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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
八章 ドリル少女は引っ越したい!?
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86 ボーイズラブ!?


 

「誰も周りにいないってことがこんなに心が落ち着くなんてなぁ……」


 俺は昼過ぎまで布団の中で惰眠を貪っていた。

 昼まで寝ていても誰からも文句を言われないのが、一人暮らしの良いところである。まぁ、突如として藤宮花火ふじみやはなびが傍若無人に乱入してきて文句を言うなんてパターンもあるわけなのだが、今は普通の女子高生ならば学校に通っている時間なのでそれも心配しないで良い。とは言え、あいつならば時空を無視してここまでワープしてくる可能性すらあるのが恐ろしいところだ。

 

「って、そんわけはないよな?」

 

 と、言葉で言いながらも、俺は布団の中から首だけをにょろーんと伸ばしては、四方八方をせわしなく確認した。右よし左よし上よし下よし……いや、流石に下はないか。と思ってみても、俺は自分の枕の下すらも確認してみた。


「よし、枕の下には居ないな」


 むしろ居たらドびっくりである。

 取り敢えず、花火の学校が終わるまでのあと数時間はゆっくりと寝ていられる。あぁ、仕事もしないで寝ていられることの幸せたるや、この世の至高と呼んでも良い。

 俺は布団の暖かさを再確認しつつ、ゆっくりと瞼を閉じる。そして布団の中で大の字に手足を伸ばす。体全身の筋が伸ばされていくような気がして心地が良い。

 あの海の一件以来、俺は自分の部屋のありがたみというものを身にしみて実感している。『男子たるもの外に出れば七人の敵がいる』などと昔の人はのたまわったわけだが、俺の場合は外に出たら、七人の敵どころか、七大魔王器が待ち構えている可能性すらあるわけなのだ。

 今までのパターンから察すると、残り六つの魔王器がまともなものであるはずがなく……あの魔王器レヴィアタンだけですでに持て余しているというのに、あんなのがあと六体居ると考えただけで吐きそうだった。

 『犬も歩けば棒に当たる』ということわざは、思いがけない幸運がやってくるという意味だが『俺が歩くと魔王器に当たる』の場合は、思いがけない厄災に巻き込まれる意味であることに間違いないだろう。

 

「俺は外に出ないぞ! 外に出なければ、誰とも、勿論魔王器とやらとも出会うことはないはずだ!」


 俺は布団の中で強く拳を握りしめた。

 玄関の鍵は締めてある。電話は電源を切ってある。窓の戸締まりもバッチリ。食料も数日分は冷蔵庫にある。

 こうして引きこもりを決め込んだ俺は再び眠りに落ち……ようとして顔面に強烈な痛みを感じた。


「ふぎゃっ」


 俺はまるで踏みつけられた猫のような声を上げた。

 一体何が起こっているのか俺にはまるで見当がつかなかった。ただ俺の顔面の上に、何かまるで成人男子の足のようなものが乗っかっている気がしてならなかった。――驚くことに実際乗っていた。


「おやおや、薄汚い野良猫でも踏みつけましたか?」


 高圧的なイケメンボイスが俺の耳に届いた。この声には聞き覚えがある。が、その前に……


「ふごぉぉぉぉ!」


 俺は首に渾身の力を込め、顔面に乗っかっている足の裏を振り払った。俺の視界には、優雅に跳躍をしては、羽毛のように柔らかな着地を決めるイケメン男子の姿が映っていた。その動きがあまりにも美しく俺は一瞬見惚れてしまった。


「いやいや、見惚れてる場合じゃないんだよ!」


 俺は布団の中から飛び起きると、どこぞのカンフー映画のような構えをとって相手を威嚇した。しかし、服装がTシャツにパンツ姿なので一つも様になっていないことはご了承していただきたい。

 

「何というみすぼらしい格好……。目が腐り落ちてしまいます」


 そこには身長百九十センチはあろうかという金髪ロシア系イケメンが、俺を侮蔑の視線で見下ろしていた。このイケメンに俺は見覚えがある。そう、こいつとは神宴久遠しんえんくおんのところであっている。そう、確かこいつは……


「お前は久遠くおんのところの……レックウザ!」


 俺はビシッと指を指して叫んだ。


「人を伝説のポケモンのように呼ばないでいただきたい。私の名前はそんなのではない!」


 イケメンの目尻が釣り上がる。怒っているイケメンというものは、男の俺から見ても何かしらゾクゾクするものがある。


「とすると、お前は久遠のところの……レウルーラ!」


 俺は改めて指をビシッと指して叫んだ。


「人をネオ・ジオン総帥の旗艦のように呼ばないでいただきたい。私の名前は……」


 今度は目尻が釣り上がるだけでなく、ピクピクと痙攣が見られた。イケメンというものは、なにがどうなっても美しいものであると、俺は実感させられた。


「ならば、お前は久遠のところの……レッキングクルー!」


 三度俺は指をビシッとさして叫ぶ。


「だーかーらー、人をファミコン初期のゲームソフトのように呼ばないでいただきたい! 一体何度これを繰り返そうと言うんですか」


 ロシア系金髪長身イケメンが右手の手刀を振り上げる構えをとった。攻撃態勢にはいるイケメン、これもまた良いものである。俺が女子であったならば『きゃーその手刀で真っ二つにしてぇぇぇ』と黄色い声を上げたかもしれない。


「すまない。いつもツッコミ役ばっかりだからさ、たまにはボケに回ってみたくてな。あれだろ、久遠のところの、ディスなんとかレなんとかだろ」


 俺は顔の前で両手を合わせ、ごめんねのポーズをしてみせる。


「ディスタンシィア・レックスだ。まぁ貴様に覚えてもらわなくても結構だ」


 レックスは手刀を下ろすと、少し乱れた上着の襟元を律儀に正した。前見たときと同じように、TEH執事といった感じの細部まで丁寧に装飾されたとても綺麗な燕尾服を身にまとっている。きっとこの服装で町中を歩いていたらコスプレか何かと思われることは間違いないだろう。

 と、ここまで天丼コントをやっておいて、やっと自分のお枯れている状況を理解することが出来た。


「って、おい! なんでいきなり俺の部屋に侵入してんだよ! チャイム押すどころか、ノックもなしに寝室に忍び込むとか……お前……まさか俺の身体が目当てなのか!?」


 俺は布団のシーツを掴むと、身体を隠すようにくるまると、胸と股間の位置をディフェンスした。

 

「……本気で言っているのか? それともまたボケているのか……?」


 レックスはまるで頭痛に襲われているかのように、こめかみにシワを寄せていた。

 

「このご時世、イケメン執事ときたら、あれだろ、攻めなんだろ! よくわからんが、俺がヘタレ受けとかになるんだろ! 知ってるんだぞ! 薄い本みたいなことになるんだろう!!」


 俺はどこぞで聞きかじった知識を総動員して、現在の状況をどうにかしようとしていた。勿論それは大間違いなのだが、寝起きのぼんやりした頭の俺がちゃんとした答えに行き着くわけもなかった。

 

「えぇい、貴様が神宴しんえん様の縁故のものでなければ、次元ごといますぐ切り裂いてしまうものを……」

 

 再び構えられたレックスの手刀の周囲の空間に亀裂が生じていた。そうまるでなにもない宙空が紙のように切り裂かれているのである。

 この時ようやく、俺は自分の部屋にそれよりも巨大な空間の亀裂があることに気がついた。


「な、なんだこれ……」


 その亀裂の大きさは人が通るのにちょうどいいサイスだった。


「まさか、お前はこうやって空間を切り裂いて俺の部屋に直接侵入したっていうのか?」


「その通りだ」


「そこまでして、俺の身体がほしいのか!?」


 俺は改めて股間のガードを固める。


「五月蝿いわ! そんな訳あるはずがないだろうが! いい加減にせぬと貴様の身体を三十六分割に切り裂いてくれるぞ!」


 本気の目だった。ここで俺が冗談の一つでも言おうものならば、俺の身体は間違いなく細切れにされるだろう。


「わ、わかった。お前にそういう性癖がないということはわかったから、落ち着いてくれ」


「私は至って冷静だ!!」


「いやいや、冷静な人は『!!』マークつけたりしないから」


「五月蝿いわ!!!!!!」


 レックスの耳をつんざく叫び声により、周囲の空間に小さなひび割れが生じ始める。どうやら手刀以外でもこいつは空間を切り裂けるようだ。

 

「わかった。わかった。じゃあ、俺の身体を求めてきたのでないとすれば、一体全体何のようでやってきたんだよ」


「ふぅ、やっと本題に入ることが出来る……。要件があるのは私ではない、そちらの方だ」


 レックスが最初に出てきたであろう空間の亀裂を指さした。


「ここ? ここに何があるんだよ?」

 

 俺は何の躊躇もなく亀裂の中に手を突っ込んでみた。すんなりと俺の手は亀裂の中に吸い込まれていく。

 そして……


 むにゅむにゅ


 とても心地の良い感触が亀裂の中の手から感じられた。


「なんだこれ……」


 俺はそれが何であるか確かめるように、何度となく揉みしだいてみた。何故かわからないがとても興奮した。いや、この時点で何かはある程度想像がついていた。だが、俺の男としての欲望が抑えきれなかったのである。俺の指先がなにか硬いものに触れた。


「キャッ」


 空間の亀裂の先から、女の子の声が聞こえた。もはやこの時点で、この感触が何であるか百パーセント理解していた。とするならば、次の問題はこれが『誰』であるかだった。

 

――この感触、このサイズ……久遠じゃない……。久遠はもっと堅い感じだし……


 そうこう考えているうちに、空間の裂け目から一人の女性……女の子がゆっくりと姿を表した。その女の子はダブっとしたパーカーを着ており、フードを深くかぶっていた。

 おずおずと俺の横までやってきたパーカー少女は俺の目を見ると


「……えっち」


 と、小声で囁いた。それもそのはず、俺の手は吸い付いているかのようにまだ胸を触っていたのだった。

 


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