10 三賢人の語らい。(過去編)
昔、無限回廊には門と回廊と広大な森しかなかった。
樹海のど真ん中にはポツンと草原が広がり所々に岩が存在するぐらいで他には何もなかった。
※※※※※※※※
女はひとりで樹海を歩いていた。
ポンチョのフードをかぶり軽快な足取りで鼻歌を歌いながら楽しそうに…ただ女の通った後には青い炎で焼かれた地面があり、燃え尽きたと同時にその残骸が一瞬で凍りつく不思議な現象が起きていた。
それに巻き込まれた魂達は皆、黒く焦げたあとのある凍った魂石になった。
森の中に物が焼ける音と火が消え凍る音、それらが不気味に響く。
恐ろしい音に気がついた魂は必死にその場を離れ、それに遭遇した魂は女を歩く最悪、歩く絶望だと認識した。
「わあ~ポイントが凄いいっぱい何に使えばいいんだろう。困ったな!」
女の歩いた後には魂石で道ができる。女はそれらを気にする素振りもせず、ずんずん前に進んでいく。
しばらくすると森が切れ草原があらわれた。女は体から出る異様な力を消して歩く。もう、足の下の地面が焼かれることもない。
ふと何かに気づいたのか女は口元を緩めた。そして今度は遠くを見つめ静かに歩きだした。
※※※※※※※※
草原の中央で筋肉質な男が叫んでいた!
「すげげー!!これだけの広さが有れば城壁とか城とか…何でも建てられるぞーーー!くそー建物たててぇ!!!」
肉体派なおやじが体全体で騒ぐ。
その男の横をフードをかぶり顔がよく見えないが色白の女が横切る。女は通りすがりのおやじの叫びを聞きながら何か考えるように通りすぎる。
すると、今度は近くの岩から声がした。
「うるさいな~!せっかく樹海の中心部に静かに本を読める場所を見つけたのに、何だよ!おっさん、ケンカ売ってるの?はぁ~売ってるなら買うよ!ねえ、魂戦するの?」
よく見ると岩の上に魔法使い風の長いローブを着た青年がいた。
彼は読んでいた本をパタンと閉じる。
すると手にもっていた本がパッと何処かに消えてしまう。たぶん、青年の所持しているスキルの効果だろう。
青年が岩から飛び降り筋肉おやじに冷たい眼差しを向けると、おやじは両手をあげて、あせって弁解しようとする。
しかし、問答無用で魔法使いの青年は右手に魔力を集め、筋肉おやじに狙いを定める。
このままでは不味いと思ったのか、おやじは両手のひらを前方にかざし身構える。すると、おやじの濃い土色の両手が大きくなり二つの金属の盾になった。
青年の放たれた魔力の玉をそれが弾く。
ガキンッ!
ジュッ!
魔力の玉は誰もいない場所に弾かれ地面を焦がし消滅した。
青年の舌打ちが辺りに響く。
「体を金属に変える鉱物種族か…初めて会ったが相性が少し悪いか」
青年は一旦攻撃をやめる。それを見たおやじは盾の手を元の人間の手に戻し相手の誤解を説こうと口を開くが、その二人の間にフードを被った女が突然、立ち入った。
女は美しいコバルトブルーの長い前髪から、多色性の緑の瞳をのぞかせて言った。
「おじさんは、ここに建物を作りたいみたいですよ」
呑気に女が口を挟んだ。
おやじも突然の乱入に驚くが話の流れをみまもりつつ相槌を打った。
「なんだ女か? じゃー女が魂戦したいのか?」
「いいえ」
女は首を振る。
「私、良い事考えついちゃいました」
フードを深くかぶり前髪が長いため、その表情は読み取りづらいが好戦的な様子もなく場の空気を変える、ほのぼのとした声が二人の耳に届く。
女は、おやじを見て次に青年を見て言った。
「貴方は建物をここに作りたい」
「貴方は静かに本を読む場所が欲しい」
「そして私は貯まってしまった膨大なポイントの使い道が欲しい」
「お嬢ちゃんは何が言いたいんだ?」
たまらず、おやじが口を挟むと女はニッコリと笑う。
「つまり、それをここに作っちゃいませんか?三人で!」
「「はぁーー?」」
おやじと青年は同時にポカンとした顔をした。
それから険悪だったおやじと青年、それの間に飛び込んだ女。三人は長い間、話し合い協力して、ここに巨大な条件結界付きの街を建設することになる。
魔法使いの青年は、その知能をいかした複雑な結界スキルを複数取得し。
建物の建設に詳しい筋肉おやじは建築資材を生成するスキルを取得し、近くの岩や土を資材に変化させ。
女は、あまりに余った魂のポイントを二人に譲渡してスキルを取らせ、自分は二人が安全地帯(魂戦できないエリア)の構築をするのを眺めて、ニコニコと楽しそうに完成を見守っていた。
その後、三人が作った街は魂の安らぎの場所になる。また、女のたっての希望で樹海の中にも小規模でスポット的な安全地帯をつくることにもなった。
何でも次に、また死んでここに来た時に門から中央の街まで距離がありすぎる。だから中間地点にも自分の為に安全地帯が欲しいらしい。
あれだけの魂のポイントを所持している女に、それが本当に必要かは分からないが言われるままに二人は行動した。
大量の貰った自由になるポイントで多くのスキルをとり、やりたい放題ができる権利を取得したため細かい事は二人の男にとってどうでもいいことだった。
そして、頼まれた筋肉おやじが異常に乗り気で、調子にのって三人をモチーフにした噴水をいくつも作り青年に、そのつど結界をはらせていた。なんてことにもなった。
結果として、それらは魂達に安らぎの場所を提供することになる。
時と共に三賢人と呼ばれた彼らは各々の願いを叶え、それをしばらく堪能した後、新しい世界に旅立つ為に無限回廊に消えていった。
再び彼らの魂が無限回廊で偶然出会う事はもうないかもしれない。
何故なら魂の数は無数で世界も無数だから…。
それでも三賢人の像が安らぎの泉で疲れた魂の訪問を優しく見守っている。
石像として変わることのない姿で仲良く三人並んで…。




