ショッピングモールへ
「この後どうする?」
学校を出たところで玲央が俺の袖をちょんちょんと突いて言った。
こいつスキンシップやたら多いな。
男同士だと違和感が少しあるけど別に嫌な気持ちはしないんだよな。
「俺は自分の日用品とか買いたいんで、カードを使わせてもらってもいいか?」
「日用品ね、もちろん好きに買ってくれたらいいよ。でも、キミはこの辺りのお店がわかるのかい?」
「うーん、大型ショッピングモールがあったよね? そこで揃うんじゃないかと……」
玲央はぼくも付き合うよと言うと、当たり前のように俺の腕を掴んで歩き出した。
「なぁ、なんでいつも俺の腕を引っ張るんだ? まさか迷子になると思ってるとか?」
「まさか! キミは歩くのが早いからだよ。ぼくが置き去りになりそうだからね、こうやって掴んでおかないとさ」
クスッと笑うとさらに腕を持つ手に力を入れてくる。
「いっ痛いって! 」
痛いとは言ったけど、実はそうでもなかった。
男にずっと腕を掴まれて歩くのがちょっと気恥ずかしかったので、振りほどくタイミングとしてはちょうどよかった。
「ごめん、キミの腕は筋肉質でつい触りたくなるんだ。嫌だった? それとも手をつなぐ?」
「なっ、そんな、男同士で手をつなぐとか変な目で見られたらどうするんだよ」
「変な目ってどんな目? そんな変なことかな?」
玲央と話をしていると調子が狂う。微妙に話が噛み合っていない気がする。
県民性とかなのだろうか。ふと周りを見ても男女のカップルは手を繋いでいたり、腕を組んでいる人もいるけど、男同士で腕を組んでいたり手を繋いだりしている人が……、なんで……いるじゃんか。
「そんなに周りの目が気になるのかい? キミのそういう反応は新鮮で楽しいよ」
「もしかして俺をからかって楽しんでるのかよ!」
「そんなことしないよ。ほら、何から買うの?」
気がついたら大型ショッピングモールのエレベーターの前にいた。
なんだかんだ話しながら歩くとあっという間だな。
俺は、下着類を買いたいと言うとエスカレーターの方が早いと言われてついていった。
「トランクスとかボクサーパンツがいいんだけど……」
「これなんてどうかな?」
玲央は水色のトランクスを指差す。特にこだわりがない俺はそれを2着買うことにした。
「選ぶのが早いね。ぼくのことは気にせずにじっくり選んでいいんだよ」
「別に履けたらなんでもいいんだよ、どうせ誰かに見せるもんでもねぇし」
「それはそうだけど、見えないところでもおしゃれにしたいよね」
そういう考え方もあるけど、玲央に買ってもらうのだから贅沢言っていられない。
「パンツは履き心地が大事だろ?」
玲央は俺の言葉に同意するとレジで支払ってくれた。クレジットカードは黒色、さすがセレブだ。
いつまでも甘えてばかりはいられないが、今は甘えるしかない。
「次はどうする?」
「あっ、俺はちょっとトイレ……。そこのベンチで待ってて」
「わかった。じゃあ荷物は持っていてあげるよ」
買い物をした袋を玲央に手渡すと、トイレを探す。トイレのマークがわからない。
男女のピクトグラムで書かれた看板が見当たらない。
エスカレーター横の端に掲示された店内マップを見るとWCの文字を見つけた。
俺が住んでいた街にも同じショッピングモールがあった。そこではトイレの入り口は青と赤で男女が分かれているのだが、この店は男女の区別がわからない。
とりあえず入ってみると小便器がなく個室が並んでいたので、慌てて出る。
人がいなくてよかった。女性に見つかって痴漢扱いされたらたまったもんじゃない。
俺は、キョロキョロと見回すが男性用トイレが見当たらない。
すると、一人の男性が来て先ほどのトイレに入っていく。やっぱりあそこでよかったみたいだ。
個室しかなくても男用なのかと、その男性の後について入った。
入り口で女性がひとり出てきて驚いたが、相手は特に気にもせず軽く頭を上げて通り過ぎた。
男女共用トイレか? 他の男性も使っていたし、俺も急いで空いた個室に入った。
「おまたせ!」
「そんなに待ってないよ。むしろ、思ったより早くてびっくりだよ」
「近くにトイレがあったからな。しかし、驚いたよ。男女共用なんだな」
「えっ? トイレを男役と女役に分ける必要はないよね?」
「ん? どういうこと?」
「だって同じ人間なんだから分けなくてもいいよね」
「う、うん……」
そういう話じゃないと思うんだが、ジェンダーレスな時代を先取りしているんだろうと俺はそれ以上はツッコミを入れずに、歯ブラシなどを買いに行った。
どの店でも玲央はサッと会計をしてくれるのがカッコ良すぎる。
こんな王子様みたいな男がサッと会計を済ませてくれたら女の子なんてその場で惚れてしまうんじゃないか。
俺でもちょっと惚れそうだよ。惚れないけどな、そんな趣味はないし。
いろんな店を二人で見て回る。
ふと気づくと玲央は俺の腕を掴んでべったり引っ付いてくるので、その度に引き離すのだが口を尖らせて抗議する仕草がなんだか可愛い。
いや、可愛いと思ったらダメなんだが、この二日間で慣れてしまっている自分に呆れてしまう。
「そこのカフェでひと休みしようよ」
玲央は、緑色の看板のカフェを指差すと、俺の腕を引っ張っていく。
まだ何も答えていないのにずいぶん強引なやつだ。
「ここでいいよね」
玲央は、店内から中庭が見える席に座る。俺もテーブルを挟んで向かいに座った。
こいつの性格だと絶対に並んで座りたがる気がするから、先に座らせたんだがさすがに考えすぎか。
「ところで、学校で会った子って玲央の彼女か?」
「美月のこと? それとも千景?」
「どっちの子とも仲が良さそうだった」
「ふーん、気になるんだ」
俺を覗き込むように少し前のめりになった玲央は、目を細めて微笑んでくる。
何ちょっと嬉しそうにしてるんだよ。
「そんなんじゃねぇし、どんな関係なのか気になっただけだろ? なんで俺が玲央にヤキモチ妬いてるようになってるんだよ」
「あははっ、そうだと嬉しいんだけどなぁ」
玲央はカップをテーブルに置くと頬に手を当てて、窓の外を見る。中庭の樹木の陰で若いカップルが談笑していた。
「ぼくたちも他の人から見たら、あんな感じに仲が良さそうに見えるのかな?」
「はぁ? ……どう見てもあれはカップルだろ? 俺たちは男同士だし、カップルに思われたらそれこそヤバいじゃん」
「キミはそんな風に考えるんだね、面白いな」
面白いのかな? 何となく俺と玲央にギャップを感じるが、そういう性格なんだろうな。
「九条ってどんな子なんだ?」
「どんなって……どんな事でも真面目に取り組む子だよ。成績もいいし、先生からの信頼も厚いんだ」
「へぇ。なんか怖そうだったけど」
「怖い?」
玲央が首を傾けて少し考える。
「俺を見る目が怖かったというか、敵意を感じたんだけど……」
「……まあ、初対面だとそう見えるかもしれないね。でも、ぼくが困っているときはいつも助けてくれるよ」
「学校一の玲央推しだとか言ってたもんな。玲央には優しいんだろうけど、俺にはどうだろうね」
「ぼくのことになると一生懸命になるのは間違いないけど、ぼくの友達を悪く言うような子じゃないよ」
黒髪ロングの美女を思い出すと、第一印象はクール系美人って感じでとっつきにくいと思ったけど、敵意を感じたのは気のせいだったかもしれない。
もう一人の、美月って子は元気っ子っぽいイメージで人懐っこい笑顔だったな。
「じゃあ、美月って子は? かなり親しげだったけど」
「美月は一言で表すと、にぎやかな子だね。ぼくの幼馴染だけど、明るくて社交的で人気者って感じかな」
「たしかに、明るい感じだったな」
人気者だと雰囲気でわかる明るさだ。
あれだけギャラリーがいる中で平気で玲央に話しかけてくるくらいだから、普段から玲央とは仲がいいんだろう。
俺が美月の顔を思い出していると、玲央がイタズラっぽく俺の顔の前で手を振ると言う。
「あれれ、キミは美月みたいな子が好みなのかい?」
「お、俺の好みの話なんてしてないだろ? ちょっと聞いてみただけだから」
「あはは、冗談だからそんなに慌てなくてもいいよ」
またからかわれたのか。こいつの性格がいまいちわからない。
学校では冷たい印象を周囲に撒き散らしていたのに、俺の前ではやたらスキンシップしてくるし、からかってくるし、ウザ絡みがすぎる。
それでも、悪い気がしないのはやっぱりこの顔のせいなんだろうな。
小さな顔にキリッとした目と長いまつ毛。鼻筋の通った端正な顔だち。
イケメンというより、女装させたら絶対に美人になるんじゃないかと思うくらい綺麗な顔立ちなのだ。
それでいて、見ず知らずの俺のことを世話してくれる優しいところは、神様の使いではないかと思うくらいだ。
「さて、休憩もできたし、蒼の面白いリアクションも見れたから、そろそろ買い物を続けるかい?」
「なんだよそれ、面白がりやがって」
玲央が楽しそうに笑うと、俺も自然と笑顔になったのだった。
カフェから出ると、店内は下校中の学生も増えてきていた。
制服がまちまちだから、このへんの高校なのだろう。
「無○良品に行きたいから行ってもいいか?」
「もちろんだよ。こっちだよ」
玲央はまた俺の腕を掴むと、俺の隣に並んだ。
その時、俺の肩をトントンと叩かれる。
「みーちゃった!」




