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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
七章 魔王器との邂逅!?
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78 大人の対応


 大怪獣の胃袋の中にでも閉じ込められた気分を、俺は今味わっている。このコクピットの壁面から、ドロドロと消化液のようなものが流れ出してきては、俺の身体を細胞レベルにまで溶かしきってしまうのではないか? トロットロの液状になった俺を見て、この魔王器レヴィアタンは『うふふふ、これで本当に溶け合って一つになれましたね』等と狂気に満ち溢れた笑みを見せるのではないか? そんな想像が脳裏をよぎっては、背中に虫が這いずり回るようなゾワゾワ感が溢れ出し、俺の股間をさらに濡らした。

 腕力でここから脱出することは不可能。ならば、俺に使えるのものは知力しか無い。そう、今まで培ってきた様々な人生経験を生かして、この場を切り抜けるしかない。だが、だが! 何処のどの経験を使えば、魔王器とかいう得体の知れない巨大ロボットの密閉されたコクピットから脱出する方法を思いつけるというのか! おばあちゃんの知恵袋でも不可能に違いないし、ヤフー知恵袋でも同じだろう。

 頭が割れるように痛かった。知恵熱だろうか? それとも本当に俺の頭が割れかけているのだろうか? 俺は頭を触ってみるが、どうやら頭は割れていないようで、出血もありはしない。


《どうしたんですかー? 頭イタイイタイなんですかぁ? 赤チン塗りますか?》


 なんでこの魔王器が、赤チンという時代錯誤な抗菌剤を知っているのか、俺の頭の上には巨大なクエスチョンマークが浮かび上がる。いや、魔王器とかいうわけのわからんものが、何を知っていて何を知らないかなど、それこそ俺が知るはずもない。俺が唯一知っているのは、こいつがとんでもなく面倒くさくてウザい性格だということだけだ。


《はい、どうぞ》


 コクピット天井部分から触手のようなマニピュレーターが俺の眼前までニュルニュルと伸びてきては、小さな赤い小瓶を差し出した。その小瓶には赤ヨードチンキと書かれており、赤チンの正式名称である。俺はそれを受け取ると、こめかみのあたりをピクピクと二度ほど引き攣らせた。


《どうしましたー? わたしが塗り塗りしてあげましょうかー?》


 さらにもう一本の触手が追加で出てきては、俺の頭部のあたりをヒラヒラと蝶のように浮遊する。

 もはや、こいつが何をしたいのかわからない。いや、本当はわかっている。こいつは俺と仲良くなりたいのだ。この赤チンにしたって、俺が怪我をしたのではないかという心配からのものであり、何ら悪意ではないのだ。だが、だがだ! 全てがウザい。本当に鬱陶しい事この上ない。そのことだけに目をつぶって、好意的な態度で接すれば、この場面を乗り切ることはきっと可能に違いない。


――そうだ。俺は大人の男だ。ここは本心はどうであれ、この場をどうにかすることが先決なんだ。だから、心を殺してこいつとコミニュケーションを……。取りたくねぇぇぇぇぇぇっぇぇ!!


 俺は椅子を思いっきり殴りつけていた。だが不思議と拳に痛みはなかった。


《えっへん! なんとなくそんな事するんじゃないかと思って、その部分を柔らかい材質に変化させておきました。わたしってば気が利くでしょー。褒めていいんですよー! さぁさぁ、褒めて褒めてー!》


 重度のイライラから、俺のこめかみに血管がくっきりと浮かび上がる。何だろう、こいつは俺を苛つかせるために、わざとこういう口調をしているのか? それとも天然なのか? どちらにしても、俺の血管は今にもブチ切れそうだった。

 

――ここで切れてしまっては駄目だ。ここは大人の対応、大人の対応……。まずは深呼吸をして心を落ち着ける……。


 俺は大きく三回深呼吸をした。そのあと椅子の上で座禅を組み瞑想に入る。そのときに、一休さんの如く、ぽくぽくぽくと例のポーズをするのも忘れない。《一休さんメソッド》これは知恵を働かせるときに欠かせない方法なのだから。

 深海の如き深い深い瞑想の中で俺は思案した。ウザいやつと上辺の友好関係を結ぶすべを……。そして、トチ狂って言ってしまったとは言え、俺の方から《愛》などという言葉を出してしまったことを……。どうやらこいつは愛という感情に興味津々なのだ。そうそれはまさに思春期な乙女のように……。

ならば、嘘でもいいから彼氏のフリでもしてやれば、ホイホイと言うことを聞くに違いない。そう、今大事なのはこの場から脱することなのだ。逃げてしまえば、あとはどうなろうと知ったことか!


「よしっ!」


 心を決めた俺は俺はカッと目を見開くと同時に、椅子の上に立ち上がった。

 

「レヴィアタン話をしようじゃないか!」


 身振り手振りのついた芝居がかったオーバーアクションをしながら、俺はレヴィアタンに話しかける。


《あーたん! わたしのことは、可愛くあーたんって呼んでくださいぃっ!》


 静まったばかりのこめかみにまたしても血管が浮かび上がりかけた。


「いかんいかん。大人、大人な対応だ……。あ、あーたん、お話をしようじゃないか!」


 血管を抑えつつ、俺は大人な笑みを浮かべる。


《はーい!》


「あ、あーたんは、俺のことが好きか?」


《はい! 大好きです!》


 これほどまでに素直に大好きと言われたことが、今まで生きてきた俺の人生の中で一度としてあっただろうか……。とは言え、それを言ってくれた相手が、魔王器とか言う訳のわからんものになろうとは、本当に世界ってのは予想がつかないよう出来ている。


「なら、大好きな俺の言うことは聞いてくれるよな?」


《えー。どうしょっかなぁ〜、うふふふ〜》


 気がつくと、俺は握り拳を作ってしまっていた。俺は慌てて、手のひらに爪が食い込むまでに強く握りしめた拳を開く。そして、ひらいた手を有効的な感じでヒラヒラと相手に向けて振ってみたりした。そう、大人、大人の対応が大事なのだ。

 

「どうしたら、あーたんは俺のお願い事を聞いてくれるのかなぁ〜?」


 俺は揉み手をしながら、今までに作ったことのない甘い声を出してみる。我ながら気持ち悪いことこの上ない。


《そうですねー。なら、わたしのお願いを一つ聞いてくれたら、そっちのお願いもきいてあげちゃいますー》


 ゴクリと俺はつばを飲み込んだ。魔王器レヴィアタンのお願い……。それがまともなものであるとは、到底思えなかったからだ。魔王等という呼称がついているのだから、魂をよこせくらいは言うかもしれない。ここから脱出するのと引き換えに、魂をわたしてしまっては割に合わないではないか。だが、案ずるより産むが易しという言葉もある。もしかすると、チューしてなどという、子供っぽいお願いなだけかもしれない。まぁ、チューしてと言われても何処にすればいいのか皆目検討もつかないわけだが。

 

「わかった。聞いてやるよ。だから、その願いを言ってみろよ! でもな、俺は普通の人間だから、叶えられない願いは無理だからな? 世界を半分よこせとか、サイヤ人を滅ぼせとか、力を超えた願いは無理だからな?」


《はい、大丈夫です。そんな世界半分とか、サイヤ人とかは、わたしチョチョイチョーイで出来ちゃいますし》


 どうやら魔王器レヴィアタンの力は軽く神龍を上回っているらしい。


《それで、わたしのお願いなんですけど、さっき聞きそびれた、あなたのお名前を教えてくれませんか?》


「な、名前を?」


《はい》


「教えてるだけでいいのか?」


《はーい!》


 俺は胸をなでおろした。まさか、こんな楽ちんなお願い事だとは正直拍子抜けだ。まぁ、俺のフルネームは些か恥ずかしいものではあるが、そんなことで個々から脱出できるなら安いものである。


「わかった。そんなのでいいなら、いくらでも教えてやるよ」


《それじゃ、椅子にちゃんと座って、正面のモニターに向かってお名前をおしえてくださーい》


 俺は言われた通りに椅子に座り直すと、少し緊張しながら背筋を伸ばし、正面のモニターに向かって……


大宇宙守だいうちゅうまもるだ!」

 

 と、正直に自分のフルネームを言ってしまった。この時の俺は、どうして偽名を言わ無かったのだろうかと、後に後悔することになる。

 俺の言葉に反応したかのように、正面のモニターが激しく点灯する。そして、突如として無数の触手が俺の身体に這い寄ってくるではないか。


「イテッ」


 首筋を何か虫のようなものに刺された気がした。

 

《真名承認、遺伝子承認完了。これにより大宇宙守様、あなたをわたし魔王器レヴィアタンの主人マスターと認めま〜す♪》


 パンパカパーンとの脳天気なBGMが流れ出し、俺は周囲のモニター全てにハートマークが映し出される異様な光景を目にした。


《これから一生ず〜〜っと一緒ですからね。主人マスター


 ハートマークが目が痛くなるほどに激しく点灯した。


「なん……だと……」


 俺は今まさに椅子の上からずり落ちそうになったが、触手が二本ほどやってきては、俺の身体を支えるのだった。



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