38 究極のメニュー
「へっへっへっへっ、料理なら任せてくれよ!」
俺はさも自信ありそうに、鼻の下を左手の人差し指でこする。そして、華麗に一回転のターンを決めると指をパチンと鳴らしてみせた。この動作に意味などはないことはもはやおわかりであろう。
さて、何故俺はこんなにも料理の腕に自信を持っているのか? それにはちゃんとした理由がある。俺はなんと『美味し○ぼ』と『ミスター味○子』をネットカフェで全巻読破したことがあるほどの、料理の達人なのである。ん? 勿論漫画は買ってない、なぜならば貧乏だから!!
もしキャプ○ン翼を読めば、プロサッカー選手並にサッカーが上手くなれるのか? ドラゴン○ールを読めばかめ○め波が出せるのか? ファイブ○ター物語を読めば天照大○神になって全知全能の神になれるのか? みなこの様な意見を突き付けてくることは、先刻承知である。
ならばあえて答えてやろう!
なれる!! きっとなれる! おもに夜になれる! そう夜眠っているときの夢の中で……。ポイントは寝る寸前に漫画を読んでおき、さらには浅い眠りをキープすること! これ重要!!
さて、いつもの戯言はさておき俺の料理の腕はと言えば……あえて語るまい。俺の食事の大半はコンビニ飯かインスタントであるということから、勝手に推測していただきたい。
という訳で、料理をつくるのならば台所にいかなければならない。
「はてさて、綾小路家の台所はどんなのかなぁ〜」
はじめて訪れた家の台所に一人で入るということは、人生の中でもそうそうあることではないだろう。もしあるやつが居たならば、きっとそいつは泥棒さんである。
補足させていただくならば、俺はこの綾小路家の台所を使う許可はちゃんともらっている。それどころか冷蔵庫の中身を使うことすら許可されている。
『お台所のものはお好きに使っていただいて結構ですよ。あと、店屋物もお好きに取っていただいてもかまいませんから』
と、綾小路桜から言われているのだ。
本当は出前で寿司でもとってやろうかと思っていたわけなのだが、この着物幼女からのリクエストが手料理なわけなのだからそうもいかなくなってしまった。
「さてと……何をどうすれば良いのやら……」
俺は冷蔵庫の中身を見つめながら腕組みをして困り眉中であった。
確かに冷蔵庫の中には肉や魚、お野菜などがたくさん詰まっているし、台所には見たことすらない多種多様な調味料も揃っている。これならば、どんな料理だって作れる。そう、そこが問題なのである。我が家の冷蔵庫にはいつも最低限死なない程度の食材しか入っておらず、何を作ろうかという選択肢などいつも存在していなかった。もし選択肢があったとしてもせいぜい二択、三択程度。それがこの綾小路家の冷蔵庫の食材からは無限の選択肢が溢れてしまっているのだ。
――うーむ、もしこれがゲームだとしたら難易度高すぎでクソゲーだぞ。
等と、場違いなことを考えている暇など無い。何故ならばダイニングから『ごーはーん! それっごーはーん! よいしょ! ごーはーん!』と欠食児童によるご飯コールが続けられているからである。勿論、それを先導しているのは孔明先生なのだが、着物幼女も『ごーはーん! なのじゃー! ごーはーん! なのじゃー!』と、それに追従するように可愛らしくご飯コールをしていた。ってか、孔明先生はご飯を食べることが出来るのか?! いやさ、もはやあいつは理不尽が服を着てあるているようなものなのだから、何がどうだとしても驚かない。ってか、あいつに食べさせる分を作るなんてのは、もとから計画に入ってすらいない。
「兎に角、なんか作れそうなもんを作ってみるか……」
俺は考えた。着物幼女は見たまんまに子供である。とすればお子様が好きそうなものを作ればよいのだ。お子様が好きな食べ物と言えば、『ハンバーグ』『オムライス』『カレー』そんなところだろうか。そして、それらの複合形態として『お子様ランチ』というものが存在している。
「なるほど、俺は『お子様ランチ』を作れば良いのか」
と思ってみたものの……俺にそんないくつもの料理を作る腕はない。
「よし! カレーだ! カレーでいいな!」
カレーが嫌いな子供とインド人はなどいない。もしインド人の子供がいたならば、ウルトラカレー好きに違いない。(インドの人にかなりの偏見を持っていることをお許しくださいナマステ)
料理武将の独身寡婦のこの俺でも、流石にカレーくらいは作ることが出来る。まぁ美味しいかどうかはよくわからんが、カレーをそこまで不味く作れるやつはそうそういないだろう。
「よし! 作ってやろうじゃないか! 究極のカレーってやつを!」
俺は自分でハードルを上げる発言をした。
そして料理を開始……
……
…………
……………………
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時は流れ三十分後。
「ほれっ! 大宇宙守の特製ビックバンカレーだッッッっ!」
背後に大爆発する宇宙のエフェクトを発生させて、俺はカレーとご飯が盛り付けられた皿を、テーブルの前に礼儀正しく座っている着物幼女の前に差し出した。
はてさて、この『ビックバンカレー』はどのようにして作られたのか。それを説明しよう!!
……普通だ。なんとこの大層な名前を持つ『ビックバンカレー』はありきたりなカレーをそのまま出しただけなのだ! ふふふふふっ、人というものは大げさな名前がついていると、『なんか凄いんじゃないだろうか』と勘違いしてしまうものである。俺の名前のようにな! それを利用したのだ。
しかも食べるのは子供! 子供はそういうのに弱い! と思う!
「あれ? 主殿……吾輩の分は?」
テーブルに置かれたのが着物幼女の前に一皿だけということに、孔明先生は首をひねっていた。
そして、しばらく考え込むとある答えに到達した。
「なるほどっ! この幼女と同じ皿を食べろというわけですな! さらにはこの幼女と『あ〜ん☆』なんてことをし合いながら、キャッキャウフフをしろと! ああああああ、しかもしかもスプーンが一つしか無い、これはもううううう幼女との間接キッスゥゥゥゥゥゥ! もう辛抱たまりませんぞぉぉぉぉ!!」
さすがは孔明先生、トンデモナイ結論を出してくれた。まさに恐るべきとはこのことである。
俺はテンション最高潮の孔明先生の着物の襟首を掴む。まるで猫のように寝筋を丸めた状態の孔明先生を、何事もないかのようにあっさりと台所に設置されている生ゴミ入れゴミ箱へと放り込み蓋を閉めた。
「あ、主殿! これはどういうプレイなので!?」
ゴミ箱から声が聞こえたが、聞こえないふりを決め込んで俺は着物幼女の居るダイニングへと戻る。
「さぁ、お上がりよ!」
俺の言葉を聞いて着物幼女はスプーンを手に持ちビックバンカレーを口へと運ぶ。
俺はそれを固唾をのんで見守った。
表情一つ変えずに半分ほどカレーを平らげた着物幼女はスプーンを置いた。
そして……。
「普通なのじゃ」
と、ポツリと呟いたのだった。
その言葉を聞き、俺はその場でがっくりと膝から崩れ落ちた。それと同時に俺の料理人としてのプライドもガラガラと音を立てて崩れていった。
――この天才料理人(自称)の俺が作った『ビックバンカレー』が普通!? たしかに普通に作ったはずだけれども、普通だと! おかしい、子供はカレーを出しておけば『美味い美味い』とぺろぺろ皿まで舐めて食べるはずじゃないのか!(子供に対して偏見があることをお許しくださいバブー)
気がつくと、俺は悔しさのあまり涙をボロボロと流しながら床を拳で殴りつけてしまっていた。
そして……。
「ま、待ってください! 明日! 明日同じ時間に来てください! 本当のカレーってやつを食べさせてやりますよ!」
どこぞで聞いたような言葉を、着物幼女に投げかけるのだった。




