「その放浪者です」
短髪男エルフがハッキリと言う。
「まて、俺の方でも最近、無限回廊で放浪を見かけないという報告が少し前にあった。本人かどうかの確認が必要だが…対策が必要になるぞ」
黒豹獣人は中庭街の情報屋のトップをつとめる男、彼がそういう判断するにはそれなりの理由があるに違いない。
「無限回廊の放浪者って実は三賢人のひとりよね?」
「そうだ」
「…………」
3人の間に緊張が走る。
ガタガタッ。
黒豹獣人と編み込みエルフは席を立つ。
「直ぐに対策会議を開く、場所を確保したら連絡するから君も来てくれ!」
「分かったわ、マップ売り協会の幹部と向かうわ。その前にドワーフ技術開発連盟にも声をかけるけど良い?」
「頼む、俺は放浪に関する情報を至急まとめて持っていく」
話し終わると3人はバタバタと酒場を飛び出した。
残されたのは3人の話を聞いていた周囲の客たちとレイブン。
「放浪って言ってたよな…」
「ああ、たまに無限回廊ですれ違う魂人だな…あれに問題があるのか」
「おい、三賢人って安らぎの泉の石像のデザインになっている三賢人だよな?放浪って三賢人だったのか?」
「いやー知らねぇけど、三賢人って実際にいた魂だったんだな…」
「でも、情報屋のトップが慌ててたし」
「俺、ちょっと図書館で調べものしてくるわ」
「まてよ、俺も行く!」
バタバタと1人また1人と酒場から人が去り、がらんとした酒場でレイブンは顎に手をそえて1人考える。
無限回廊の放浪者か…俺は会ったことがないけど、三賢人の1人と放浪者が同一人物という情報は覚えていて損はないだろう。それに情報屋が対策会議とやらをこれからするのだから、その後にその情報を買えばいい。
レイブンは考えがまとまると残りの酒とつまみを腹に入れ、これ以上はここで情報収集は無理だと見切りをつける。
そして、閑散とした酒場を後にした。




