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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
八章 ドリル少女は引っ越したい!?
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97 高貴オーラ


 時乃運子ときのうんこは、漫画のように目をくるくると回しては、大の字になって瀕死の魚のようにピクピクと痙攣していた。


「あびゃびゃびゃびゃぁぁぁ〜」


 等と、時折意味不明な声を上げてはいるが、どうやらみたところ身体に外傷はないようで、俺は安堵の息をついた。それはウルルも同じのようで、高速回転していた右腕のドリルを停止させると、元の腕へと戻し、倒れている時乃運子の身体を抱きかかえた。


「勝負とはいえ、うちのせいでこんなことになって、ほんまごめんなさい!」


 ウルルは優しい子である。たとえ勝負事とはいえ相手を傷つけたりなどしたくはなかっただろう。実際ウルルにそんな気持ちは微塵もなかったに違いない。ただ全力で頑張った結果がこうなってしまっただけなのである。


「安心なさい。うちの時乃は頑丈に出来てるから、これくらい大丈夫よ。まぁ一応大事を取ってこっちの部屋で寝かせておいてあげて」


「ほんま? ほんまに大丈夫?」


 ウルルは時乃運子を抱きかかえたまま、涙目になって心配そうに尋ねた。


「このジョウオウ・サマは嘘をついたりはしないわ。ね?」


 ジョウオウ・サマは、大人の女性の抱擁感といたずらっ子を混ぜ合わせたような表情で微笑みかけると、ウルルの肩に優しく手をおいた。それに安心したのか、ウルルは涙を堪えつつ言われた通りに、時乃運子を隣の部屋へと連れて行った。


「私もついていこう!」


 今まで完全な空気と化していたオウ・サマが、ここは自分の出番とばかりに意気揚々とウルルについて行く。あのおっぱい大好きオヤジ変なことしないだろうな? と、俺が部屋をあとにした二人、いや気絶している時乃運子を入れれば三人を見送った後、取り残されるのは当然、俺とジョウオウ・サマの二人なわけで、俺は緊張のあまり自然に背筋がピンと伸び切っていた。

 割烹着姿だというのに、この周囲を満たす高貴さに当てられると、庶民である俺はそのまばゆいばかりの光に消滅してしまいそうになる。まるでドラク○のニフ○ムをくらう雑魚モンスターの気分だ。


「あらまぁ、大宇宙さんそんなに緊張しなくてもいいじゃありませんか。それとも、こんなおばさんと二人っきりはつまらないですか? うふふふ」


 ジョウオウ・サマは一片の無駄もない綺麗な所作で俺の真正面に正座をすると、何処からともなくお茶の入った湯呑を俺の前のテーブルに置いてくれた。

 

「いやいや、あはははは、そんな事はありませんよ。あははははは、美味しいなぁこのお茶」


 笑って誤魔化すとはまさにこの事だった。勿論、慌ててお茶を口に運んだせいで、味なんてものは殆どわかっちゃいない。それどころか、直接気管に入り込んでは、思わずむせてしまいそうになりかけたほどだ。そんな俺を見たジョウオウ・サマは、肩をすくめて少し困った顔をしたあと、小さく指をぱちんとならした。すると、急に周囲が暗くなったような気がした。これは蛍光灯などの明かりが消えたのではない、なんとジョウオウ・サマを覆っていたまばゆいばかりの高貴オーラが消え去ったのだ。


「え? これはどういう事?」


 驚きのあまりキョロキョロと落ち着きのない俺を見て、ジョウオウ・サマはいたずらっ子を様に笑った。


「うふふふふ、便利でしょ? 王族のこういう固っ苦しいオーラは消すこともできるんですよ。反対に付けたりもね」


 ジョウオウ・サマが再び指をパチンと鳴らすと、サングラスが必要なほど強烈な高貴オーラが復活した。


「目が、目がァァァァァァ!!」


 俺はラピ○タに出てくるム○カ大佐のように目を抑えては、部屋の端から端まで転がりまわった。


「ごめんなさいね。高貴なオーラの出力を上げるとこういう事もできるのよ」


 ジョウオウ・サマが三度みたび指を鳴らすと、激しい光は次第に収まっていき、数秒で通常の状態へと戻っていった。光が収まったことを確認すると、俺はゆっくりと目を開く。その視線の先には、俺の慌てふためくさまを見て、口元を抑え笑いをこらえているジョウオウ・サマの姿があった。


「ま、まさか、電気のスイッチみたいに、切り替えることができるとは……思いもしませんでしたよ」


「世の中には不思議な事がいっぱいあるのよ。そう、女の子の心の中と同じくらいにね」


 ジョウオウ・サマは自分用のお茶をすすりつつ、頬に手を当ててまるで少女のようにお茶目な口調で言う。そんな言葉に、このジョウオウ・サマは女王であると同時に、一人の女の子であるのだと、改めて思わされる。


「さてさて、それは兎も角、少し変わった女の子だとは思っていたけれど、あんな隠し技があるとはびっくりよね」


 実際この俺すらも、どうしてウルルの腕がドリルになるのか何も知らない。


「普通に考えれば、あんなの反則よね?」


 ジョウオウ・サマの視線がこちらの心の内を伺うかのように、俺の瞳の奥底を覗いて居るように思えた。

 確かに、普通のじゃんけんならばあんなものは反則以外の何物でもない。ただ、相手がドリルの威力で吹っ飛んだだけなのだから、反則以前にじゃんけんの体すらもなしていない。ジョウオウ・サマが『ドリルはパーに勝つよね』と言ってくれていななければ、ウルルが反則負けにされていても何もおかしくないだろう。


「でもですね、ウルルは反則をするつもりは……」


 相手を説得するためのロジックなど何もない、ただウルルが純粋な気持ちで勝負に向かったこと。相手を傷つける気持ちなど無かったことを伝えたかった。しかもドリルを高速で回転させた原因はきっと俺の『頑張れ』の言葉にあるのだから、もう俺が悪いと言っていい。そう、ウルルは何も悪くない、俺が全部悪い。

 そんな気持ちをぶつけようと、大きく息を吸い込んで、腹の底から言葉を弾き出そうとした刹那。


「わかってます」


 ジョウオウ・サマが言葉を遮った。


「言わなくてもわかってる。それに何か勘違いをしていませんか? わたしはじゃんけんからのあっちむいてホイをしてもらいますとはいいましたけれど、その勝敗で試練の結果を決めるなんて、一言も言っていませんよね?」


「え?」


 俺は記憶を思い返してみる。……確かに、ジョウオウ・サマは試練としてあっちむいてホイをしてもらうとは言ったが、それの勝敗云々については何も言ってはいない。だが、普通に考えれば勝たなければ試練は突破できないと思うのが普通ではないのか? いや待てよ!


「勝って強運を示せみたいなことを言いましたよね?」


「はい、言いましたよ。でも、勝って強運を示しても、それが試練のクリアになるとは言っていませんけどね。うふふふ」


 こ、このジョウオウ・サマはとんだ狸だ。となると、あっちむいてホイで勝利したウルルが、試練を突破した事にはならないという事に!


「そんなのちょっと卑怯じゃ! じゃ、ウルルは試練を……」


 そこまで言いかけて、俺の額にジョウオウ・サマの指先が触れていることに気がつく。ジョウオウ・サマの右手の人差指が俺のおでこを突き刺していた。まるでそこにスイッチが有るかのように、俺の言葉は途切れてしまう。

 

「落ち着きなさい。話は最後までい聞くものですよ」


 そう言って、ジョウオウ・サマはお茶菓子の入ったお皿を何処からともなく取り出すと、その中の一つを俺に手渡す。俺の手の中にはハッピーターンが握られていた。


「まぁ、お菓子でも食べて落ち着いてね。お話の続きはみんなが戻ってきてからにしましょうね」


 俺は言われた通りに、ハッピーターンを食べた。美味かった。続いて二個、三個と食べた。止まらなかった。不思議なことに食べ続けていると色んな感情が薄れていくから、ハッピーターンの魔力恐るべしである。

 

「あっ、お菓子食べてる!」


 ウルルとオウ・サマが戻ってくる。戻ってくると同時にウルルはテーブルの上のお菓子を見つけては、ゴクリとつばを飲み込んだ。どうやらお腹が空いているらしい。そう言えば、今日一日いろんな事があったのに何も食べていなかった。そりゃお腹も空くわけだ。


「ほら」


 俺はハッピーターンを一個ウルルに手渡す。ウルルはそれをまるで食いしん坊なリスのようにカリカリとかじって食べた。口から粉がボロボロとこぼれてお行儀が悪かったが、そんなもの美味しそうに食べるウルルの笑顔を見ていたらどうでも良くなる。それはどうやら、オウ・サマや、ジョウオウ・サマも同じ気持ちのようで、みんなして我が子を見守るような温かい視線をウルルに向けるのだった。


「こほん、ウルルちゃんも戻ってきたことだし、最後の試練の結果を発表させてもらうわね」


 ジョウオウ・サマは、ウルルがテーブルの上のお菓子を完全に食べつくしてたのを確認してから、真剣な表情を向けるのだった。

 


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