12 中庭街の酒場にて
無限回廊に囲われた広大に広がる樹海。その中に幾つもある安らぎの泉という安全地帯。そのうちの最大規模の存在が中庭街。
中庭街では魂人(人型)と呼ばれる魂が主に活動していて、そこを拠点に周辺の森へポイントを狩りに行く者、街中でポイントを働いて稼ぐ者に大まかに別れている。
街の中央には多様な機能が集まる場所もあり、中心部には三つの塔が建っている。そのうちの1つは時刻を知らせる鐘がある塔で、今日も街に鐘の音が響きわたる。
昼も夜もない無限回廊では時間の流れをつい忘れがちになる。それをあえて忘れない為に街では意図的に鐘を鳴らす。
ゴーーーン!ゴーーーーン!ゴーーーーン!
鐘が3つ鳴ると夜の合図。ぼちぼちと酒場の営業が始まる時間。
魂たちに飲食は必要ではない。
無くても困らない。
生きていないのだから当然のことなのだが…でも、中には生前の記憶に引きづられる者たちがいる。ここに長いこと滞在する多くの魂は毎日の活動に刺激を求める。それが美味しい食事、甘味、酒、ファッションなどで死んでも、それらを渇望するものは多くいる。彼らは皆、貴重なポイントを刺激の為に消費する。
今日も中庭街の酒場で魂たちが魂ポイントを金銭に変え消費して酒を飲む。
ここは街で特に大きくもなく小さくもない並みの広さの酒場。それなりに繁盛しているのか店内は、にぎやかでグラスのぶつかり合う音や怒鳴り声など様々な音がして騒がしい。
その中で二人の男が酒を飲みに酒場を訪れた。
肌に所々鱗が見えるグレーの短髪の魂人と、髪がやたらと長く床についていて床の掃除をしてしまうのでは?と思われる程の超長髪の深緑色の髪の魂人、こちらは腕に複数のトゲのようなものが生えている。
「おっちゃん、いつものやつくれ!」
「私は辛めの果実酒と今日のおすすめにする」
二人はこの酒場の常連なのか酒場の亭主に気軽に声をかけた。亭主は背中の棚から蛇口のついた大きな樽を選び、そこから酒をグラスに注ぐ。
「はいよ、まずは飲み物だ。食い物はクコが席に運ぶから座ってまてろ」
亭主がカウンターにグラスを2つ置き、鱗の魂人がそのグラスを受け取る。かわりに代金のコインを2枚置くと亭主は受け取ったコインを手のひらにのせた。それは手に吸い込まれるように消えていく。
毎日当たり前に繰り返される酒場の日常の光景。
「うめー、仕事終わりは、やっぱり麦酒だよな」
「ここは食べ物の品数は少ないが酒は多種を扱っているからな…どうしても、足がここに来てしまう」
二人は空いている席につき、いつものように酒と会話を楽しむ。
「酒はベテラン亭主のスキル。食べ物は新米クコちゃんのスキルだからしょうがないよ」
二人がしばらく話をしていると、赤い茶髪で肌は緑がかった白で体には新緑の葉が服のように貼り付いている女が料理を運んでテーブルに置く。
「お待たせしました。足長鳥の蒸し焼きと巨大魚の塩焼きです」
コトリと大皿を置くと女はさっさと奥に戻っていく。二人はまた話はじめる。
「あれだろ、クコちゃんは料理スキルを取得したばかりだから、まだ熟練度が低いんだよね。素朴な料理だけど、それでもやっぱりスキル持ちだよね。美味しいしさ!」
「おい、それより聞いたか? あの噂」
超長髪の魂人が声を押さえぎみに言う。
「なんだ、新しいスキー族でもあらわれたか?」
「いや違う、最近地震が立て続けにあっただろう」
「あれか…あの揺れは、やっぱり地震だったんだな。気のせいかと思っていたんだが」
二人は真剣な顔でお互いの顔を見る。
「あの後、情報屋に行って確認したが…やっぱり無限回廊の収縮による森への振動だったみたいだ。2つ程、世界が消滅したらしい」
「げっ!短い間隔で2つもか…。恐ろしいな、その世界を選んで早々と転生した後じゃなくて良かったよ」
「本当だな、せっかく貯めた魂pで生まれ変わる世界を選択したのに、その世界がハズレだったら辛いな!」
「だよな…まあ情報収集とあとは運したいだが」
苦いものでも食べてしまったような顔で男は言い、鱗の魂人が持ってきた果実酒をぐっと飲みほした。
「それでだ。確定ではないが原因は、邪神による暴走か魔王による世界を巻き込んだ自滅か…と言われているらしい」
「なるほど、だからか。最近、無限回廊の大門に魂石がゴロゴロとやたら大量にころがっていたのは!世界の滅亡に巻き込まれた絶望した魂が自身を摩耗させ、無意識に魂ポイントを削ってしまったんだな。ああは、なりたくない…」
「おい、お前の千里眼は、ここから大門まで見えるのか?聞いてないぞっ!」
「言ってないからな」
鱗の魂人の腕を掴み、前のめりになりながら超長髪の魂人は声を荒立てる。それからも二人の魂人は酒の追加を頼み、長々と世間話を酒の肴にして話込んでいた。
今日もまた、夜のこない無限回廊の中庭街では、刺激と情報を求めて様々な魂たちが集い酔いしれている。その多くの魂たちは望む世界への転生を夢見ながら…。




