氷の王子様って誰のこと?
—— キーンコーンカーンコーン!
事務手続きを終えて廊下に出たところで終業のチャイムが鳴り響く。
授業が終わると生徒たちが教室からおしゃべりしながら出てきた。
すると一人の女生徒が玲央を見つけて黄色い声を上げて教室に戻って行くと、すぐに女子が何人か出てきてこちらを見ている。
「玲央って有名人?」
「有名ってほどじゃないよ。でも、ぼくのことを知らない人はいないかもしれないね」
「それを有名って言うんじゃないか? さっきの子の反応が芸能人に会ったファンの反応だったんだけど……」
「あれはキミを見て騒いでたんだよ」
「そんなことあるか!」
今まで女子とろくに話もしたことないのに、何を言ってんだこの色男は!
その後も教室から女子が出てくると、玲央を見て歓声をあげている。さすが玲央だ!
女の子が目を輝かせて駆け寄って来たが、なぜか離れて立ち止まった。
玲央はめんどくさそうにふぅと息を吐くと、睨みつけるようにして言う。
「友人を案内しているんだ。悪いけどそこを開けてくれるか?」
冷たい声で周りの女の子たちも、さっと廊下の端に寄る。
普段の陽気で温和な雰囲気の玲央が、この時はちょっと怖いと思ってしまった。
俺の腕を掴むと、玲央は歩き出すのでついていく。
すると後ろから女の子が大きな声で呼び止めた。振り返ると黒髪のボブカットの可愛らしい女の子が笑顔で駆け寄ってきている。
「玲央、どうしたの? 今日はお休みだったからどこか体調が悪いのかと思ったけど、元気そうじゃん」
「ああ、美月か」
「ああ、美月かじゃないよ。で、この隣の子は誰かな?」
好奇心旺盛なのか、俺の顔を覗き込むと玲央と俺を見比べながら、答えを待っているようだった。
「俺は朝比奈蒼。転入の手続きに来ていたんだ」
「転入するの? へぇ、めずらしいね、こんな時期に。私は小鳥遊美月だよ」
お互いに少し頭を下げると、玲央をみる。
「蒼もここに通うから、これから学校を案内しようかと思っているんだけど、ちょっと目立ってしまったね」
「大丈夫、みんな遠巻きで見てるだけで話しかけてこないから。そっか、蒼くんはどこから引越ししてきたの?」
遠巻きに見られているのに、玲央も美月もまったく気にしていない。
普段からこんな状態に慣れているのかな。
でも俺は慣れないので、周りが気になって小声になってしまう。
「埼玉にいたんだけど、急にこっちに来てしまって」
「なるほど、なるほど。急な転校って大変だったね。この学園はきっと蒼くんもすぐ慣れると思うよ。でも玲央のそばにいたら落ち着かないかもね。私が案内してあげようか?」
玲央が、キッと美月を睨みつけると、
「そんなのダメだよ。ぼくが案内するんだから。それに蒼が早くこの学校になじめるようにしたいと思ってるんだから、変なことを吹き込まないで」
「珍しいこともあるもんだね。玲央がそんなにお世話やきするなんて。いいわ、玲央にまかせるわ。蒼くん、もし学校のことでわからないことがあったら私に聞いてね。学級委員で生徒会役員だし、美人だし」
自分で言うなよ。最後の一言はウケ狙いか?
人懐っこい笑顔で笑うので俺も思わず笑ってしまった。
美月は玲央と同じでいい人そうだ。
「蒼、行こう。美月、また明日」
玲央は美月にそう言うと、お互いに軽く手を上げて別れた。
しばらく学校を案内してもらったら、どこに行っても遠巻きに見られているのが気になる。
「ねぇ、あの人はどなたかしら。玲央様が案内しているのって珍しいよね」
「さっき、転校生とか話をしているのを聞いたよ、玲央様の親戚か何かかしら」
あちらこちらから、噂話が聞こえてくる。そんなに珍しいことなのだろうか。
玲央を見ると涼しい顔で外野の声は聞こえていないかのように歩いている。
「ここが、明日から通うキミのクラスだよ。ぼくと同じ2年E組。男役の方が少ないから気をつけてね」
「それって女子が多いってことか? 何を気をつけるんだよ」
「それは、キミが……。いや、なんでもないよ」
めちゃくちゃ気になるけど、たぶんキミが田舎者だからとか言うつもりだったら、ちょっと悲しいな。なんせ本当に田舎だったからさ。
「あっ、玲央様じゃないですか! 今日はお休みだったと聞いていたのですが、こんな時間にどうしたのですか?」
これまたスレンダーな長身の美女が現れた。
黒髪ロングで前髪を作らずに左右に流しているのに顔が小さくて韓国系アイドルのようだ。
「明日から転校してくる朝比奈蒼さんだよ。今日は転入の手続きにつきあってたのさ」
「転校生なんだ! じゃぁ、このクラスになるってことですね? うふふ、これまたスクープです」
「もう、あることないこと言いふらさないでくれよ」
九条と呼ばれたモデル体型の美女は、どうやら玲央と仲が良いみたいだ。
「私は九条千景。学校一の玲央推しだよ! 玲央ファン代表を自認しているから玲央のことならなんでも聞いてくださいね」
「俺は、朝比奈蒼。蒼って呼んでくれていいよ。玲央のことは逆に俺が知りたいよ」
「玲央のことなら一日中でも語ってあげられるけど、そんな簡単に玲央の情報は教えられないです」
玲央が慌てたように、九条と俺の間に入って会話を止める。
「九条、蒼に変なことを言わないでくれよ。蒼も九条に変なこと言ったらダメだからね」
「変なことって? あまりプライベートなことを他人に言うことないから大丈夫だ」
「うん、それならいいよ。キミは常識人でよかったよ」
九条千景は、俺を見るとちょっと不機嫌そうにした。
「なに、なに? キミたちってどう言う関係なの? 転校前だというのに、ずいぶん仲が良さそうですけど」
「別に九条が考えているようなことじゃないさ。ちょっと縁があってぼくが彼の転入の手続きを手伝ってあげているだけだよ」
「ふーん、そのわりには腕なんか掴んじゃって」
俺と玲央はふと腕を見る。
「……あっ」
玲央は慌てて手を離した。
そういえば、腕を掴んで引っ張られるように歩いていたから、気にしていなかった。
その後、玲央と九条のやりとりがあったが、俺は遠巻きにいるギャラリーの言葉が気になってた。
「えっ! 神代さんが笑ってる!」
「玲央様ってあんな顔をするんだ!」
という外野の声と、
「転校生って何者? しかも腕を掴んで !?」
「玲央様があんなに近くでお話ししているって!」
とこそこそ話が聞こえてくるのだ。
しかも、「氷の王子様」って言っている子もいる。
俺は何気なく玲央に聞いてみた。
「玲央って学校では笑わないのか?」
「えっ!? そんなことないよ」
「だよな。むしろいつもニコニコ笑顔のイメージだし」
「そ、そうかな……?」
何を恥ずかしがってるんだよと、玲央が俯いてしまったのを見た。
外野の声に徐々に慣れてきる自分がいる。
転校生に興味津々というのはわかるから、数日で飽きられるだろう。
そんなことよりどうやら玲央は学校でキャラを作っているのかもしれない。
九条と別れて、俺と玲央はその場を去る。
「ぜったいにあの二人はあやしいわ。朝比奈蒼は要マークだわ」
九条の声は俺たちには聞こえなかった。
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