27 アイドルユニット誕生。
「なぁ、ベル様とお前との戦いが、そんな綾小路だか、道路工事だかわかんねえやつの、言葉なんかで終わらされていいのかよ?」
ベルの言い分は完全に間違っていた。この争いのきっかけは間違いなく綾小路桜であり、ヱルの怒りはそれ以外には存在してなどいない。と、それ以前になんでもいいからこの騒動を終わらせてもらいたい、迷惑極まりないので。
「タイマンだ! これはベル様とお前とのタイマンだ! それを他人の言葉で終わらせて良いもんじゃねぇんだよ! お前が学園だとかどうとかはもう関係のない次元なんだよ。お前の怒りは全部ベル様に向けろ! お前生きてんだろ! 感情があんだろ!」
作品を間違えているのではないかと思うほどに、カッコイイ台詞だった。ベルが男で、俺が女であるならば、軽く濡れていたことだろう。
そして、ベルは認めているのだ。ヱルが感情を持つ人間となんらかわりがないということを……。対等の存在であるということを……。
この言葉にヱルは答えないわけにはいかないだろう。
何故ならば、ヱルこそが一番誰よりも、人と同じように接してもらいたいと恋い焦がれてきたのだから。
だから答えた。ヱルはベルの言葉に答えたのだ。
そう! バトルモードへのトランスフォームによって!!
「なんじゃこりゃァァァっ!!」
俺は松田優作ばりに叫んだ。
「おっと、これはァァァァッ! 掟破りのトランスフォーメーション!」
完全に存在を忘れかけていた、実況のファミエレス店長戦乃が金切声をあげた。
「校舎のみを残して、校庭部分をパージしていきます。パージされた部分は異空間へと消え去っていきますね。そして……校舎部分が変形をォォォォ!!」
呼応するように解説のファミレス常連客、多田野が髪を振り乱し吠えた。いや、振り乱す髪は既に存在してはいない。よく見ると、解説の多田野だけでなく、実況の戦乃もツルッパゲになっていた。ご愁傷様である。
そして俺の眼前には、巨大な金属片がぶつかりあう鈍い音を響かせながら、どう考えてもそれ物理的に無理だろう! と、突っ込みを入れたくなる理不尽な変形が進んでいた。
そして十秒後、絶対におもちゃ化されても変形機能はつけられないだろうという、超次元的変形を遂げて、ヱルの校舎部分は各自に連結され、人形モードへと至ったのである。
その大きさは学園そのものであったときに比べれば、数回りは小さくなってはいたが、それでも有二百メートルは超えていた。
「ふん、これで倒れるだけなんていう、つまんねぇ戦いにはならなさそうだな」
ベルが笑う。
「○△♯@○?」
言葉にはならない、機械的なアラーム音のようなものを鳴らし、ヱルはその言葉に答える。
俺が勝手に通訳するならば『バトルモードの私に勝てるかしら?』なんてところだろうか。
「さぁさぁさぁさぁさぁさぁ、戦いのリスタート! いまこそここが正念場!」
「はい! わたくし興奮しておもらしをしております!」
「実はわたしもです!」
いい歳こいたハゲオヤジ二人の失禁が合図となり、魔法の乙女と、オリハルコンの乙女は、雌雄を決するべく超絶怒涛なファイトを開始したのだ。
それは、その戦いは美しいと表現するにふさわしかった。
足を止めての正面からの殴り合い。
ヱルは拳と化したオリハルコン製の校舎をベルへと向け放つ。
ベルは高純度の魔力で生成した、巨大な漆黒の拳をヱルに向け放つ。
その拳と拳はぶつかり合い、無数の火花を散らした。
「綺麗……花火みたい……」
焼きイカを口に頬張りながら、藤宮花火は、呆けたようにその光景を見てつぶやいた。
そう、それは真夏の夜空を彩る大玉の花火の輝きのように美しかったのだ。
二度三度、四度五度、幾度となく拳はぶつけられた。
双方一歩も引くこと無く、ただ真正面に、ただ一直線に、ただ純粋に、ひたむきに……。
いつの間にか空は夕焼け、二人の姿を茜色に染め上げ、長い影を地面へと落としていた。
誰しもが、この二人の美しい決闘に魅了され、言葉を失い痴呆のように見守り続けていた。
いや、一人だけ場違いな言葉を発する人物が居た。
「え? あの……わたしは……。ヱルちゃんは、わたしのために……あれ……あの……わたしの立場は……ファック」
うつむきながら、綾小路桜が誰にも聞こえないような小声で放送禁止用語を口にしたのを、俺は偶然耳にしてしまったわけだが……。聞かなかったことにしておこう。うん、人間時として知らないほうが良いことのほうが多かったりするものなのだ。
「やるじゃねえか……」
その言葉を発したと同時に、ベルは飛翔魔法を維持することが出来ずに真っ逆さまへと地面へと落下した。まぁ、俺が偶然と言うか、少し頑張ったというか、ベルを見事にキャッチしてみせたわけだが。
「きゃっ☆ お姫様抱っこ☆ ベル様すこぉ〜し照れちゃうっ☆」
俺の腕の中で、ベルは横ピースを決めながら、戦いをやりきった清々しい笑顔を見せていた。
そしてヱルも、ゆっくりとその場にしゃがみこんだのだった。
まぁ、ゆっくりとは言え、しゃがみこんだ衝撃波で色々アレなことになったわけなのだが、ここは感動的なシーンなので、なかったことにしておいてもらいたい。
全力を尽くしてタイマンを張った二人のあとに訪れるもの、それはもう決まっている。そう、もうこれはお約束事なのだ。
アイドル魔法少女の魔王少女ベルと、聖ヱルトリウム女学園のヱルの間には《友情》が芽生えていたのだ。
「そうだ! ベル様良いこと思いついちゃった☆」
ベルが俺の腕の中でパンと柏手を打つように手を叩いた。
「ヱルもアイドルになれば良いんだよっ☆ 道路工事とヱルとベル様の三人でアイドルユニットを結成するのだっ☆」
綾小路が完全に道路工事にされているわけなのだが、突っ込みどころはそこではない。
この魔王少女は全長数百メートルのアイドルを誕生させようとしているのである。
「学園自体がアイドルになっちゃう☆ これが本当のスクールアイドルっ☆ なんてねっ☆」
ドヤ顔あざといスマイルで、ベルは言ってしまった。言ってはいけないセリフを言ってしまった。
おわかりであろうか。このオチを言うためだけに、このお話が存在したという恐るべき事実を……。
兎に角、戦いは終わった。
そして、この世に二つと無い偉業のアイドルユニットが誕生した。
きっとこの三人? はアイドル業界に旋風を巻き起こしてくれるに違いないだろう。
だが、それはもう俺には関係ない話だ。
何故ならば……俺はこの後、マネージャーの仕事をすぐさま降りたのだから!
いくらかの違約金を請求され、またまた貧乏生活へと戻ったわけなのだが、それでも命には変えられない。
もしあのまま、マネージャーを続けていたならば、俺は遠くない日に命を落としていたに違いないのだから……。
さて、これで俺のよろず屋としてのアイドルマネージャーの仕事が終わったわけなのだが。
「……ふ〜ん、わたしだけアイドルに誘われてないんだ……。べ、別に興味なんて無いからいいけどさ……」
と、ぷっくりとハムスターのように頬を膨らませて、こっそり不満を漏らす花火が少し可愛かったことを追記しておこう。




