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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
四章 幼女でママで神様で!?
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40 お世辞百連発。


 もし俺の身体に加速装置が内蔵されていたならば、音速でこの場を逃げ出したであろう。だが残念ながら俺はサイボーグ戦士ではない。更には、もし音速で加速して逃げたとしても、この藤宮花火ふじみやはなびならば追いついてきたとしても不思議ではない。そう、この一見普通のポニーテール女子高生は、普通ではない身体能力を持っているのだから……。

 一体全体何をどうすれば、こんな戦闘能力を持った女子高生が誕生するのか、まったくもって謎である。

 しかし、今俺がするべきことは、藤宮花火の能力の謎を解くことではない。今まさに迫りくる命の危機を回避することなのだ。

 だって俺は藤宮花火に向かって……


『いらっしゃい、着物幼女ママ


 などと言ってしまったのだから……。

 

「あのさぁ、なにがどうしちゃうと、私のことをママって呼んじゃうわけ? そこんところ、詳しく説明してもらいたいんだけど」


 もはや慣れ親しんだとすら言える、花火から向けられる汚物を見るような視線。ドMであるならば、絶頂に達することうけあいである。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。ここで選択肢を間違えたならば、命を落とすことは必至。冷静沈着かつ大人な対応を見せるときだ。

 俺は大きく深呼吸を一つ。それからラジオ体操第一を最初から最後までやって体をほぐそうと……最初の背伸びの運動の時点で耳元を光速のパンチが通過したために動きを止めることになった。


「あれあれ〜、ちゃんと私の質問にこたえてもらいたいんですけどぉ〜」


 花火の表情と口調はほがらかであったが、目だけは微塵も笑っていなかった。勿論これは『あと三秒以内に質問に答えないと、あんたの身体がバラバラになっても良いんだよね?』の意味だということを、付き合いの長い俺は熟知している。

 考える時間など既に無い、ならばもう己のネゴシエーション能力にかけるしか……。


「違う違う! これはだな、『いらっしゃい、まーまーなお天気だね今日は』と言うつもりだったんだ」


 苦しい言い訳だった。だって仕方がないじゃないか! たった三秒で上手いこと言えるようなネゴシエーション能力を持っていたら、もっと金持ちになれてるってもんだ! 死んだか? 俺死んじゃうのか? 俺は死の匂いを鼻先に感じた。

 けれど……

 

「ふ〜ん。そうなんだ。なるほどね」


 なんと、驚くことに花火は納得してくれたようだ。何だこいつ案外チョロいジャないか。

 だが、言葉をそこで終わらなかった。


「んで、どうして、『まーまー』の部分で言葉を止めちゃったわけ? おかしいよね? 普通そこで言葉止めたりしないよね? そこんところも説明してもらいたいんだけどぉ〜」


 前言撤回、こいつはチョロくなかった。


「あ、あれだよ! 花火がな、花火が……あまりにも可愛いもんだから! ついつい言葉が出なくなっちゃってな! いやぁ、可愛いってのは罪だなぁ。いょっ、この美少女! 天下無双! 日本一!!」


 しどろもどろとはこの事だ。俺は脳みそを全く使うこと無く、口から言葉を発し続けた。兎に角、言い訳を続けていなければ、殺される。そんな強迫観念からか、俺の口からは心にもないお世辞がマシンガンのように飛び出してきた。ところで、天下無双は女子高生に対して褒め言葉になるんだろうか。


「可愛いって言葉は、本当に花火を表現するためにこの日本に生まれた言葉に違いない。いますぐ日本可愛い勲章を花火に与えるべきだな! おーい、総理大臣でてこいやー!」


 俺の額からはドバドバと大量の汗が流れ落ちてきていた。しかも熱い汗ではなく、ジトっとした冷や汗である。物事には限度というものがあるように、お世辞にも節度というものがきっと存在するだろう。そしてこれは限度も節度も完璧にオーバーしてしまっている。

 俺は恐ろしくて、恐ろしくて、花火の顔を見ることが出来ずに、ずっと視線を足元の方にそらしていたのだが、死刑執行を言い渡される囚人の気持ちで顔を上げた。

 するとどうだろうか!!

 花火はなんとなんと、満更でもない様子……どころか、頬を赤らめて照れまくっているではないか!

 

「そ、そうなんだぁ……。へ、へぇ〜あんたって私のことを、そんなに可愛いって思ってくれてたんだぁ……。べ、別にあんたに言われても嬉しくもなんともないけどぉ……」


 手のひらをくるくる回すようだが、更に漸減を撤回しよう。こいつ滅茶苦茶チョロいわ。

 

「まぁ、私が可愛すぎて言葉に詰まっちゃったって言うなら……。うん、それは仕方ないよね。うんうん」


 花火は出来る限り平穏を装うとしていようだったが、顔からはまるで蒸気機関車のように湯気が舞い上がり、周囲の温度を数度上昇させていた。もしかすると、これを利用して発電所のタービンすら回すことが出来るかもしれない。花火発電の誕生である。

 更におだて続けたらどうなるのだろう? そんな疑問が俺の頭をよぎったが、これ以上続けると核反応が起こって周囲が消滅してしまうのでは、との危惧を感じやめていた。

 

「あんたが、留守番のバイトをしてるってお母さんから聞いたから、どんな感じなのかなぁって見に来たわけだけど。まぁ、ちゃんとやってるみたいだし、心配ないみたいだよね」


「お、おう。心配してくれてありがとうな。こんな可愛い花火に心配してもらえて、俺は本当に幸せものだよ」


 どうやらまだお世辞トークの癖が抜けないらしく、息をするようにお世辞を言ってしまった。

 そして、その言葉をまたまた真に受ける花火の姿は、本当に可愛いじゃねえかと思えてしまうほどだった。

 しかしどうだろう。もしかすると玄関先でこんな会話をしている俺と花火は、傍目から見たら良い感じのカップルに見えたりするのだろうか? 俺と花火が付き合う。二秒想像して、ありえないと結論に至った。その二秒間で俺が死亡する姿が有に二桁は脳裏をよぎったからである。

 

「しかしまぁ、あんたのことだから、女子高生の靴の匂い嗅ぎさに靴箱を漁ったり、部屋に侵入して下着を物色しようとしたりとか、更には偶然訪ねてきた幼女にバブ味を感じちゃったりして、欲情したりしているかって思ったけど、そんなことはないみたいだね」


 つらつらと話す花火の一言一句を耳にして、俺の心臓は今にも止まりそうになった。


――おいおい、こいつ俺の一挙手一投足を全部見てんじゃねえのか……。もしそうじゃないとしても、エスパーかこいつ……。


「ば、ば、馬鹿だなぁ。そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、んなことしてるわけねぇに決まってるだがや!」


 何故か名古屋弁が出た。勿論俺は名古屋出身ではない。

 

「うん! 信用してあげる」


 花火は最初に向けた、俺を殺そうとしている偽笑顔とはまるで正反対の、光り輝く太陽のような笑顔を俺に向けた。その眩しさと、俺の後ろめたさに、直視することが出来なかった。

 

「んじゃ、お仕事頑張りなさいよ。あ、そうだ。これ差し入れにあげる」


 そう言うと、花火はスナック菓子の袋を一つ俺に手渡した。

 スナック菓子の袋には『サメ&トビウオ パート2』の文字と一緒にデフォルメされたサメとトビウオの絵が描かれていた。更には殴り書きのダイナミックな書体で『サメ&トビウオ成分がなんと前作の商品の二億倍!!』と書かれている。そう言えば、花火のやつはスナック菓子が大好物で、さらには変わったスナック菓子を収集するという女子高生らしからぬ趣味を持っていたのだった。


「な、なんなんだこのスナック菓子は……」


 俺は驚愕のあまり、スナック菓子の袋を持つ手が震えてしまっていた。


「凄いでしょ〜。これ新商品なんだぁ。なかなか手に入らないレア物なんだからね。んじゃ、ばいばーい」


 花火は宙を飛ぶようなスキップで去っていった。いや、あいつならスキップで空を飛んだとしても、何ら驚きはしない。

 俺は玄関のドアを閉めると、手に持っているスナック菓子をどうするべきか思案するのだった。



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