俺たち付き合ってないんだけど
「みーちゃった!」
その声に驚いて俺は振り返ると、小鳥遊美月が満面の笑みで立っていた。
「美月、どうしたんだい、こんなところで」
「こんなところで? じゃないのよ。玲央こそ朝比奈くんと一体なにしてんの?
ちょんちょんと玲央の腕を突く美月。その腕は、俺の腕を掴んでいるわけで、まるで仲良く歩いているカップルを見つけたクラスメイトが冷やかしているようだ。
いや、その通りかもしれない。
「何って買い物だけど? 美月こそ部活はどうしたんだい?」
玲央は特に俺たちが二人で買い物に来たことを気にしていないようだが、俺はちょっと焦っている。いや、男同士で買い物に別にいいんだが、こう密着して歩いているのが勘違いされるのではないかとヒヤヒヤしていた。
美月は、俺と玲央の顔を交互に見ると、ふーんと意味深な声を漏らした。
「買い物ねぇ……二人で? 学校で手続きの手伝いしてるって言っていたけど、買い物まで付き合う仲なんだぁ」
さすがに俺は、何か言わなければと思って口を開きかけたが、玲央がなんと答えるのか気になって、玲央を見る。
なんで嬉しそうな顔をしてるんだよ!
嬉しそうなのを隠そうともしていない玲央を見て、美月はさらに追い打ちをかけるように言う。
「二人は付き合ってるんだよね?」
「はあ?……なんでそうなるんだよ!」
さすがに俺は、思わずツッコミを入れるのだが、玲央が俺の腕を引き寄せて、
「ぼくは別にそう思われてもいいんだけど……」
「玲央、お、お前はちょっと黙っていろよ」
さすがに、俺は玲央の腕を振り解くと一歩離れて言った。
こいつ、ぜったいに俺をからかってるんだな。
「朝比奈くんは違うって言ってるけど……玲央は否定しないんだ?」
「……」
おい、否定しろよ。なに頬を赤らめてるんだよ。
俺は、美月に明日からの学校に必要なものとか買い物に来たけど、土地勘がないから玲央に案内してもらっていたのだと告げた。
「そうだったんだぁ。うふっ、玲央がまんざらでもなさそうだから、本当に二人は付き合ってるのかと思ったよ」
「ち、違うだろ。男同士なのに、なんてことを言うんだよ!」
玲央は、チラッと俺の方を見ると、
「男役同士でデートって普通じゃないかな?」
「普通じゃないだろ。男は女の子とデートするもんじゃないの?」
「えー、男役も女役も同じ人間だよね。男同士、女同士、男と女ってカップルになるのっておかしいことなのかな? いろいろあっていいんじゃないかな」
「そ、そりゃ、そうなんだろうけど……」
玲央と俺をニヤニヤと聞いていた美月は、うんうんと頷いている。
俺がおかしいのか。
確かに、いまどき、男は男とつきあっちゃいけないとか古い考え方なのかもしれないけど、俺は女の子が恋愛対象であって……って、なんで俺は真面目に考えちゃってるんだ?
「朝比奈くんは、男役の玲央より女役の私の方がいいってことかな?」
「なっ? 何を言ってるんだ、美月!」
「えぇーっ、だって朝比奈くんは玲央のことは付き合ってないって言っているよ」
ボブカットの髪を指で耳にかけると、美月は俺の腕にからみついてくる。
可愛らしい横顔がとても近い。
「み、みづきぃ〜! 何をしてるんだい」
ケラケラと笑いながら、美月は玲央をからかうように、いいじゃんって言った。
「玲央が焦る顔って初めて見たかも。ふふっ、なんか可愛いね。じゃあ、このまま朝比奈くんの買い物に私も付き合っちゃおうっと!」
「え?」
思わず俺は美月の言葉に反応して身を反らして逃げようとするが腕をぎゅっと寄せられて離れない。
「朝比奈くんは玲央よりも女役と腕を組みたいんだよね?」
「蒼……、そ、そうなのか……?」
玲央が、美月の言葉を聞くと不安そうに俺の顔をのぞきこむ。
「いや、俺はこんな公衆の面前で腕を組んで歩いたりするの、恥ずかしいというか……」
「恥ずかしいの? なんで?」
「いや、俺たちそんな仲じゃないよね?」
「玲央と仲良しなんだから、私は玲央と仲良しだし、別にいいよね?」
どういう理屈かわからないけど、頑なに拒否するのも冷たいような気がしてきた。
「まぁ、いいけどさ」
「やったーっ!」
玲央が驚いて美月を睨みつけるが、美月は気づいていないのか気にしていないのか、ニコニコと俺と玲央の顔を見比べている。
「だって、私は朝比奈くんと買い物したことないし!」
「ぼくもさ。ぼくも今日はじめて一緒に買い物に来たんだ、だからぼくが先だよ」
あー、わけがわからない。
どういう争いなんだよ。そもそも、二人とも俺を取り合っているように見えて、実は美月は玲央をからかっているし、玲央は俺をからかっているんだろ。
「まぁ、とりあえずお買い物に行こうよ。三人の方が楽しいよ」
「……美月?」
玲央の笑顔がちょっと怖いんだが、とりあえず三人で俺の買い物することになった。
「ちょっと、歩きにくいんだが……、二人とも距離が近すぎなんだよ!」
俺は二人を引き離そうとするが、美月は華奢な体つきなのに、思ったより簡単に離れてくれない。
玲央の方も、男のくせに細身で無理に押せば壊れてしまいそうな、まるで女の子のような体している。
こちらも本気で引き離すのは気がしけて、結局なすすべがなかった。
「玲央は、ちょっと腕をからませるのはやめとこうか。な? せめて腕を掴む程度にしてくれる? それに、美月もちょっと腕を絡ませるほどまだお互い仲良くしていないんだし、もう少し離れてくれた方がいいんだが」
二人とも、渋々と腕を離す。
しかし、美月は俺の手を取り、手を繋いでくる。
それを見た玲央が、当たり前のように俺の手をつなごうとするので、思わず手を引っ込めてしまった。
「えっ……? 美月はよくてぼくはダメなのかい?」
「ダメなのかい? じゃないんよ。男同士で手を繋ぐのっておかしくない?」
「「おかしくないっ!」」
なんで二人でハモっているんだよ。
そんなこんなで、手を繋いだり離れたり、走って逃げたりと後で考えたら楽しいショッピングを楽しんだ。
「それにしてもいつも冷静でクールな玲央にこんな一面があったなんてね」
「美月、ぼくにどんなイメージを持っているんだよ」
「だって、いつもぼくに近づくってオーラを出していて後輩の子たちも遠巻きしか見られないし、クラスメイトでさえ気軽に声をかけたらいけないような雰囲気出してるじゃん」
「そのわりに、美月はうざいくらい絡んでくるよね?」
そうか、玲央はやっぱり学校ではクール系なのか。
そして、美月はウザ絡みするんだな。第一印象は間違ってなかった。
俺はそんな二人のやりとりを聞きながら、明日からの学校生活がどうなっていくのか不安なようで楽しみでもあった。
「今日は買い物に付き合ってくれてありがとう」
「いいよー! また一緒に買い物しようね。買い物じゃなくても放課後に遊ぼうよ、朝比奈くん」
「ああ、そうだな。まだこっちのことは何もわからないから、またいろいろ案内してもらえると嬉しい」
玲央が、俺と美月の間に割り込むと、「そ、それならぼくが案内するよ」と言うので、みんなで遊べばいいんじゃないかと答えた。何か不満げな表情をして玲央はそうだねとだけ答えた。
「うーん、玲央と朝比奈くんって見てて面白いなぁ。明日から学校でもこんな感じかな。ぜったい、千景も気になってると思うから、今日のこと話してもいい?」
千景って、あのちょっと怖い感じの玲央推しと言っていた女の子だよな。
「千景に知られると、今度は千景もついて来るって言うんだろうね」
「絶対に来るよね。今日も、きっと今頃ここを嗅ぎつけて来そうな感じがするし」
「えぇーっ、そんなの困るよ!」
玲央が本気で嫌がっているのが面白くて笑ってしまう。
「なんで千景に言うんだよ、別に言わなくてもいいよ」
「だって、玲央が突然転校生の朝比奈くんと仲良くなっているんだもん。絶対に気になっているよ」
学校でも、俺のことを頭の先から足の先まで見てたもんなぁ。
「とりあえず、今日はもう遅いから帰るとするよ」
「じゃあ、朝比奈くん、明日から学校でよろしくね」
美月は、ぴょんと跳ねると敬礼のように手を挙げる。可愛らしい仕草に思わず俺も手を挙げた。
「玲央もここでバイバイかな? また、明日ね」
「ああ、また明日。美月も気をつけて帰るんだよ」
玲央は、美月に軽く手を振った。
ショッピングモールの前のタクシー乗り場へ、俺と玲央は向かう。
「あれ、二人ともタクシーなの?」
美月が後ろから声をかけてきたので、振り返る。
俺は、つい言ってしまった。
「そうだよ。俺は玲央と一緒に住んでるから……」
「……え?」
美月の笑顔が固まり、驚いている。なんで?
「ちょっと待って。今なんて言ったの?」
「だから、俺は玲央の家に——」
かぶせるように美月が言う。
「やっぱりあんたたち付き合ってんじゃん!」
お待たせしました。次回から学校に登校してからの話になります。
もし、面白い、続きが読みたいと思っていただいたら評価していただけたら幸いです。




