9 安らぎの泉にて休憩。
昔、あの世には魂の安らぎの場所がなかった。
無限回廊にかこまれた樹海(中庭)では常に魂達が争い、魂のポイントの奪い合いをしていた。
その森の中心部に岩と草しかない草原があり、それは上から見るとドーナツ状に広がる樹海にポツンと穴が空いたように見える。
そこで三つの魂が出会い、それがはじまる。
1つの魂は言った。
何故、ここに建物がないのか?と。
1つの魂も言った。
何故、ここで静かに読書が出来ないのか?と。
それを聞いたもう1つの魂が言った。
なければ作りましょう!と。
1つの魂は建物を作り、1つの魂は結界を張り、1つの魂は身をけずり、魂の安らぎの場所を作ったと。
これがあの世で有名な三賢人の始まりとなる。
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(三賢人は中心に中庭街を作った後、樹海にも中継地点的なものが必要だと考えた…それが、ここ安らぎの泉ができた所以だ)
そう言ってレイブンは今いる場所の説明をしてくれた。
僕とレイブンは今、安全な場所にいる。
半径2メートル位の丸い噴水がなぜか…森の中にポツンとあった。
彼の話によれば、このような場所が中庭の森には複数点在していて、この場所の結界範囲内では魂のポイントの奪い合いが出来ないらしい。そういう結界がはられているんだとか。だから、勿論、魂戦にもならない。
つまり、安らぎの泉は魂が一息つける場所となっていた。
僕の目の前にある噴水には中央に三人の像が飾られている。
真ん中には髪が肩ぐらいのフード付きポンチョをかぶった半ズボンにロングブーツの女。その右に、これまたフード付きの長めローブを着ている本を持った魔法使い風の男、こちらはフードを被っていないので顔が見えるが青年のようだ。左には、ほぼ上半身裸でローブを肩にかけ、ダボついたズボンをはいた筋肉質な男が立っている、いわゆる太マッチョだ。二人に比べて体の厚みが全く違った。
不思議なことに三つの像はどれも特徴的な種族を表すものが見当たらず、一見人間に見える。ただ、石でできた物なので瞳、髪、肌の色などは不明。
そんな三人は三賢人と過去に呼ばれ、複数ある泉と中央にある街を作るという偉業をなしとげた有名な魂達らしい。
両方とも今では多くの魂が安全地帯と認識して活用しているとか…。
それにしても賢人といっても色んなタイプがいるんだなと思う。
(凄いね、その人達のおかげで今、僕達は一息つけるんだから)
(ああ、俺は三賢人には会ったことは無い…まぁ…昔の話だからとっくに転生しているだろう。死後、ここにまた来てても同じ姿だとは限らないし、会っても分からないだろうな…魂の数が多いからな!)
僕とレイブンは噴水のふちに近付き、のんびりと話をしていた。
ここには朝や夜がない。
空は、いつも白く明るい。雨も降らない。雲だって存在しない星も太陽もない。空全体が明るい曇りの日のように白いから基本的には常に明るい。たまに霧がでると薄暗く視界が悪くなるけど。
つまり、ここでは晴れか霧しか天候が変わらない。また、魂には睡眠も食事も必要はないらしい。でも、疲れたら寝てもいいし食べたかったら食べても問題ないとか…食べ物があればだけど。
そして今現在。僕の姿は巨大なトカゲの魂獣。レイブンは黒い鳥の姿の魂獣だ。
(それにしても、お前凄いよな…)
彼は誉めているのか馬鹿にしているのか?わからない口調で話す。そして僕はさっきの事を振り替える。
(まさか、僕が疲れて止まった細い枝が魂虫だったとは思わなかったよ)
(だよな…あれ、枝に擬態した虫だよな…お前の重さでポッキリおれて)
(いうなーっ!僕の体重が増えたのは多分食べ過ぎだから、レイブンのせいだ。僕にばっかり蜜や木の実を食べさせて見ているだけなんだから!)
(本当にひどい!!)
コモドオオトカゲのような荒ぶる巨体のトカゲ。それの上に黒い鳥が飛び乗り、ご機嫌伺いをする。
(まあ、良いじゃないか。お前のおかげでポイントは着々と貯まったし、俺、あくせく働くの嫌いだから、あと蜜なめたら汚れるだろ?口の回りが)
(潔癖か!そういえばレイブン、会った当初から地面に降りない。今も枝に留まっているか飛んでるか、僕の上に乗って移動だよね。もしかして地面に降りると汚れるから嫌だとかじゃないよね)
(………)
(………)
しばらく二人は無言になる。
(あれだ…わかるだろう適材適所だ)
怒ってプンプンした僕をなだめるように黒い鳥がピュルルルと鳴く。意外と可愛い鳴き声だ。
僕は喉の渇きを感じ泉の水をペロリとなめた。水は冷たく美味しかった。
この時点で僕は53ポイント。レイブン94ポイント。
この噴水は安全ゾーンだから周囲を気にせずにのんびりできる。
ここでは魂のポイントの奪い合いはできないのだから、敵の存在を探ったり回りを警戒しないですむ。死んでから緊張しっぱなしだったから、この安らぎの泉には感謝しかない。
はぁ~と呑気にゴロゴロしていると、ここに近づいて来る影がある。
角兎だ!何処かで見たことのある魂獣。するとレイブンが何かに気づいたように言った。
(おい、あれ!あの角兎、お前が最初にポイントを奪った相手じゃないのか?)
(えっ!本当だ!!ずっと追いかけて来てたの? 確か黄色い花のたんぽぽみたいな花になってたよね)
目の前にいるのは魂草でも魂虫でもなく、魂獣の姿に戻ったであろう角兎の姿。きっと、ポイントを他者から奪い、元のランクに戻ったのだろう。
あの時、結果的にポイントを奪うかたちになったから非常に気まずい、恨まれているかも。いや、そんなことを考えてたら、いつまでも魂人に人型になれないから割り切らなければならない事なのかもしれないけど…。
(たんぽぽちゃん? もしかして、ここまでついてきたの?)
僕の事、絶対に恨んでるよね。でも、あの時は、しょうがなかったんだよ。気まずさからチラチラと角兎を除き見る。
角兎はびょんぴょん跳ねて、レイブンの方ではなく僕の隣にちょこんと並んで地面に伏せて目を閉じる。
角兎の驚くほど落ち着いた様子に僕は何だか拍子抜けして肩の力を抜いた。
どうやら角兎は疲れて寝てしまったらしい。
(おいおい、なんだ…なつかれたのか??変な角兎だな…)
レイブンは首をかしげて奇妙な者をみるような目でそれを見た。
その後、充分に休憩をとった僕たちは静かにその場を立ち去る。勿論、寝たままの角兎はそのままそこに放置して、ここの外で会ったら魂のポイントの奪い合いがはじまるから、だからほっておく。
二人は泉を離れ、さっと森の中に姿を消した。




