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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
六章 守の秘密!?
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72 事後


 俺の身体を覆っていた無数の光は次第に収束していき、やがて完全に消失した。

 なんだろう、頭の中がやけにすっきりしている。いや、すっきりしているのは放尿したせいか?

 なんだろう、身体に力がみなぎる気がする。いや、それは俺の身体がもとに戻ったからだ。


「元に戻った!?」


 俺は改めて自分の手足に視線を向かわせる。うん、これは確実に二十八歳の俺の身体だ!

 そして……


「九九八十一! 掛け算も出来る! 知能も戻ってる!」


 頭の中も元の年齢のもとに戻っている。

 

「やった! やったぞ!」


 俺は子供のようはしゃぎ、マリオがブロックを壊す時のポーズでその場で飛び上がって腕を突き上げた。開放状態の下半身がブルルンと揺れた。


――あれ?


 これは仕方がないことなのだ。今の今までありえない状況下に置かれて、死すら決意していたのだから、こんな重要なことを失念していたとしても……俺は悪くないのだ!!


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 鼓膜を突き破らんばかりの強烈な悲鳴がこだました。その声の主が誰かは赤ちゃんでもわかる。

 そして、俺はその声の主と目が合った。


「よ、よぉ……」


 俺は極度の緊張により、口元とまぶたを痙攣させながらも、軽快に手なんか振りながら挨拶をしてみた。が、ここで俺の取るべき行動は挨拶などではなく、今振っているその手で下半身を隠すことだったのだ。

 絶叫の主は……いや、いまさら名前を隠すこともないだろう。《藤宮花火ふじみやはなび》は、まるでメデューサに石化の魔法でもかけられたかのようにカチンコチンに固まったまま、微動だにしないでいる。きっと、脳が理解の範疇を超えてしまいフリーズを起こしたに違いない。

 そりゃそうだろう。だってさっきまで赤ちゃんだった男が、アラサー男子になってすっぽんぽんで目の前に立っていたら、誰だって頭がおかしくなりかけるに違いない。

 さて、今俺が取るべき行動はなんだろうか?


 まず服を着ます。そしてすぐさまこの場から逃げ出します。


 きっと、これが限りなく正解に近いだろう。だが、それはその間中ずっと花火の頭がフリーズしていてくれているということが前提条件になる。

 なら、迷っている時間はコンマ一秒もありはしない。

 俺はそこらへんに散らばっていおる服をかき集めると、まず一番最初にパンツを履こうとした。しかし、人間慌てるとミスしか無いもので……俺はパンツを履こうとしてバランスを崩し前のめりになって倒れることになった。

 さて、みなさん今俺の目の間には誰が居るでしょうか? 正解は……


《フリーズしている藤宮花火》


 そして、パンツとの合体に失敗してバランスを崩した俺がどうなったかというと……。


「うぉぉぉっ」


 全裸のまま、花火の体の上に馬乗りの形で覆いかぶさってしまったのだ!

 そしてタイミングを同じくして、玄関から物音が聞こえた。


「ふふふっ、サイコフレームの導入により更に処理速度を上げたν眼鏡をもってきました。これならば、この不可解な現象も解析可能なはずです。ν眼鏡は伊達じゃない!」


 意味不明なことを言いながら玄関から入ってきたのは、赤炎東子せきえんとうこさんだった。どうやら、俺を治すために眼鏡を新調してきたらしい。なぜに眼鏡!?

 そして、その新調された眼鏡のレンズを通して、この部屋で最初に見たものといえば……。全裸の俺が制服の姿の女子高生と襲っている……としか見えない光景なわけだ。


「あらあら、元に戻って……。それよりお邪魔でしたかしら?」


 赤炎さんは口元に手を当てて含み笑いをしつつ目を細めた。

 そして、その言葉が合図になったかのように、俺の下敷きになっている花火の身体がピクッと震えるように反応した。


「よ、よぉ……」


 俺はまたしても判断を誤った。なぜここで申し訳無さそうな顔で挨拶などしてしまったのか。ここでするべきことは唯一つ、もはや全裸など気にせずに光速でこの場から離脱することだというのに……。

 急激に俺の周りの空気が熱されていくのがわかる。その熱の大本が花火であることは間違いない。なぜならば、花火の顔はまるで沸騰したヤカンのように真っ赤っ赤だったからである。

 そしてその熱気はすぐさま闘気へと変換された。


「……あんた、あんた、あんたァァァァァ! 何やってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 怒声と共に闘気が爆発する。その衝撃で俺の身体は浮き上がり、強制的に立ち上がらされる。その刹那、鬼神と化した花火から拳が放たれた。それはもはや意思を持った一筋の光と呼ぶほうが正しいかもしれない。

 その光の拳は、俺の右頬をかすめたまま部屋の壁を貫通した。


 余談だが、この解き放たれた拳は、数十光年先のとある恒星を貫き、その結果星間戦争を引き起こすことになるのだが、それはまた別のお話。


 俺の頬にヒリヒリとした感覚が残る。もはやこれは奇跡である。だって生きているのだから! そして、生きている俺が次に取った行動はこれだった……。


「すみませんでしたァァァっ!」


 全力全開の土下座である。

 

 こうして、俺に起こった謎の薬事件は幕を下ろすことになった。



 ※※※※


 後日談。


 全力全開の土下座と、赤炎さんの説明のより、俺の命はなんとか取り留めることが出来た。

 更には、この騒動の後始末、それと口止め料として、赤炎さんから多額の追加料金をいただけることになった。


「くれぐれも、このことは他言無用にお願いします。わかりましたね?」

 

 そう言いながら、赤炎さんは俺の首根っこに謎の薬品のつまった注射器を突きつけた。もはやこれはお願いではなく脅迫である。

 

「そうそう、あなたの中に宇宙があると言いましたが、不思議なことにあのデータ、全て消えてしまったんです。今となっては、あれが本当だったのかどうか……。兎に角、お大事に」


 そう言って赤炎さんは去っていった。

 まぁ、俺としては俺の中に何があろうが割とどうでもいい。そこらへんについては俺はおおらかな男なのだ。それよりも追加料金のほうが嬉しかった。これでしばらく働かないくても暮らしていける。

 だが……俺の心の中には深い深い傷が残されていた。

 

「ふぅ、花火に……おちんちん見られちゃったかぁ……。しかも、赤ちゃんの時だけでなく、大人のやつすらも……」


 俺は事務所のベランダから空を見上げた。お空は真っ青、日本晴。なのに俺の心は真っ暗の土砂降りときたもんだ。


「はぁ……」


 俺は地獄のコキュートスに到達しそうなほど深い溜め息をついた。五回ついた。

 そして……


「旅に出よう……」


 男が心の傷を癒やすのに必要なのは、旅なのである。

 何故か? そんなものは知らん! だが旅なのである。


 こうして、俺は何の前触れもなく旅に出ることにするのだった。

 


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