報告
爆発で生じた煙で部屋が満たされる。しかし、辺りは爆発したのにも関わらず被害がない。
「けほっ、一体何が起こったの?術式にそんなのは組み込んでないのに」
「……お前が失敗するなんて珍しいな」
「いえ、恐らくこれはレイさんが原因です。魔法の発動とは別の魔力反応がありましたし」
そうなんだ、全く気づかなかった……。やっぱり魔法に触れている時間が長いからそういう事に気づきやすいのか?それとも単に注意深いのか?
「ふふふ、やっと強靭な肉体を手に入れたわ。さぁ、レイ!お父さんを助けに行くわよ!」
煙の中から霊山の声が聞こえてきた。しかし、口調は先程とは似ても似つかない雰囲気だ。
「お母さん落ち着いて。助けに行くにしても成田にお礼を言わないと」
「美結ちゃん……?そこにいるの?」
また霊山の声が聞こえてくる。今度は先程までの霊山と同じ雰囲気だ。この声にずっと霊山の遺体を抱いていた清川が反応する。
2人いる訳では無いな。気配も聞こえてくる声も一つだ。……でもそれだと霊山が全部喋ってる事になるんだよな。
煙が晴れてきて魔法陣の上に一つの影が見える。やはり、1人で喋っていたようだ。不可解極まりない。
「別に良いじゃない。レイのお友達だってお父さんを助けるために連れて行ってくれるんでしょ?終わってからでも遅くないわよ!」
そう言って影は周囲の煙を吹き飛ばした。そこには少々成長した姿の霊山がいた。だが、様子が変だ。それを見た親友である清川が硬直する程だ。
「違うよ。建前では私をここから出す為に連れていくんだからね、お母さん」
「……おい」
「あ、建前って言っちゃった。はは」
霊山は誤魔化すように苦笑する。その姿は容姿と相まってまるで前世の体のままこちらに来たみたいだ。
「……説明しろ」
「何を?」
「……爆発とお前の変化について」
「あぁ、うん。そうだよね。目の前でいきなり一人で喋り始めたら不思議に思うよね」
「あら、レイが気負う必要はないのよ?説明するだけなんだし頑張って」
「お母さんは少し静かにしてて」
突然、霊山が口調を変えた。直ぐに戻ったがかなり情緒不安定だ。
「さっきのはお母さんが話してたんだ。成田がこの体にしてくれた時にスキルが変化して、お母さんの魂が体に入ってきたんだよ。因みに爆発もスキルが変化したのが原因だよ。何か知らない?」
シルビアの方を向けばバッ、と顔を逸らされた。汗が凄い量出ている。魔法陣に問題はなかったが結局自分が原因だからな。
「い、いや、私も意図してやった訳じゃないんだよ?ただ、霊の力を使えたらもっと強くなるかなぁ、って思っただけだよ」
まだ俺は何も言ってないのに言い訳を始めるシルビア。目が右へ左へと行ったり来たりで落ち着きがない。
「……別に責めてない。それでこれは直るのか?」
「え?う、うん。直ぐには難しいけどレイちゃんがスキルに慣れれば憑依を解除できるよ」
「そうなの?でもこのままでいいかな。お母さんと一緒にいれるからね」
「……そうか。ただ、いざと言う時のために解除の仕方は知っておいた方がいい」
「うん。後でシルビアさんに教えてもらうよ。宜しくね」
「うん。寧ろこっちからお願いしたかったから嬉しいよ」
そう言って霊山はシルビアへお願いする。シルビアは自らが作ったスキルの性能を試したいのだろう。食い気味で了承した。
「……み、美結ちゃん!」
突然背後から少女が走ってきて霊山に抱き着く。その少女とはもちろん清川だ。霊山の変化による硬直がやっと解けたのだろう。
「あぁ、美結ちゃんだ。良かったよ生きてて。ニールちゃんの事を疑ってた訳では無いけど、心配だったんだからね」
「わっ。何この娘!ほっぺをスリスリしてくるんだけど。ねぇ、レイ!逃げないでよ」
ふむ、霊山は親に押し付けたのか。便利だな、それ。それと、清川、嘘をつけ。本当に俺の事を信じていたならあんな反応はしないだろ。見てて面白かったけどな。
「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いて安寿ちゃん。どうどう」
「うん、うん。私は落ち着いてるよ。あぁ、美結ちゃんの匂いだ。すんすん」
全く落ち着いていない。冷静だったら顔を埋めて匂いを嗅いだりは絶対しないだろ。
「あ、これダメだね。しばらくこのままだよ成田」
「……言い方的に地球でもそんな感じだったのか?」
「うん。時々こんな感じだったよ。嬉しいけど、すこし困るかな」
そう言ってるが嬉しそうな霊山。苦笑しているのは変わらないが、さっきまでよりも明るい笑顔だ。
「……清川はそのままでここを出るぞ。それと、俺達だけの時は構わないが外では前世の名前で呼ぶな」
「そうなの?それじゃあニールちゃんって呼んで良い?」
「……構わない」
「ありがとう、ニールちゃん」
もう慣れたけど、何で俺はちゃん付けで呼ばれる事が多いんだろうな。世界神に始まりシルビアだろ?清川にジャック、それと霊山か。あれ、そう考えると少ないな。どうして多く感じたんだ?
「もう話は終わり?ニールちゃん。それならおじさん達の所に戻ろうよ。お祭りを開いてくれるんだって」
「……そう言えばそんな事を言ってたな」
「ね!私達ニールちゃんと一緒に行けないから少しでも楽しい事をしてたいんだ!……駄目?」
ジャックが上目遣いで俺を見る。既にインバネスコートから着替えて黒色の外套で色気は皆無だが、正直言ってとても可愛い。思わず抱きしめそうになってしまった。
「……ブラッドとの約束があるけど……まぁ大丈夫だろう。良いぞ」
「やった!いっぱい飲んで楽しもうね!あ、これは返してもらうね」
ジャックの提案に了承すると、ジャックが首元に抱きついてきた。そのまま何かゴソゴソと俺の服を弄り、離れた時には手に解毒の石が握られていた。
「……何故それを回収する」
「え?だってこれがあったらニールちゃん酔わないじゃん。それじゃあつまらないよね!」
「……いや、元々飲む気はないぞ」
だって、酔ったら記憶なくなるし。それにまだこの体5歳だからな?……既に手遅れだけど。
「ふうん。いいや!ニールちゃんはそこに居てくれるだけでいいよ!私達はお話ができれば嬉しいし」
「……分かってくれて何よりだ」
「ニールちゃん。騙されてる。騙されてるから……」
「……?どうしたシルビア?」
シルビアからの方を向けば何とも言えない目で見つめられた。本当にどうしたんだ。
「ど、どうしたってジャックちゃんにだま――もごもご」
「ふふふ、何でもないよ。君のしたいようにすればいいさ」
何事か話しかけたシルビアの口をラプラスが塞ぐ。いつも通り、俺の自由にすればいいと言うラプラスだが、少し違和感があった。
「……何か隠してないか?」
「私が君に嘘をつくと思うかい?それじゃあつまらないじゃないか」
「もごもご」
「……まぁ、いい。お前が何か企んでるのはいつもの事だ」
「心外だよ。私はいつも君の事を思ってるのに」
微塵も思ってなさそうにそう言うラプラス。単眼の仮面が妨害して表情は読み取れないが、恐らく笑ってるのだろう。やっぱりこいつも悪魔なんだな。
「ささ、早く行こ!おじさん達はもう始めてるみたいだよ?」
確かに耳をすませば騒音と雄叫びが聞こえる。完全に出来上がっているようだ。我慢出来なかったのか?
「……お前らはどうする?」
「私も参加しようかな。安寿ちゃんもこんな感じだし」
「えへへ、美結ちゃんプニプニ〜」
「……俺は影に入ってる」
元クラスメイト達にどうするのか聞くと宮沢は影に入っていった。霊山は参加するらしい。清川がそんな状態で大丈夫なのか?
「勿論あたし達は参加するよ。アンタの抑止力としてもあたし達が必要になるだろうからね」
続いて並列思考に視線を転じればシェリーが代表して答えた。一部理解出来ない事を言ってたがどういう意味だろうか?
「もう大丈夫?じゃあ行こ!ニールちゃん達の用事が始まるまでに長く話したいんだから!」
ふむ、少し焦ってるか?さっきからやたら行こうと言っるし……。さっきのラプラスの様子を見てるからか何かあるのかと疑うぞ。
「どうしたの?……もしかして私達と話すのが嫌になっちゃった?」
立ち止まって考えていると俺が嫌になったから止まってるのだと思ったのだろう、目に涙をためていた。
「……いや、考え事をしていただけだ。お前と話せるのは楽しみだぞ」
「そうだよね、私達も楽しみだよ!またしばらく会えなくなるから沢山話そうね!」
ジャックはニッコリと笑って扉の方へかけていく。風魔法で石の扉を開けて宴の方へ向かう。別れてからの話とか楽しみだな。
――――――
―――
―
という事があって今。先も話した通りそこら辺の酒場でも見れるような光景が広がっている。闇市と聞いて少し期待してた頃が懐かしいなぁ。
「どうしたの、ニールちゃん?何か不快だった?」
「……いや、ここに来るまでの事を思い出していた。それでどこまで聞いたか?」
「うん。ええとね、迷宮街で別れた所まで話したかな?私達の前世は前に話したのが全部だよ」
そう、俺とジャックは今、経過報告のようなものをしている。と言ってもこの数日で何をしたのかを言うだけなので俺は大して話すことはなかった。
「それでね、ニールちゃんと別れた後は執事服のお兄さんに聞いて悪い人達の所に行ったんだ」
今のを聞いてもわかる通り、ジャックは比べるまでもなく濃密な時間を過ごしていた。いやまぁ、少しは知ってたけど改めて聞くと凄いな。
「それでね、裏町のどんっていうおじさんを解体してね、私達が悪い人達のトップになったんだよ!凄いでしょ」
ジャックは誇らしげに胸を張る。この話を聞いていなかったらとても可愛く見えただろうが、聞いてしまった俺にはジャックの後ろに死神が見えた。
「……それは聞いたな。俺が出た後はどうだったんだ?」
「ニールちゃん達が出発した後直ぐに私達も街を出たよ。どんさんに管理を全部丸投げしちゃった」
イタズラがバレた子供のように舌を出すジャック。その姿に和みつつ、俺はどんとやらが殺されていなかった事にちょっとだけ驚いていた。
「それでね。ここ王都に一番偉い人がいたから私達が代わってあげたんだよ。今はもういないけどね」
少女らしく破顔させながらジャックはそう言う。さっきからジャックの表情にばかり気を取られているが、ちゃんと聞いてるぞ?つまり殺したんだろう?
「そしたらここにレイちゃんがいたんだよ!最初は分からなかったけど、鑑定したらニールちゃんの友達って分かってね!話してたら仲良くなったんだ」
「へぇ〜、そう」
俺は木製のジョッキの中を飲みながら軽く答える。それにしても美味しいなこれ。なんて言う飲み物なんだ?
「んふふ、いい感じ」
「ん?どうしたジャック。続きは?」
「うん。そうだね。レイちゃんとお話して楽しんでたんだ!私達はいっぱい共感できて楽しかったよ」
「そうなのかぁ。私も仲良くなりたいなぁ」
リードとかお話したら仲良くなれるかな?ギューってした方が良いかも?ん〜、分かんないや。
「それでね、色んな所の話を聞いたんだよ。魔族領はいい人が沢山いたんだって。あ、でもレイちゃんのお父さんが高位の魔族だったからだって」
「私ドラゴンだけど仲良くしてくれるかなぁ」
「ドラゴンの神様もいるし大丈夫じゃないかな!マフィニカ渓谷を超えたら魔族領だし行ってみたら?」
魔族領だったらオーガ達も安全なのかな。私あの人達の王様だから守ってあげなくちゃ。えっへん、偉いでしょ。
「どうしたのニールちゃん。急に立ち上がって胸を張ったりして」
「えっとね。私王様だから皆を守るんだ」
「そうなんだ!やっぱりニールちゃんは優しいね!私達だったら全員解体してるよ」
「えへへ、凄いでしょ」
俺は木製のジョッキを傾ける。が、中には何も入っていなかった。
「無くなっちゃった……」
「あ、おかわりする?ねぇねぇ、おじさん。新しいの持ってきて」
「了解、ボス」
ジャックに頼まれてスキンヘッドの男がどこかへ走っていく。しばらくすると数本の瓶と2人の男を連れて戻ってきた。
「ボス、貴族の客人ですぜ。何でも姉御に用があるようで」
「誰かな?つまらなかったら解体しちゃうよ?」
ジャックが問いかければ後ろの男2人の内一人が俺の前まで歩いてくる。顔を上げてみればその男はブラッドだった。
「あ〜、完全に出来上がってるなぁ。どうりで来なかった訳だぁ」
「あ、ブラッドだ〜。見て見て、私こんなに飲んだんだよ」
俺は周囲に転がっていた樽を投げる。呆れた目でブラッドが曲芸師のように縦に重ねて受け取った。
「お前がこんなに飲めるわけ無いだろぉ」
「流石ブラッドだね。じゃあこれはどう?」
俺は今度は『創造』で作り出した剣を投げる。それは俺の膂力によって音速を超える。ブラッドは瞬時に腰の剣を抜いて勢いを全て殺した。
「危ないなぁ。俺じゃなかったらこいつが死んでたぞぉ」
「ははは、お話通り規格外な少女ですな、剣聖殿。失礼、私はモーブ・フォン・ヴダと申します。以後お見知り置きを」
ブラッドの後ろにいた太った男が乾いた声で笑う。その顔は汗で塗れており、表情は引き攣っていた。にも関わらず、その男は堂々と挨拶してきた。肉体だけでなく神経を太いみたいだな。
「お見知り置きを!オークみたいなおじさん」
「オ、オークですと……?」
「気にするなよぉ。こいつ酔うと別人だからなぁ」
「それでブラッドはどうしてここにいるのぉ?」
俺が問えばブラッドは表情を曇らせる。俺以外には聞かせたくないのだろうか?
「今のお前に言っても意味ないんだけどなぁ……」
違った。どうやら今の俺に言うかどうかを迷っていたみたいだ。
「そんな事ないもん!」
「あ〜、じゃあ言うぞぉ?聞いて驚くなよぅ。……今のお前だと驚かないなぁ。まぁいい。実は俺も想定外だったんだが――」
ブラッドそこで一度言葉を切り、真面目な表情になる。仕事モードだ。
「神聖教の教皇がお前に会いたいらしい。それも秘密裏にだ」




