74 旅立ち 回想
「車窓の景色を眺めつつ、駅弁ってのもなかなか乙なもんじゃねぇか」
窓の外には見覚えなどまったくない田園風景が広がっていた。たまに農家のおっさんの姿がまるで等間隔に設置されているかのように見えるのみだった。そして、俺の乗っているこのローカル線の車両の中もこれまた閑散としたもので、離れた場所に数人が居るだけだった。
そんな寂れた風景を見ながら、俺は箸でつまんだ唐揚げを胃袋に流し込む。こんな時はビールがあれば良いのかもしれないが、残念ながら俺は酒をあまり嗜まない。俺が酒を飲まなくなったのには色々理由があるのだが、今現在一番の理由はそこに回す金がない事である。
そう、俺は公言した通り旅に出たのだ。
旅に出る決定打となったのは、あの俺のおちんちん&おもらし事件が、愛してやまない『藤宮神狩』さんに知られてしまったからである。そう、あの花火の糞野郎が、俺とベルとのキス未遂事件の後、洗いざらい全部話してしまったのだ。
それを知ったのは、キス未遂事件の翌日だった。
俺が買い物にでも行こうと事務所を出たとき、神狩さんとばったり鉢合わせしたのだ。
流石は俺的結婚したい女性ランキング一位の神狩さん、ジーンズにエプロンというラフな格好だというのに、母性と神々しいオーラが溢れんばかりにダダ漏れである。そして、エプロンを付けてるというのに、その豊満な二つのお山がこれでもかというほどに自己主張をしている。うーむ、いくらで俺に向かって主張してくれたまえ、俺は一向に構わん!
俺が軽快に神狩さんに挨拶をしようとした所で、神狩さんはすぐさまプッと吹き出した。そして、笑いを隠すために、下を向いては肩を小刻みに震わせていた。きっと全力で笑いをこらえているのだろう。そして、なんとか笑いを抑え込んだ後に、とんでもないことを口にしたのだ。
『ふふふっ、責任とってうちの花火をお嫁さんにおらってあげてね〜』
聖母マリアが降臨したかの如き慈愛に満ちたほほ笑みを湛えたまま、神狩さんは俺の胸をツンツンと軽く突付いてくれた。突付かれた指の先からは、俺に幸せエナジーが注入される。
――いやいや、俺がお嫁にもらいたいのは神狩さん、あなたのほうです!
と、言えるはずもなく。俺は引きつった笑顔で返すのが精一杯だった。
『でも、未成年に変なことをしちゃ、怒りますからね?』
神狩さんはげんこつで頭を小突くマネをしてみせる。その動きに連動してたわわなお胸がたゆんたゆんと二度ほど揺れた。
――いやいや、俺が変なことをしたいのは神狩さん、あなたのほうです!
と、これまた言えるはずもなく。俺は一瞬厭らしい妄想にゲス顔をしかけながらも、これまた引きつった笑顔で返すのだった。
『それじゃ、守くん、ちゃんと服を着て生活をしなさいね。丸出しは駄目……ぷぷぷぷ、ダメダメ笑っちゃう……あ、あははははははっ、ごめん、ごめんね』
腹を抱えて笑い転げる神狩さんがそこに居た。
それと相反するように、俺の表情はどんよりと曇りまくるのだった。
そして、その直後俺は旅に出ることを決意した。
何の宛もなく電車に飛び乗った俺が目指した先は……
――俺の今の心境にぴったりな場所……そうだ! 寂れた冬の海に行こう、日本海の海に行こう
と、漠然と決めてしまったのだった。
そんなわけで、適当に寂れた海が目に入ったらそこで下車して、適当にぶらつこうと決めていた。が、流石に日本海まではそこそこの時間を要するわけで、俺は電車の中で暇を持て余しているわけだった。
「しかし、ここ最近はホント変な仕事ばっかきてやがんな……」
電車の揺られながら俺はここ最近のトンデモ事件に思いを馳せる。
そう、総集編……もとい回想にふけるのである。
(注)この回想には個人的修正が加えられている場合がありますが気になさらないように。
トンデモ事件の一番最初。それは地下帝国の怪獣探しから始まった。
いや、俺は依頼料がもらえるならば、地下帝国人だろうが、金星人だろうが、無生物だろうが全く気にしない。だから、地下帝国の怪獣探しも二つ返事でオーケーしたわけだ。まぁ、実際この依頼人は頭にドリルが生えているという少し変わった風体をしていたわけだが、太ってる人間もいれば、痩せている人間も居るわけで、頭にドリルが生えている人間が居てもそんなに問題はなかった。
だが、怪獣探しは難航した。
近所の主婦に聞き込みをした結果。俺は変人扱いを受けた。世の中の人間というものは、現実を甘く見ているようで、怪獣? 馬鹿なの? 頭おかしいの? と、返してくるばかりだった。
さらに公園では、平日の昼間にブランコを独占しているジャージ姿の中年男性と遭遇することにもなる。これが後に大事件を巻き起こすわけだが……。その次に、情報収集のために子供のネットワークを利用した結果、俺は恐ろしい『うんこ大海嘯』という精神攻撃を食らう事になる。
兎に角、なんとかショタBLが大好きな主婦の家で、怪獣を見つけることに成功し、事件は無事に解決した。あのショタBL大好き主婦は今でも自分の小学生の息子でカップリングを考えているのだろうか、あの子供の将来が心配である。
そして、第二の事件は今世紀最高の美少女と呼んでも過言ではない、正統派美少女女子高生『綾小路桜』からの依頼。その内容とはストーカーをどうにかしてほしいとのことだった。ここまでならば普通の依頼のように思えるが、このストーカーをしているのは人間ではなかった。なんと彼女の通う『聖ヱルトリウム女学園』そのものがストーカーだったのである。
その巨体たるや、なんと全長三百メートルに達する。まぁその三百メートルの建造物が電柱に隠れながらストーキングするさまは、ある意味衝撃的だった。さらに衝撃だったのは、その光景を目にしている周りの連中は、あまりの非常識さに見えていないもの、無かったものとして脳内で処理してしまっていることである。そう、人間というものは常識の範疇で生きるものであり、そのキャパシティを超えてしまったものは、理解できないのだ、しかし、俺のキャパシティは銀河系よりもでかい! 学園がこそこそ? 歩いて? いたとしても『まぁ、そういう事もあるかもしれないな』で済ませることが出来る。
ともあれ、俺はなんとこの建造物である『聖ヱルトリウム女学園』と交渉することに成功。最終的に、なんと二人は良いお友達になるという見事な着地を決めてみせたのだ。
こうして俺は、綾小路桜という美少女と、聖ヱルトリウム女学園という美校舎? との交友を持つことになるのだ。こうして、俺のハーレムは増えていくのだった。
そして、第三の事件。……これは思い出したくもない。
俺は突如として謎の術に陥れられ、講演のブランコの主の中年男性に唇を奪われることになる。うげぇ、今思い出しても吐き気がする……。しかし、なんとその中年男性はキスにより封印が解け、ロリっ子美少女が現れたではないか。
自称魔法少女で、王女様。なので俺は『魔王少女』と呼ぶことにした。
ここで、終わればまだ良かったのだが、こいつは魔法の魅了を利用して、トップアイドルにまでのし上がっていってしまう。それに巻き込まれるように、俺にやってきた仕事の依頼は、なんとこいつのマネージャーである!
そして俺はここで大きな選択ミスをする。それは、もしものときのボディーガードとして最強の女子高生『藤宮花火』を連れて行ったことである。なんと魔王少女ベルと花火はバトルに突入。その結果、何故か俺は死ぬという予想外の結末を迎える。
まぁ、俺は地獄から復活を果たすわけなのだが、ギャグだから死なないという甘さは完全にここで消え去ることになる。
さらには、魔王少女ベルはアイドルユニットを結成するために、綾小路桜をメンバーに加えようと画策し、聖ヱルトリウム女学園の怒りを買うことに……。
そうこうするうちにベルとヱルがバトルに突入。ヱルの圧倒的巨体とパワーに翻弄されるベルだったが、自分のファンの毛根から魔力を吸収。大量のハゲを量産しつつもパワーアップを果たす。しかし、ヱルも校舎形態から人形形態へとトランスフォーム。そうほうのパワーは苛烈にぶつかり合い。最終的に両者ノックアウト。互角へと持ち込み。最後は夕日をバックに友情が芽生えるのだった。そしてオチは『学校自身がアイドルになるこれが本当のスクールアイドル!』というくだらないものだった。
さて、第四の事件は、お留守番からのエンドレスセブン事件である。
ベルたちアイドルユニットが海外での撮影があるため、その間の綾小路家のお留守番の仕事を承った俺は、無人となった綾小路家で葛藤していた。そう、綾小路桜の靴の匂いをかぎたい誘惑と闘っていたのだ。どうやって合法的に綾小路桜の靴の匂いを嗅げるかの知恵を借りるために、俺がとあるアイテムで召喚したのが……孔明先生だった。しかしこれはかの天才軍師『諸葛孔明』とは似ても似つかぬポンコツで、こいつのせいで散々ひどい目にあうことになる。さて、この留守番中に訪れた謎の幼女。この幼女が実は……
「おっ! 見える! 海が見えるじゃないか!」
ここまで回想をしておきながら、俺はふと現実の景色に目を戻した。そこには寒々しい色合いの海が見えていた。今の季節は冬、風もそこそこあることで波も荒れているに違いない。これはもう、俺の荒んだ心を体現してくれていると言っても過言ではないだろう。
俺は席を立つとその駅で降りた。勿論この駅の名前が何なのかすら知りはしない。俺がもとめているのは、荒んだ海だけなのだから。
こうして、俺は回想も途中で放り出して。電車を降りたのだった。




