表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

ドブネズミの歌3

 それから廃拠点ファラリスにいて、ケヴィンは一度眠り、そのままいい夢をみて居心地のいい寝息をたてていた。時間がたってその日の夕方、ふと階下のリビングの団欒の声に目を覚ました。それが今朝でかけていたロム医師と、それから大家エメの談笑だという事をさとり、自分もそこへ加わろうとおもい、発声練習がてら咽から音をだしてみた。

 「あ、ああ」

咽がからからかわいていて階下へおりようと決意したケヴィンだったが、それまでに一度ころんだ。

 「いでっ」

 かれは、エメが住み込んでからというもの、二階はしばらく大家エメがつかっていたたので、久しぶりにそこで寝たのだったが。そのせいでものの配置が換わっているのに気づかなかった。はためにものがちらかり放題であって、足場がなかったのもあったが、単に女性の下着や肌着がそこらに散らかっているのが確認できたからだった。それから一度ころんだのだ、出口のそばにおかれている小さな本棚からころがりおちた彼女の口紅が、足のしたをすべり、ころりと足を取られたのだ。また廊下をとおって、奥の階段にたどり着き階下におりるとき、さっきころんだ足首がもろくなっていて、足取りが確かではなく、一度踊り場をすぎたその上から三段目でまたずがずがと音をだしてころんだ。

「ゴトゴトゴトッ」

「いてててて」

 

 それから一回の各部屋につながる中央の階段をとおって、右にいき、廊下をなにごともなかったようにすすみ、リビングをのぞいて、気づかれないようにキッチンへとおりすぎようとした。

 「大丈夫?」

 エメのそのよびかけに軽く会釈をして頭をかいた、そのまままた右をいき、キッチンにいき冷蔵庫を覗く事にきめた。冷蔵庫はリビングからちょうど見えない勝手口の突き当りの左にある、麦茶の在庫の切れているのを確認して、冷蔵庫のすぐわきにある食器棚の上の棚から麦茶のお湯でとけるインスタントの袋をとりだした。

かといって咽がかわいていたので、グラスを背後のたなからとって、透明なコップで左の流し台で水をくんで、躊躇もなくごくごくと水道水を飲みほした。

 そのあとのこと、変化がおきたのは……そこから奇妙な展開がまっていた。アデルの訪問からその日の夜まで、まるで瞬間的な子供の想像の一幕のようにあまりに立て続けに奇妙な、そして少年の心に緊張と重圧とをもたらす事件が起きたのだ。

 {ゴトゴト}

 「うわっ」

 バタバタと小動物のような音がする。なにかと思って上を見ると、何か動物の足のようなものが、ダクトの、やっと人一人通れるかとおれないかの口の中からぶらさがっている。

 「……は!?」

 目をぱちくりさせて上をむいているままの彼のことを気に留める様子もなく、その暴れまわるものが音を発している事を、彼も、リビングにいるエメもロム医師もきいた。

 「チューチュー」

 まるで全く小動物のような珍妙な声だ。

 「何だ?坊主、何があった?」

 「あし!!あしー!!」

 ロム医師がちょうどかけつけてきたあと、その珍妙な来客はすとり、とあしもとから、先程までぶらぶらと天井にさげていた足から降り立った。その直立した姿勢は、先程までとまるで違う、静と動とをまるで完全に理解したような形で、それが奇妙な—―ガスマスクと作業着―—を着用していなければ、彼は卓越した能力をもつ体操選手か何かかと錯覚しただろう。そのとき、丁度玄関でアデルを見送ったあとのカイが、隠しもしなくなったトレーニングを終えて、玄関をあけ帰宅した。

 「あ……見つかった……」

 きりりとにらむような視線がカイに注がれる。

 「説明を頼むよ、カイ」

 そういうロム医師も、エメも、何かしら背景にある事情について情報を持っているような様子であった。


 鼻梁が犬のようにつきだしていて、まるで子供の書いたロケットの絵のようなシンプルな先がおおきな三角形の構造をもっている。その左には映画やドラマでよく見かけるような円いカン(吸収缶)がついていて、両目を覆う円形のゴーグルがついていることから、それはどうやらガスマスクのようなものらしいのだ。

彼は、自称情報屋と名乗った。カイに尋ねられ家の中の、台所で簡素な紹介をうけた。続いて自分が名乗り出たのだが、彼の手足や体は誇りまみれでどがつくほど汚かった。彼いわく、情報屋というのはこの世界の各地に点在して、各々生態に基づく二つ名をもっているらしい、彼は“ドブネズミ”のグループに属しているといった、その細かな説明が、台所の、玄関をこえてこなかった珍客によってもたらされたので、ケヴィンは多少そのおかしな境遇や状況に関して違和感というか、非日常的な要素を感じ取ったのだ。

 そしてケヴィンが、カイとの関係を問うと彼はこう答えた。

 「私は彼の依頼のためにここ数日、各地を調査してまわっていました、今日はカイに情報を渡そうと思い、あるいは交渉のために顔をだそうとしたのだが、忙しくあえて玄関からくるのをやめてしまった、この時間にはカイが台所についているとおもったので、しかし今日はそこの少年がいた、驚かせてしまってすまない」

 「まあ、とにかくここにいても仕方がない、エメ、彼のために新聞紙を敷いてあげなさい、それでだれも不幸にはならないだろう」

 エメはキッとカイの法をにらみ返すと、即座に自分の仕事にとりかかる決意をした。廊下の突き当りにあり、階段の左をいくと階段の真下の空間に少し大きめの収納があって、そこに掃除道具がたくさんあり、ここファラリスの拠点での彼らの掃除道具入れと化していたので、そこからエメは放棄をとりだして、ぼろぼろでさびついたちりとりも一緒にセットでとりだした。やがて、客をもてなすためといって、座敷部屋に彼を招き入れたのだった。そこはロムやケヴィンが床につくための敷布団があったが、それはケヴィンが働いてその座敷部屋の左奥にある押し入れの下にちゃんと片付けた。これは空気をよんで自主的に彼が働いた。

 やがて、新聞紙がびっちりと敷かれたなかで、ただ、彼の登場をまっていたケヴィンだったが、彼が座敷部屋に入るまえに回りを見回してロムやエメの様子を伺いつつはなった一言は強烈で、思わず心でツッコミを入れてしまった。

 「あのー、みなさん、私のガスマスクがきになりますか?それともこの緑色の……防護服」

 「一同……(両方ともだよ……)」

 心の声がざわめきたっていたが、やがて座敷部屋に一定の人数が集い、話しあうと、少しばかり落ち着きがとりもどされていった。

彼の登場からしばらくたち、皆が彼に注目を注ぐ頃、彼はカイに特別にしっかりととのえられた新聞のマットの上を歩き、皆と一緒に腰かけた。カイは汚れても

かまわないようにテーブルに新聞紙を敷き詰めていて、その周到さがあるのなら、その場に居合わせたベルノルト含め、医者ロム、誰もが、その人物の訪問を前もって詳しく説明しておくべきだったと思った事だろう。しかしカイは、いつもと同じく、相変わらずアンニュイな表情を見せて沈黙を貫いて、立ちっぱなしで人物の動作を見守っているのであった。

 人物といえば、自分の持ってきた弁当をやにわに取り出した、それは完全に密封されたタッパーだった。次にしたことは、今着ているかれの汚い制服をそこで脱ぎ始めるところだった。それはまさしくコスチュームといっていいほどに、あるいはコスプレというほどに、珍妙な衣装だった。

 「すみません、少々お時間をいただけますか、お腹がぺこぺこで……」

 「……」

 穏やかな森の中、違和感のある雰囲気がふいに訪れて、それはそれからの緊張感の始まりというよりは、むしろ独立した特殊な重みをもった空気感だった。重い空気とでもいうか、理屈ぬきにして疑心暗鬼な感覚がケヴィンにも伝わってくる、なによりそれを無頓着に明かに表現したのがエメだった。

 何より訪問者は独特の雰囲気をもっていて、それがまるでそれまでの、かすかにさわやかに構築されつつあった人間関係を、優しい雰囲気が君臨していたその雰囲気を、その雰囲気の根源から変えてしまったのだ。紅一点、エメは何の躊躇もなくこう表現した。

 「汚いし臭い、情報屋、あんた何なのよ、あんたには直接関係ないけど、情報屋には恨みがあんのよ」

 「そう、そうでしょう、ジルさん」

 「あんた!!!!……」

 それはここに来た当初のエメの人格がふたたびふっておりたかのような拒絶の仕方で、やはりケヴィンはそこでもエメとカイとの、無関係な他人のそれとは違う冷たさを観察していた。エメは苦しそうにうなり、ただでさえ気分屋の傾向があるというのに、我慢しきったように、ついには飽きれ果てたケヴィンの目の前で、ふーふーとかんだ奥歯と口から息をもらして耐え続けていた様子だった。

 エメはケヴィンの横に座り、そのケヴィンの右側にすわるロムとカイのほうをにらんで顔を赤らめている、座敷の奥の側にカイは座っていた。ケヴィンは出口に一番近くにすわった。やがて重苦しい空気感に耐えかねて、話し合いをケヴィンから促そうとおもったが、そこでエメは、思い切って隣に座るケヴィンに話しかけたのだった。

 (ねえ、汚くない?)

 (エメさん、聞こえますって!!)

 内心もっともだと思った。彼はさっきまできっとダクトの中をうろうろしていたのだろう、埃やススで汚れている。大体あんなところを通る人間は映画や何かでしか見ないものだ。一体全体どうしてあんなところをうろうろしていて、そこから顔をのぞかせたりしたのだろう。

 何を隠そう。その秘密をしっていて、もっともも衝撃的な場面に出くわしたのはケヴィン少年だった。だから本来エメよりも何かしらの、この訪問者への拒否反応をしめしてもいいはずなのだ。

 異形のガスマスク・マンは、ネズミやモグラのようにとがった形状の鼻のようなものをもち、とってつけたような様式美をもっていた、まるで針金のようなもので蔽われたような装飾とでもいうのだろうか、ガスマスクの機能をもつものを邪魔しないように、細い針金のような装飾のカバーが、プラスチックらしいボディのその上からかぶせられている。さらにそれは上のゴーグルに至るすみずみまで、ことさらに強調するような、まるで歯車のような凝った装飾のある、銅のような材質の金属で加工されていた。

 それ自体がガスマスクの骨格、肉付けになっているようだった。何より目立つのがネズミのような像のように横にしわがはいった鼻の模様がある空気清浄装置だ。もうひとつ彼には特徴はあった。全身はまるで原子力などで、危険物質をとりあつかう防護服のように、隙間なく特種な、特別丈夫な材質でできたようなコスチュームで蔽われている。やはり、エメの悟り切ったような冷たい態度のあとに、この珍客の事を最も知るであろう人物―?カイ―?は一言もしゃべらず、そして物音さえ立てようともしなかった。自分でこの人物に何かを頼んでおいたであろうに、そういう雰囲気はケヴィン、エメだけではなく、能天気なロムからもかもしだされていた。つまり彼の見方は、彼の次の動作がおわるまで、カイ、只一人だった。


 そこでいきなり、二人の男は口論を始める。真正面に座っている珍客は、その最中にもコスチュームをぬいでスガオを表した。のっぺりとした、醤油顔の人相だった。これと言って特徴はなく、あえていうなら、率直にいうなら、その汚らしさとかわった風体をおいて、彼の特徴を特徴づけるものはとくになか

った。つぶらな瞳やネコのそれをおもわせたし、けれどまゆげや人相は穏やかな様子で、むしろ表情がよみとれないほどよわよわしいものだった。 

 「習性か」

 ロムはいやに難しい顔をしている、なぜかその膝の上にケヴィンをのせているから、まるで祖父と孫のようだ。そうして話をきりだしたのは、ロムが最初だった。

 「情報屋のグループにはそれぞれ修正がある、こんな人間がいたところで驚きはしない、しかし、習性といったが、おいカイ、お前は騙された職業の連中を、なんの疑いもなく信用するのか?エスピィミアはだなあ!?」

 エメがそのとき、珍しく話に割って入った。

 「それはいわないで」

 カイがそのとき、一言発さなければこの場のおかしな混乱と空気の悪さは、延々と解決の方法を失っていたことだろう、だが彼はやはり、カイであった、いつもの落ち着いた様子で、ただこれだけををいった。

 「ああ。おれがたのんだ」

 突然、エメが態度をころっとかえた。

 「チョット、ロム、お客様の前で、口喧嘩はよして、話し合いならダイニングにいきなさいよ」

 変に察したエメの力によって、リビングに微妙な空気が流れる、それをさっして、例のごとくキッチンに隠れるケヴィン。

 ロム医師はうなだれたようにみけんにしわをよせ、肩を落とし左手の人差し指と中指で鼻根をつまんでひしとつかんでねじった。肩はまるで女性のそれのようになで肩になり、背筋は悪くないが、力なくうなだれる両腕の筋肉は、彼の中の諦めと脱力を周囲のものに感じさせる威厳を持っていた。

「なあ、よおカイ、お前、まさかまた“情報屋”を信じてみようって魂胆なのか?俺はエスピィミアの事はしってるぜ」

彼は内心、こんなことを考えていた。

 (私は、ある事柄が別の状況下において、どんな意味をなすかについてとても関心がある。逆に言えば、私とその興味とは、それによる単純な比較と、科学変化についてでしかなく、あらゆる異常なことがらにも私の興味が向けば加担する、だが、道義的におかしなことにはけっして加担しないのだ)

 カイは、口をひらき、徐々に説明しはじめた。今回の“ケヴィン少年”の誘拐は、いまファラリスにいるケヴィン、カイ、エメ、ロム、ベルノルトの5人だけで解決しなければいけない、基本的にアデルは力を貸さないだろうという事だった。それには根拠があって、ベルノルトはしらないが、アデルはいかにカイといえども契約を重視する、一度やるといった仕事をかたづけなければその都度ペナルティをかす、いまペナルティをかされている自分の状態の自分には、決してマフィアのボス、クローは大きな力を貸さないだろう、そこで、どんな人間の力もかりたい、それがカイの言い分だった、他の人間は得に代替の思索があるわけでもなく、ただその彼の言い分を聞いているほかは、なすすべも何もなかったのだった。そして一日がすぎさって日が暮れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ