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毒3「増殖」

 魔法で映し出した外の様子では未だにニールが白いトカゲを生み出していた。その白いトカゲ達は生み出されたそばから空間の魔力を喰らっている。

 それを見た眷属達の反応を伺ってみると、皆それ程驚いていなかった。


 ……まぁ、外見で判断出来ないのもいるからなぁ。キマイラとか表情分かるわけない。フェンリルとかの長生きしてる奴も感情を隠すのが上手だからな。俺なんかが読み取れる道理がない。

 同年代の転生者達はと言うと、アレンは無表情。フランチェスカとリードは口を半開きにしている。当の俺は驚きすぎて逆に冷静になっていた。だって久しぶりに様子を見てみたらトカゲを大量に生み出してるんだぞ?それで驚かない程、俺は図太くない。


「あれは一体何してるんだ?」


 何とか最近覚えた技術で皆に詳細を聞く。直ぐに悪魔達とフェンリルから返事が返ってくる。


「恐らくあれは『並列存在』でしょう。小さく分割し、ただ一つの命令だけを遂げるようにしてるのでしょうね」

「それと、同時に全てのトカゲに『暴食』の権能を付与してるみたいだよ。ここからじゃ確信を持てないけど空間の魔力を食べてるのかな?」

「うむ、マクスウェル殿の言う通り主殿は『並列存在』で生み出しているのであろう。恐らくは魔力を喰らって空間内の支配権を強めるのが目的か」


 この一瞬でそこまで分かったかのか。俺なんて説明されても理解出来ないんだけど……。やっぱり長生きしてるとそういう観察力も身につくのか?


「私達は分からないわ」

「俺も分からん」

「僕は言ってることは理解出来たよ」

「「「我らも出来るか?」」」


 3人の説明を聞いたキマイラ達がそれぞれの感想を口にした。俺と同じく理解出来ていないようだ。


 俺達も出来るか、か。確かに出来れば強くなれるだろうけど、無理なんじゃないか?だってこの中で『並列存在』を所持してる奴はいないし。


「可能性があるのはヴェノム殿でしょうね。『分身』ではマスターのものよりも劣りますが、代わりとしては十分でしょう。スライムの性質もある事ですしね」


 俺がキマイラの質問について考えているとマクスウェルから思わぬ回答が返ってきた。なんと俺はあれが出来るらしい。


「暴食も可能性はありますが、彼女の『分身』は完全なエネルギー体なので難しいでしょう」

「うん、いくら分身体だからと言っても形は変えられないしね。エネルギー効率が悪いんだよ。元から分裂出来て体は自由自在のスライムなら出来ると思うよ?」


 マクスウェルが説明を続ければ、『暴食』のエキスパートであるベルゼブブが補足した。


「ふむ、つまりヴェノムには主殿と同じ事ができると」

「その認識で問題ありません。先程は可能性と言いましたがヴェノム殿ならば確実に出来るでしょう」


 マジか。まさか俺にそんな隠された力があったとは……。これを習得すればもしかしたら俺の時代がくるんじゃないか?少なくとも間違いなく眷属内で上位の実力は手に入るだろ。


「ヴェノムばっかズリィな。俺だって最近『強欲』の応用を覚えたばかりなのによ」

「うん、ちょっとズルいよね。私達アンデッドも最近新しい力を手に入れたばっかなのに」

「……ニールの役に立つなら何でも構わない」

「ふふん、今までの苦労が花開いた結果だな。もっと褒めてくれても良いんだぞ?」


 俺が煽ればリード達転生者から嫉妬の視線が注がれる。唯一アレンのみは反応を示さなかったが、優越感を味わいたい訳では無いので気にしない。


「それで、どうやったらあれは出来るんだ?分身体を作るにしてもまずは魔力がなきゃ出来ないだろ」


 そう、この空間――つまりニールの影には全くと言って良いほどに魔素がない。現実のニールのように空間自体を喰らえば魔力になるだろうが、俺はそんなに器用でもないしな。


「それは問題ありません。周囲にはこんなにも魔力があるのですから尽きることはありませんよ」

「へ?魔力?そんなのこれっぽっちもないぞ?」


 そう返せばマクスウェルが不思議そうにこちらを見て、顎に手を当てて何事か考え始めた。周りを見れば、殆どの者が驚いた風に俺を見つめている。


 ふむ。これはあれか?俺の今の発言が原因か?……それ以外有り得ないか。マクスウェルのが原因だったら俺の事は見ないだろうし。でも何が問題なんだ?現に周りには全く魔力がないじゃん。


「……成程。恐らくヴェノム殿は眼が悪いのでしょう」

「目?」

「はい。我々にはこの空間全体にマスターの濃密な魔力が充満しています。その濃度が原因でヴェノム殿には認識出来ないのでしょう」


 ……つまり俺の目が悪いから見えるもんも見えないと。でもどうすれば良いんだ?眼鏡でもかけるか?


「ヴェノム。おめぇが見えねえのはアイツの魔力が強すぎるだからだろうが。おめぇには目がねえんだからもっと眼で視ろ」

「うん。ヴェノム君は私達よりも肉体の制限がないから頑張ったらもっと視えると思うよ」


 むぅ……。リードが珍しく難しい事を言ってる。もっと簡単に言ってくれた方が楽なのに。ええと、もっと感知の精度を上げればいいんだよな。こんな感じか?


 俺はスキルに意識を向けて今よりも大きな力を引き出す。すると、周り一面真っ黒だった空間が魔力に満ちた明るい空間へと変わった。


「どうやら認識できたようですね。暴食には後で注意し(しつけ)ておきますので気づくことの出来なかった我らをお許しください」

「いや、これ全部未熟だった俺の責任ですよ?」

「ヴェノム殿の慈悲に感謝を」


 咄嗟に敬語で返しちゃったけど、そうだよな。悪魔達にはかなり世話になってるんだし、何かお礼を考えないと。うーん、何にするか。ベルゼブブの喜びそえなもの……駄目だ一つも思いつかねぇ。


「話はそれぐらいにして始めようではないか。主殿からは学ぶべき事が多くある。我らはここで主殿を観察しておるからヴェノムは少し離れたところでやれ」

「命令!?だ、誰か付き添ってくれたりとかしてくれないのかよ!」

「あ、じゃあ僕が一緒にやるよ!ヴェノム君の事を観察してたいしね」


 あぁ……。ベルゼブブは優しいなぁ。この前は変人一号とか思ってごめんね。


「食べちゃいたいぐらいだよ」


 前言撤回。やっぱベルゼブブは変人だ。食べたい本人にそれを言うのは正気の沙汰とは思えない。


 俺がそんな事を考えているともつゆ知らず、ベルゼブブは楽しそうに俺を抱えて移動する。数年間ニールに抱えられていて慣れてはいるが、羞恥心が消えるわけでもなく未だに恥ずかしい。こうゆう時表情のない粘性体で良かったと思うよね。


「ここら辺で良いかな?『暴食』の制御は僕も手伝うからヴェノム君は『分身』に意識を集中させてね。いい?食べた魔力をそのまま『分身』に回すんだからね?」

「一応理解はしてるぞ。ただ、ニールみたいに小さくしたり出来ないから、そこだけ注意してくれ」

「うん。数が多くなったら僕が処理するから安心してね」

「頼んだ」


 俺はベルゼブブに短く答えて意識をスキルへと向けた。『暴食』で周囲の魔力を片っ端から喰らっていく。急速に周りの魔力が無くなったことでそれを動力源にしてるベルゼブブが苦しげに顔を歪ませた。


 ベルゼブブとの修行の時を思い出せ。本能に身を委ねろ。全てを喰らい尽くせ。俺に食えないものはない。


 ――暴食は好きかい?


 突然そんな声が聞こえてきた。男とも女ともとれないようなそんな声だ。頭上のベルゼブブを見ても何か声が聞こえた様子はない。


 ――私が手伝ってあげてもいいんだよ?


 突然話しかけて何を言い出すんだよ。俺がそんな訳の分からない存在に力を借りるわけがないだろ。


 ――僕が君だとしてもかい?


 しつこい。何度聞かれようともお前みたいな自分の事を何も話さない奴を信じたりはしない。


 ――ま、いつまでも待つよ。なんせ、お前は俺なんだから。


 早く俺の中から消えろ。それとも俺に喰らってもらうのがご所望か?


 ――最後に我の力の一部を授けようではないか。存分に私を使ってね。


 そう言うと謎の声が消えていった。同時に『暴食』の力が増す。みるみるうちに周囲の魔力を喰らっていき、ベルゼブブの体まで喰らい始めた。


「……っ!」

「大丈夫。僕は大丈夫だからもっと力を引き出してよ。ほら、早く」


 制御に失敗し体を魔力に分身させられているというのに、ベルゼブブは目をキラキラさせて俺を見つめる。まるで、ずっと探していたものを見つけたみたいだ。


「……分かった。喰われるなよ」

「うん!安心して全力を出してよ」


 俺は制御を止めて『暴食』の枷を外す。そうすれば『暴食』はこの陰空間全ての魔力を喰らい尽くす勢いで周囲を食らう。喰らったニールの濃密な魔力がそのまま俺の中で暴れ回る。それを無理矢理押さえつけて今度は『分身』へと注ぐ。


「そうそう。それをそのまま『分身』に突っ込んじゃって。ヴェノム君寄りに魔力を変質させちゃうと分身の形が崩れちゃうから」


 ベルゼブブの助言通りに俺の魔力と混ぜないように隔離しながら注げば俺の体から小型のスライムが分裂する。それを皮切りにポコポコと小型スライムが生み出される。一瞬で辺りが黒い粘性体でいっぱいになる。


「ん……。ちょっと多いかな。少しペースを落としてもいいよ。処理が大変になってきたから」

「……スマン。『暴食』が止まらなくなった。分裂を止めたら俺が内側から壊れる」

「えっ。今なんて?あ、ちょっと!何で分身から分身が生まれてるの。多いから!多すぎるからああぁぁぁ」


 その言葉を残してベルゼブブが小型スライムに飲み込まれていく。飲み込まれる直前俺を投げ飛ばしてけれたので俺は無事だ。一応魔力は消えてないので俺は『暴食』の制御に意識を回す。


「おわっ!んだこれは。あ?ちっちぇヴェノムか?」

「うん、ちっちゃいヴェノム君だね。それも沢山。一体どうしたんだろう?」

「……あれを見ろ」


 制御に苦心しているとリード達の声が聞こえてきた。どうやら、異変を感じて様子を見に来てくれたらしい。


「ちっ!こいつ離れねぇ。しかも俺の漏れてる魔力を吸収して分裂しやがる」

「ちゃんとヴェノム君の権能を有してるんだね。私も子供達に権能を振り分けれないのかな?ひゃっ!変なとこ入った!」

「……性別はないから大丈夫だ」

「そういう単純な事じゃないからぁ!」


 ……俺の分身の癖に羨ましいことをしてるなぁ。というか、アレンは何であれで平気なんだよ。もう下半身全部埋もれてるぞ。


「くそが!こいつ魔法が効かねぇ。――うおっ!」

「リード君!大丈――きゃぁ!」

「……」


 3人は先程のベルゼブブと同じように小型スライムの波に飲み込まれた。こちらも同じく魔力は感じられるので生存はしている。


 くっ……。周りの魔力が減って多少制御出来るようになってきたけど、まだ分裂を止めるのは危険だな。よくて破裂、悪くて消滅だ。


『暴食』の制御について悩んでいると今度は銀髪の犬耳イケメンと青髪に紅メッシュの入ったこれまたイケメンが歩いてきた。


「ふむ、リード達の叫び声が聞こえて来てみればなんだこれは。マクスウェル殿は分かるか?接触で魔力を食らうようだが」

「どうやらヴェノム殿のスキルが暴走した結果みたいですね。結界で接触は防げるようなのでヴェノム殿の所まで進んでみましょうか」


 2人は体の表面に薄い結界を張って俺の方へ向かってくる。近づいてくるにつれスライムの数が増えていき、既に結界を覆っている。肉眼では見えていない筈なのに迷わず向かってくるのは流石だ。


「む、捕食速度が加速したようだな。これは……酸か?ふむ、これが結界の修復を妨げているのか」

「フェンリル殿、凶報です。あちらに残してきた眷属との繋がりが切れました。死んではいないようですが動けないようですね。キマイラ殿達も飲み込まれております」

「……これは我ら以外には無理か。しかし、我は守るということを今までやっておらず結界が苦手でな。もう修復が追いつきそうにない」


 フェンリルがそう言うやいなや結界に穴が空き、そこからスライムが侵入する。瞬く間にフェンリルの魔力を吸収して内側で増殖し始めた。


「どうやら捕食するのは表面の漏れ出ている魔力のみのようだ。我はここで待つ故、マクスウェル殿は先に進んでくれ」

「……いえ、私もここが限界のようです」


 そう言ってマクスウェルが無防備に右手を出せばそこにスライムが飛びつき、一瞬で魔力へと分身した。


「ここから先は命の危険があります。ヴェノム殿の周囲の魔力が少ない方が早く沈静化するようなので我々はここで引きましょう」

「むぅ、口惜しいがそのようだな。収まった際にヴェノムに言うことでも考えて待つことにするか」


 2人は結界を解除してスライムに身を委ねた。無抵抗な2人をスライム達は容赦なく平等に飲みんでいった。


 〜そして現在〜


 辺り一面スライムの海だ。『暴食』は未だに暴走を続け周囲の魔力を食いまくってるが、周りの魔力は全く減ってない。何故かって?原因は単純明快。ニールの魔力は多すぎるんだよ。魔力量がおかしいだろ!かれこれ30分くらいは喰らって分裂してるのに全く減らないんだぞ!貯蔵し過ぎだよ!


 もじょ……


 俺が内心ニールに文句を言っていると一部分だけ変な動きをし始めた。


 ん?今スライムが変な動きしなかったか?そうだな。丁度フランチェスカ達が飲み込まれた辺りだ。


 もじょ、もじょじょ……


 ほら、やっぱり!誰か『暴食』の耐性がついて動けるようになったのか!?それなら速く助けてくれ〜!


 もじょ……もじょ……パァン!


 破裂した!?痛っ!いや痛くない。なんだ?何か飛んできたのか?


 観察しているとそこが弾け飛び俺の方に何か飛んできたの。それは他のより若干紅い小型スライムだ。


『おい!てめぇ、いつまで待たせれば気が済むんだよ!そろそろうぜぇわ!』


 驚いてい目を見開けば――目がないから出来ないけど――スライムから念話で怒鳴られた。その声はこの世界に来る前からの付き合いの黒崎にそっくりだ。


『おい、寒河江……じゃなくてヴェノム聞いてんのかよ!』

「いや、聞こえてるんだけどお前の姿が衝撃的過ぎて声が出ない」

『あ?そう言えばやけに体が軽ぃな。てっ、んだこりゃぁぁぁ!』


 飛んできた紅黒いスライム。それは変わり果てた姿のリード――黒崎 拓真――だった。

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