41 ピタゴラ装置
「あれだよな、もしこのスナック菓子の前の製品に、サメとトビウオの成分が0.001グラム入っていたとして、その二億倍ってことは……」
計算して頭がおかしくなりかけた。だってだって、二億倍したら二百キロってことなんだぜ。そのスナック菓子を俺は今片手で持っているわけで……。
「あ、あれだ! 前のやつには、ナノグラムとか、ピコグラムしか、成分が含まれてなかったに違いない」
とすると、もはや前の商品は、サメ&トビウオを名乗っていいレベルの商品ではないわけなのだが……。ああ、もう考えるのは辞めておこう。ってか、食べるのも辞めといたほうが良いかもしれん。大体、花火のやつは本当にこのお菓子食ったことがあるのか? もしや、俺に毒味をさせようと……。いやいや、あいつならば毒なんてものを使わなくても、一発殴ったほうが確実だ。実際俺はそれで一回死んでいる。うーむ、よくよく考えれば殺された相手と普通に接してるとか、俺って凄いんじゃなかろうか。まさにブッダの心を持つ男なんじゃなかろうか。ふむふむ、仏の領域に達した男『大宇宙守』なかなかに中二心を掻き立てるキャッチフレーズではある。
その時、台所の水道から水が一滴滴り落ちる音が、鼓膜に鮮明に響いた。
――うん? なんだろう、仏? 死んだ?
喉に小骨が引っかかったときの様な違和感が俺を襲った。死んだ時に、俺は何かを見たような気がするし、何かをやったような気がする。だが思い出すことは出来ない。そして俺は……思い出せないようなことは気にしない男だ。そして、いま気にするべきことは、この手にある『サメ&トビウオ パート2』なのである。
俺は謎のスナック菓子の袋を開けないままで匂いを嗅いでみた。が、サメとトビウオのような魚類の匂いは全くしなかった。というか、サメの匂いってどんなのかよく知らねえ……。
「よし……男は度胸だ」
俺は意を決して袋を開けることに決めた。俺の生まれついての貧乏性が、食べ物を粗末にしてはいけないと告げているからだ(これが本当に真っ当な食べ物なのかは置いておくとして)。
袋の両端を手に取り、勢いよく袋を開ける……が開かない。何故ならば、俺の両手は恐怖心のためにブルブルと震えていたからだ。アル中のように震える手でスナック菓子の袋を開けることは困難極まりない。
袋と格闘すること約二十秒。
俺はあっさりと袋を開けることを放棄した。だって面倒くさいし、そこまで興味があるわけでないし……。そして何より……。
「俺にはこんな事をしている時間なんてなかった!」
そう、俺は着物幼女がやってくるまでに、究極のカレーを完成させなければならないのだ。
俺は謎のスナック菓子を手に持ったまま台所へと急いだ。
途中応接室から『あばばばばばばー』だの『ほえほえー』だの『キタコレー』だのの、孔明先生の奇声が耳に入ったたが、勿論無視だ。何故ならばその声が向けられているのは、画面の中にいる二次元美少女に対するものであることは明白なのだから。
「そう言えば、孔明先生からしてみれば、花火のやつは萌え対象になるんだろうか?」
うーむ、これはかなり難しいところだ。綾小路桜のように全人類に愛されるような愛らしさとまではいかないが、一花火はごく一般的に可愛らしい容姿を持っているとは思う。ただそれを余裕で打ち消す凶悪極まりない破壊力が込められた拳が存在しているのが問題なのである。
数字にして表すならば、可愛さ《100》に対して、凶悪な拳《1000000000》といったところであろうか。花火のやつの可愛さが《 1000000000》あれば相殺されるだろうが、残念ながらそこまでの可愛さを花火の奴は持ち合わせてはいない。
「よく考えてみれば、アイツは可哀想なやつだな……」
もし本人に聞かれたならば、確実に命を奪う攻撃をされそうなことを呟きながら、俺は台所に着いた。着いたところで、ある装置? が発動してしまった。
さてさて、みなさんはピタゴラスイッチというものをご存知だろうか? そしてその番組に登場する『ピタゴラ装置』、それはいろんなものが連鎖的に作動して一連の動きをするというもの。
今ここで、何の脈絡もなくそれが発動したのだ。何故? ほわーい?
「え?」
俺は台所に何故か、何故か偶然捨てられていたバナナの革に足を取られて体制を崩した。そしてその拍子に、手に持っていた『サメ&トビウオ パート2』の袋は空中へと舞い上がった。そこに、偶然、本当に偶然通りがかった妖怪『かまいたち』が、その後自慢のカマで袋を切り裂いた。それだけならば、スナック菓子が台所に散乱するだけで済む……はずだったのだが……。
「どうもー。通りすがりのブラックホールです」
ご近所を散歩しているお爺さんくらいの、当たり障りのない登場をした超小型ブラックホールは、なんとカレー鍋の真上に発生していた。それが空中に散乱したスナック菓子を全て鍋の真上へと吸い寄せる。
「どうもー。失礼しましたー」
それと同時に、通りすがりのブラックホールは会釈? をして姿を消し、超重力の頸木を失ったスナック菓子は見事鍋の中へと一つ残らずダイブした。
そして、体制を崩した俺は、偶然にも電子調理器の加熱ボタンを押してしまっていたのだ。
さてどうなったかと言うと……。謎のスナック菓子はカレーの中に完全に溶け込んでしまい。究極のカレーならぬ、超妖しいカレーが完成してしまったのである。
「理不尽極まりないとはまさにこのことじゃね……」
俺は途方に暮れて、鍋の前で立ち尽くすのだった。




