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よろず屋 大宇宙堂  作者: ヨネ@精霊王
四章 幼女でママで神様で!?
33/125

32 既視感。

 ――近所の子供が何らかの用事で訪ねてきたんだろうか?


 と、普通の一般人ならそう考えるに違いないだろう。だが、俺は違っていた。

 

 ――こいつ、一見子供のように見えるが、詐欺業者忍者の変装に違いない。


 ふふふ、普通の人間ならば騙されるかもしれないが、俺ほどの男になるとこれくらい見抜くのお茶の子さいさいだ。確かに身長が全く違うとか、性別すら違うとか、もとよりこれは変装の域を超えているとか、諸々クソ高いハードルがあるだろうが……忍者ならばそんなものはヒョイッとひとっ飛びで超えてくるに違いない。そう、俺の中での忍者という職業ジョブに対する評価はとんでもなく高かった。それはきっと幼少時代に忍者に憧れて、こっそり修行の真似事などをしていたことにも起因するに違いない。

 だがしかし、この幼女を忍者の変装である見抜いた直感とは別に、俺は既視感デジャヴのようなものも感じていた。この少女と何処かであったような気がしてならなかったのだ。それが何処であるのか……。思い出そうとすると、頭の中に霧のようなものがかかっては、薄ぼんやりとしてしまう。

 そんな事で頭を悩ませている俺をよそに、幼女はその場に笑みを絶やさずに佇んだままだった。

 いや……これは笑っているのか? 違う、何かが違う。これは笑っているのではなく、笑っている真似をしている? 俺にはそう思えた。子供の見せる屈託のない笑みとはまるで方向性が違っている。かと言って大人が見せる作り笑いとも違う。そう、例えるならばまるで人形が人間の真似をしているかのような……。

 俺は困惑した。

 この幼女を前にして、どのような態度を、どのような言葉を続ければ良いのか、さっぱりわからなくなっていた。

 気がつけば、俺は幼女と対峙したまま数分間微動だにしない状況を維持してしまっていた。普通のこどもであるならば、この時点で何かしらのリアクションを起こすものであろう。なのに、この幼女は直立不動で微動だにせず、その何とも言えない微笑みを続けていた。

 この無限に続くと思われた沈黙を破ったのは、俺ではなく幼女だった。


「あーそーぼー」


 それはまるで歌を歌っているかのような、きれいな発音だった。その声質も大人のものではなく、声変わりのしていない子供のものに間違いなかったのだが、何かが腑に落ちない。

 もしこれがただの可愛らしい幼女であるならば、間違いなく『遊んで』いたことだろう。

 おっと、語弊がないように言っておくが、『遊ぶ』とは鬼ごっことかママゴトとかそういうたぐいの健全な遊びのことだ。俺にはロリコンの毛はないのだから。

 だが、ここで予想外のことが起こっていた。

 俺の肩の上が妙に熱いのだ。

 皆さんお忘れかもしれないが、俺の肩の上には孔明先生が乗っている。そして、今まで幼女が登場してから、まるで置物のように沈黙を誇っていたわけなのだが、何か様子がおかしい。そわそわしているような、ドギマギしているような……。そして、何故そうだったのか、それは次の一言で全てがわかった。


「も、も、も、萌ええええええええええええええ!! この諸葛孔明、赤壁の戦い以上に萌えておりまするううううううう!!」


 それは『萌え』ではなく『燃え』だろ。と突っ込みを入れたかったが、孔明先生のテンションはそんなすきを与えてはくれなかった。


「そ、そこの姫君、この稀代の天才軍師、諸葛孔明と遊ぼうではありませぬか? そうだ。お互いの気持をこの手のひらに書いて見せ合いましょうぞ! 勿論。わたくしが書くのは『LOVE』の四文字でございまするううううう」


 おいおい、中華民族が漢字を捨ててアルファベットに走って良いのかよ……。

 どうやら、俺はロリコンではないが、この天才軍師は完全に無欠にロリコンのようだった。

 

「落ち着け孔明先生! これは間違いなく敵の罠だ!」


 俺は肩の上で猛り狂う孔明を必至に押しとどめた。


「いやこの孔明、罠だとわかっていても、飛び込まなければならない時があるのです。そう、そして今がその時! 張飛殿のように猪突猛進突貫すべきときなのでございます!」


「おいおい、お前ちょっと前まで、『天の時』を待てとか言ってなかったっけ?」


「あれは、女子高生のような爛れた大人の場合でございます! これがこと、穢れを知らぬ美しき幼女となれば話は別! まるで別!!」


 ――うーむ。これは『アイツ』の作った道具から出てきた『諸葛孔明』だとしても、三国志ファンに殺されかねない性格に設定されていやがる。まだビーム撃ってる設定の孔明のほうがいくらかましだ。

 肩の上の人形と、問答を繰り広げるアラサーの俺。それはきっと滑稽極まりないものであったに違いない。

 だが、件の幼女はそんなことを期にすることもなく。一言一句先ほどと同じように……。


「あーそーぼー」


 と、言葉を繰り返した。

 もしかすると、それ以外の言葉を知らないかのように……。


「あーそーぶうううううううううう」


 孔明は俺の肩の上から飛び出して幼女にダイビングしようとしたが、俺がなんとか取り押さえることに成功した。

 しかし、この状況。まるで埒が明かない。

 コイツが本物の幼女であるのか、詐欺師忍者であるのか、それともそれ以外の存在であるのか……。

 それを確かめるためにも、俺はこいつと遊んで見る。というか、もし遊ばないという結論を出したならば、この孔明が何をしでかすかわからない。何せ『アイツ』が作ったものだ。自爆してあたり一面吹き飛ばすくらいあったとしてもおかしくない。


「わかった。いや、本当はさっぱりわかってないけど、わかったことにしておく。遊ぼう、まぁ上がれよ」


 俺は自分が他人の家の留守を預かっているという、よろず屋の仕事としての大前提を完全に失念して、この謎の幼女を家の中にあげてしまったのだった。 

 



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