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あるまじきクローファミリーの失態2。

 一時間前の東区よりも東、隣町ダシ、クロー・ファミリーの内部では、7時早朝からある異変がおきていた。東区をとびだし、そもそもその一時間前からクローが家に彼の関係者(ラッパー、ダンサー、水商売の女性たち)をよびよせバカ騒ぎをして、その後早くから東区をでて、その西にあたるナナシの街へと遊びにとびだし、ねりあるき豪遊に次ぐ豪遊をしていた。それはあからさまに、裏社会の掟を破るものだった。どんなファミリーにもその管轄の区域があり、そこを超えて、なわばりを超えて自由をする事は許されてはいけない、それは厳粛な暗黙の了解だった。しかしそれを金にものを言わせて、あるいはアデルの許可はとったとでも嘘をいったか、夜の店や、ギャンブル、飲み屋、バー、宝石店などを、黒服の部下たちを従えてあそびまわっていたのだ。その後、コンシリエーレの一人であるニアは疲れ果てていた。拠点にて、豪遊をおえたたった一人のボスは、メイドをひきつれて、地下1f、誰もいない地下の一室にいて、優雅なバスタイムとしゃれこんでいた。只メイドだけが部屋の外にスタンバイをしていたが……。

 今朝からのボスの異変を察知していたものの、一人で対処するわけにもいかずコンシリエレたちの会合もその日は行われず、そして一時間がたち、そろそろ出てくる頃だとおもっていたコンシリエレの一人、短髪の、無表情で逆三角形の小顔を持つ美女、ニア。ものすごい一瞬の悲鳴をきいて、すぐさまバスルームに入って行った。そのすぐ前には、女性のメイドがもう一人おり、くちをあんぐりとして曇りガラスのバスルームの扉をみていた。その目は点になったようで、めのまえの、鮮血の赤がとびちったガラス扉をみていた。ニアは決心して、メイドをその場から離れるように命じて、そのバスルームの扉をあけた。 

【メイドが、メイドが……死んでいるううう!!!!】

 30分前、ボスくろーはメイドと一緒に浴室にいて、メイドに対していくつかの質問をした。そのころには和やかなやり取りが行われていたのに、一体その30分の間に何が行われていたのか?クローとメイドだけがしっていた。

「生まれはどこだ」

「パンドラです」

パンドラか、と小さく答えたクローだったが、頭を抱え込んだあと、しばらくたちその後こう叫んだ。

「違うだろう、お前の生れは西のほうだ、ジャベリか?」

「はい……」

 その後、自分の手元、バスタブの中のお湯に浸された両腕の先をみて、綺麗だな、とクローはつぶやいた。その瞳は常軌を逸していた。そばには使いのメイドがバスタオルをまいて湯の外に控えていて、その手はボスの体をあらったであろう石鹸でまみれていた。そのメイドは、ボスの言葉を繰り返した。当のクローはバスタブにひたり、顔のない機械天使の木像をかかえて、浴槽からそれをひきあげた。それをみていると、何ともいえない気持ちが咽の奥からせりあがってきて、自分の中に苦痛が思い出された。

「ボス、私はあなたの気持ちがわかる、理解できます、私になら……」

それは同情にみえて、その実、ここ最近のクローの得たいの知れない態度や、組織内部でおこなわれる怪しい動きを察知しての牽制とも思えた、たしかにその同情は、クローに気に入られようとしてやろうとしていた。それを見て取って、激情したクローが、残虐な暴力を彼女にふるった。もっともそれを理解したのはやっと感情が——5分後に彼に見て取れた時だけだった。しかしそれももはや意識を失って死んだ人とたなったメイドには伝わらなかったのだった。

 「どうしてだ、どうしてだ、貴方の気持ちが、わかるだと?それは恐怖だ、恐怖でそれをいった、あの女、幼馴染も、私がただのクローンのようなものだとしっていて、こんな長時間の、こんな取り戻す事のない出来ない時間を、取り戻せないことをしって、自分は幸せを享受して、私を見捨てて、私の気持ちを見捨てて……」

 セナはあっけにとられて、その狂気と騒乱の場所に浴室のドアからバスタブを見下ろして言葉だけを残していた。

「ボス……」

 メイドは、出すぎた事をしたとしっていた。しかし心からの同情を彼に向けてしまった。それは彼にとってはもっと耐えられない事だったのだろうか?、急にボスであるクローは感情を爆発させてしまった。ニアがかけつけて、目の当たりに見た事件《メイド殴打・撲殺事件》は彼の狂乱な豪遊と、ジンクスファミリーへの宣戦布告ともとれる出来事とときを同じくしておきたのだ。彼の発言は、ニアは、脈絡を理解できず、ただそのまま受け取り、のちにコンシリエーレセナに伝えた。彼の手のひらは血で汚れていた。

「ああ、かわいそうに、私に迎合したからだ、一度ならず、二度までも、私のつくった木彫りの像を、美しいといいやがった、美しいわけがない、なぜなら記憶がないからだ、私は、二人目なのだ、そして私は、体のあちこちをうしない修復された、そのころにはもはや、私の幼馴染も、友人も、すでに結婚して裕福な暮らしをしていた、だがどうだ、私が目にしたのは没落した家系と、目に余るほどの借金、だがしかし、その返済もすでにおわった、もはや私は、この組織には用などない、所詮みにくったらしい同情から、私が地下闘技場から引き揚げた部下たちだ、そのほとんどが、私以下のならずものだよ、いつ滅びようと同じだった、だから、私は、せめて自分の旧友だけは、自由にしてやりたいのだ」



その翌日、11月3日のナナシの町の東の東クローファミリー。

 早朝からトラックが拠点の背後にある狭い通りから駐車場にはいった。トラックの荷台では、暗闇の中で頭陀袋にくるまれた《異物》動きまわる。呼吸やわめき声を発する。トラックがバック音とともに停車すると、幾人もの人物がそれを運び入れるために二台を整理して、荷物だけをとりだした。スーツとサングラスで身を固めた怪しい男たちは、周囲をすぎる人々と近隣住民の視線をかいくぐりながら、その大荷物を荷物に対し3、4人で抱えて裏口から拠点へと搬入した。

 「急げ!!」

 「静かにしろ!!」

 巨大な縦の何かわからぬ家具ほどの大きさをもったものが、トランクの中から東区のクローファミリーの雑居ビルの拠点に運び込まれてきた。中から聞こえる声は聞き馴染みのある声だった。それはまぎれもなく、ラヴレンチとソスランのものだった。その二つの頭陀袋は、やがて地下一階へと運びこまれ、中身を明らかにせず一室のドアを開く。

 「入れ……」

 このファミリーの玉座の間といわれる、宗教施設をかねた一室へと運ばれていった。黄金をちりばめた玉座のような一段あがったところに居座るボス、クローの小さな体の真ん前にはきだされた。あたまを抱えたクローが、その小さめの椅子にすわって、苦悩にまゆをひそめていた。

 「ボス、決断を」

 コンシリエーレ、セナは、見せしめだといった、それもそうだ、いや、たしかにクローは焦っていたかもしれない、あせっていたから、昨日の様な失態をおかした。なぜなら、自分の身近な存在が信頼のために放し飼いにしていた信頼する部下が、あまりにも独断と自分勝手な行為がすぎたからだ。もう、ケヴィンとジンクスファミリーのかかわりが、クローの耳には、この一日前に知らされていた。

 クローの玉座にならべられたふたつ頭陀袋から、等身大の人間たちが徐々に姿をあらわす、ゆらゆらとたちあがり、腫れあがった頬や皮膚をみせて、こういった。

 「ボス、お情けを……」

 しかし、失態をうやむやにする方法はこれしかない、これしかないとコンシリエーレの議会は決定したし、自分もそうだとおもった、昨日の、自分の狂ってしまった、問題をうやむやにしていたことでたまりにたまっていた不満が爆発したような、メイドへの八つ当たり。それによって、組織は、ボスに対して以前のような畏敬と羨望といったまなざしとは違い、異質な、組織を統治しえないものへ向けるような、ただ無秩序なものへの“恐怖”を感じていたのだった、その証拠に、皆が皆、震えていた。

 「入ってきてよい」

 ボスクローがそういって呼びかけたのは、上座の左の入口だった、そこから、眼鏡をかけた二人の研究員らしき人間たちと、真っ赤な金属製の光を発する、奇妙な球体がはこびこまれていた。


 そのころの“フォレストベーレ”のだれも、ナナシの町のだれも、南の廃拠点“ファラリス”のだれも、ナナシの街のジンクスファミリーにも。これが、ケヴィン少年のあらたな、そして、かつて“エスィピミア”の一員でもあった女性エメの誘拐事件にかかわりがあるとは、その時のだれも思いいたりはしなかっただろう、ただ、混乱を防ぐためだけに、心を過剰に働かせたたったクローファミリー一人のコンシリエーレ“セナ”を覗いては。

 彼はその日、クローファミリー拠点“コリュバーン”にて、夜もふけたころ、地下3階にある小さな拠点の彼のための一室で、夜な夜な、一夜中混乱の中にあった。クローが決断をしたことで、崖っぷちにあった組織の統率力と士気、指揮は彼の手に戻ったといってもいい。しかし責任の取り方はそれだけでは足りないように思えた。飢えた野獣のような各構成員の中には、もっと過激な“生贄”は常に必要になるのだと思える。クローが威厳を持っている事はそれだけでよかったが、彼も違和感をもたれてしまえば、威厳や畏怖といった感情よりも、見下されてしまう心配がある。そうなると組織の中でもっとも恐ろしい事は持続力を失い、内部からの破壊が行われる事が心配なのだ。“あの二人”の責任の追及は強くなければいけない、みせしめをしたとはいえ、今度の事件の事は解決しなくてはいけない。

 「向うのコンシリエーレと機密情報のやりとりについては決着がついたとはいえ……安心できない、何か策をねらなくては」

 ただ思い出される意識の中では、ある人間“ソスラン” によってパンドラの箱を開けるような実験が行われた事実と、もうひとつは、“ラヴレンチ”がただ取り残された玉座のある一室で、嗚咽まじりに、自分の責任をわめきたて、周りのコンシリエーレに口をふさがれつつも、組織の長たるクローに直談判を申したてていた事実だけだった。それが耳障りに過去の頭の中に反響して、消し去る事はできなかった。

 「そうだ、いるじゃないか、まだラヴレンチが、彼の力を示せば、きっと組織はまとまりを取り戻せるだろう」

 “機密情報”ボスに関する機密情報をゴーストはもっていた。だから、明日ボスとの話し合いを終えて、相手方の“ジンクスファミリー”と接触する、その間、きっと相手方の、特に“(アンチ)サイボーグ人マフィア”たちの仮拠点“ファラリス”は防御が手薄になるだろう、監視はラヴレンチとソスランだけではなく、すでに廃拠点にかくまわれている少年と“ファラリス”というその拠点の名前の情報さえ、手に入れていたのだ。


 ごそごそ、ナナシの町を南にいった廃拠点“ファラリス”で午前9時ほど、先日“ドブネズミ”ケネスがおりたったのと同じ時刻に同じ場所で。キッチンのダクトにて音がした。と、丁度そのころ、庭にカイがいて、老人ロムは出掛けていて家の中にはエメとケヴィンだけだった、ケヴィンはその日には朝食を自分で用意しようと、サンドイッチの具材を包丁で調理していた。その最中、エメからこんな話をふられた。

 【ねえ、私の過去について、知りたい?】

 突然言われたので驚いたが、昨日風呂に入るのを忘れたのでシャワーに入る前だったので、その言葉をかわして一人で浴槽へといってしまったのだろ。その数分後だっただろうか、その十数分後だっただろうか、キッチンには人間の暮しのまま、ケヴィン少年のいれた三人分のコーヒーがゆげをたててカップにおさまっていて、リビングでは畳みかけの洗濯物が散乱したままになっていて、カイが庭で鍛錬を積んでいるその間に、彼ら—―ケヴィン少年と、エメの姿はその拠点から朝のちょっとした隙間の時間に、彼らの形は拠点から魔法のように消え去ってしまっていたのだった。


 闇医者ロムは、ここ数週間、町の南の廃拠点ファラリスに通い、カイから頼まれたようにケヴィン少年の右腕のメンテナンスを抱えながら、ナナシの街の中央にある、自宅の隣にある仕事場にかよっていた。

その日も朝早く出勤し、手伝いの人型ロボット(擬アンドロイド)の手伝いをうけてサイボーグ手術や、表社会で医療の施しを受けられない人間たちの面倒をみていた。彼は寛容で、子供とあればなるべくどんな子どもでも病気や怪我などの調子をみてやった。

 しかし午前の診療が終わったので、こんな話を、二人いる人型ロボットのナナとミミの方に向って話しかけていた。彼等は待合室からこちらへ集合して、お茶をしながら(彼等のおかしはバッテリーだが)ロム医師の言葉をきいていた。ふう、と疲れをいやす溜息とともに、ロム医師は汗をハンカチで拭う。

 「俺は、ケヴィン少年が虚空に向けて話しかけているのを見た事がある、あれは明かに、もう一人の自分をみていただろう」

 午前中の診療や手術、そして独り言のような空間にあきて、あるいは一人でパンドラの中で秘密や暗黙の了解のような過去の遺産の秘密を探りつづける日常にあきて、こんなことを二人の擬人化アンドロイドのミミ、ナナに呼びかけた。応答は簡素なもんだったが彼等はたしかに相槌をかえした。

 「かつて、人々は、百年ほど前までは、すでに戦争や紛争は無人の機械にやらさせるという技術の発展はすぐれた到達点にあった、しかしそれでは、資本主義上の生活を送る地球の文明において、むしろ好都合だった、モノや資源にあふれ、その大量の消費を促される日々の暮らしのなかで、誰も痛みを感じなければ、力の使う方向がわからなくなる、やがて国々は膠着状態にありつつも、人ならざるもの、魔人の力を導入せざるをえなくなった、戦争だ、戦争がそうさせたのだろう、魔人の存在は戦争の兵器がひと段落したときにうまれた、それは人間のうちなる創造を促すものだった、もとはといえばこれは人の欠点を補うための技術ではないのだよなあ」

 ポツリ呟く、すぐにアンドロイドのミミが反応した。その名の通り、兎の耳のような形状のアンテナが顔の真横から生えて立っている。

「その結晶たるもの、DNDたるものが、(ヒヒイロカネ)ですか」

『ああ、そうだ、今ではパンドラの中に隠されたその歴史、一部の人間しか知りえないこの国と世界の歴史こそが、隠されたサイボーグの技術の元になっている。あたりまえなのだ。歴史をふうじて、その上でその歴史の上にすわざらるをえないのだ。』

 ロム医師はそういう事を考えるとき、かつての戦争に思いをはせると、ふと憂鬱にさらされ、暗鬱たる気もちになる。なぜならその戦争のために封じた技術の上に自分たちの国の繁栄はある。そう、サイボーグ技術は、かつて戦争によっておこった科学技術の進歩をもとにして、パンドラの箱の中にしまわれていたものを、大義名分によって徐々に復活させた、パンドラは大きな矛盾を抱えていて、その矛盾の中心地にいるようなものだった。

 「かつて人間は、魔人とよばれる戦士たちを戦わせ、最も小規模な戦争を起こそうとした、しかしその時代ですらあつかえなかったもの、それが、“ヒヒイロカネ”魔人をつくるための技術だったのだ、魔人とよばれた人間をサイボーグ化させ、兵士や、重火器といった戦力を最小限に、しかし強力に再現する技術、かつて滅びた文明の作り上げた秘められた力、その封印をしたまま、この国はいつまでも大義名分として義手義足、あわれな人間の失われた器官を満たすためだけの“サイボーグ技術”といういいわけをし続ける事ができるだろうか」

 いずれかつてのような戦争が起こる事を危惧した考えは、別段ロムだけに限った事ではなくきっと旧文明の遺産にすがるようにできた現代の文明にとって当たり前の不安と恐怖だった。


 ロムは誘拐事件を知るのは後になるから、先に時系列にそって話を回想すると、前日早朝11月3日の早朝に、とある二人組の拉致事件がおきた。クローファミリーの、ラヴレンチとソスランがその対象だった。



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