37 幼女結婚
本筋とは一体なんぞや。
きっとそいつは、何処からともなくやってきたと見せかけては、全力ピンポンダッシュで消え去っていくものに違いない。
おっといけない、こんな事を考えている時点で、本筋ちゃんから離れてしまっている。
という訳で、俺はようやくこの、着物幼女『魔真』との接近遭遇の理由を求めることにした。
「一つ質問なんだが良いかい?」
俺は左手の人差し指をピンと立てて、とびっきりの笑顔で尋ねた。この笑顔が気持ち悪いものかどうかは、見る人間の判断に委ねたいところだ。
「どうしてママは、この綾小路家に、この大宇宙守こと、この俺がいるって知ってたんだい? 確か、俺を名指しで訪ねてきたって最初に言ったよね?」
本当ならば、この質問はもっと最初に投げかけるべきものだったはずなのだが、後回しにしてしまったものはもうしょうがない。そのかわりに、新たなる性癖に目覚めた挙げ句、着物姿の幼女を『ママ』との合法的に呼ぶことが出来るようになったのだから、むしろオッケーと言ったところだ。
普通に考えれば綾小路家にいるのは、綾小路の人間のであり、この俺、大宇宙守を尋ねるならば、事務所のある藤宮ビルに来るべきなのだ。それを何故ここに? どうして俺が、留守番の仕事のために、ここにいるとわかったのか?
もしかすると、この着物幼女は、姿は子供でも頭脳は大人、ひと呼んで名探偵なんとかかんとかなんだろうか? 確かによく見ると、頭の良さそうな顔立ちはしている。とするならば、俺はいきなり麻酔針で撃たれたりしてしまうのだろうか。うーむ、それは嫌だな。咄嗟に俺は首筋を手のひらで隠した。が、当たり前といえば当たり前だが、麻酔針は飛んでは来なかった。
「大宇宙守がここに居るのは知っていたのじゃー」
一+一が二であるのが当然。とでも言っているかのように、着物幼女は答えた。
良くはわからんが、俺の居場所は当たり前のようにわかられてしまうらしい。もしかすると、服の何処かに発振器でも付けられているのだろうか? うーむ、有名人は辛いぜ。
まぁココらへんは考えても仕方がないことだ。もしかすると、最初に藤宮ビルの事務所に立ち寄って、まるで我が家のようにくつろいでいた藤宮花火とでも遭遇して、この場所を教えてもらったのかもしれないわけだし。もしかしてもしかすると、この世の何処かに『大宇宙守の本日のスケジュール』などという物が売買されているのかもしれない。世の中ってのは、何があってもおかしくないように出来ているものなのだから……。
「んじゃまぁ、俺がいたのを知ってたのは良しとして、俺に一体何の用事なんだい?」
この時俺の頭にある思いがよぎった。
――もし好きだって言われたらどうしよう……。
いくら新たなる性癖に目覚めたとはいえ、これは愛らしいものを愛でるときの感覚だ。恋愛感情とは些か一線を画している。はずだ……。しかし、無垢な幼女の愛情を無下にする訳にはいかないし……。幼少期のトラウマが後々の恋愛観に影響を及ぼさないとも限らない。ここは、大人としてどの様な態度をとるのが適切なのか……。いっその事、付き合ってしまうというもの《あり》なのかもしれん。長い人生、幼女とピュアな恋愛をしてみるというもの一興だ。と、ここまで考えたところで、とある人物の引きつった笑顔が頭の中に思い浮かんだ。そう、破壊者こと黄金聖闘士なみの戦闘力を持つ女子高生『藤宮花火』の顔である。もし俺が幼女とお付き合いなど使用者ならば『このド外道ロリコン野郎!! 死んでしまえぇぇぇ!!』の罵倒とともに、物理法則を無視した光速拳が俺の土手っ腹に炸裂することは安易に想像がつく。そして、この『死んでしまえぇぇぇ』は、なんら比喩表現ではなくガチなのだから困ったものである。
となると、ここは断るの一択しかありえない。だが、慎重に言葉を選ばなければいけない。幼女の涙というものは、この世の中で見たくないものベストテンには入るレベルなのだから……。
勿論、これは着物幼女が俺に告白をしてきた場合のことであり、全く関係ないことを言おうものならば、何の意味もなくなる。が、俺がいつも言っているように、世の中は油断ができないのだ。いついかなる時にでも、幼女に告白されたときの対処方法は考えておいて然るべきだと言えよう。
と、ここまで思考したところで、唐突に漫画などでありふれた擬音が鳴り響いた。
ぐぅ〜
そう、俺の腹の音である。よくよく時計を見れば飯時の時間をオーバーしていた。ただでさえ金欠のために常時腹ペコマンの俺なのだから、これは仕方がないことだと言えよう。
その俺の腹の音を、着物幼女は、まるで珍しい小鳥のさえずりでも聞くかのように、耳を澄まして聞いていた。
そして二秒ほどたって、口を開いた。
「大宇宙守にご飯を作ってもらいたいのじゃ」
俺はその言葉を聞いて絶句した。
ご飯を作ってもらいたい、これを言葉の意味通りにとるのは素人のやることだ。これはつまり、『毎日俺の作るご飯を食べたい』そう! プロポーズにほかならない! 何と、何と何となんとぉぉぉぉぉ! まさか、愛の告白をすっ飛ばして結婚の申込みとは……。予想の斜め上を行くとはまさにこのことだ。
――いやまて、確か結婚できるのは女子の場合は十六歳以上じゃなかったか? この子は、六歳の可能性はあっても十六歳の可能性は皆無だ。とすると、これは婚約の申込みか? フィアンセになってという意味なのか!?
『はっはっは! この子が僕のフィアンセなんだ』
『うんうん。じゃあ、今すぐ死ね』
こんな簡素なやり取りで、花火によって命を絶たれる光景が安易に想像できた。なんだろう、俺の人生の選択肢って死亡ルート多すぎないか。
そんな妄想にふける俺の頬に、衝撃が走った。
すっかり存在を忘れていた孔明先生が、俺の頬を手に持っていた扇で叩きつけたのだ。
「主君! 主君! 考え過ぎ! 考えすぎですぞ! このママ様は純粋にお腹がペコペコりんなのでございます! 見たくはありませぬか、ママ様が美味しそうにご飯を頬張る姿を! 吾輩はその姿を想像しただけで……どんぶりめし三杯はいけますぞおぉぉぉぉぉ!!」
珍しく孔明先生の助言が死亡ルートから俺を助けた。とは言え、この孔明先生どうして俺の頭の中がわかったのだろうか? そこは腐っても、いやロリっても天才軍師と言ったところなのだろうか。
「そうか、そなんだな。俺の作る料理が純粋に食べたいんだな?」
その問いかけに、着物幼女はコクリとうなずいた。
「ふふふっ、ならばやってやろうじゃないか! 作ってやろうじゃないか! 究極のメニューってやつをな!」
突如として俺の背後にメラメラと闘志の炎が燃え上がるエフェクトが発生した。
こうして脈絡もなくグルメ編へと突入するのである。




