20 女子高生のお尻。
あれから(俺がスタジオで撲殺されてから)二日ほどが経過した。
連日連夜馬車馬のようにこき使われるのかと思いきや、ベルからの呼び出しもなく、俺は事務所でのんびりと平和な日常を満喫していた。
余談だが、スタジオ崩壊の責任問題どうのこうのでベルのプロデューサーが『フライ ハイ!』と奇声をあげながら何処かしらに羽ばたいていったようだが、聞かなかったことにしておいた。
そして、平穏な日々の事務所の中には、藤宮花火がごく当たり前のように居座っていた。
とは言え、花火がこれと言った用もないのに事務所を訪れるのはいつものことだ。この女子高生ときたら、一人暮らしの男子の部屋に無防備でやってきやがるのだから、貞操観念をもっと大事にしてもらいたいものだ。
俺が紳士であるからいいものの、もし俺が女子高生大好きだったらどうなっているのことか……。と、思ってみたが、女子雨構成大好き人間だったとしても、この藤宮花火には手を出したりはしないだろう。なんたってこいつは比喩表現抜きに、相手を地獄に叩き落す拳を持っているのだから……。うむ、本当に地獄に叩き落されたことのある俺が言うのだから、信憑性の高さは折り紙付きだ。
しかし、あんな事件のあった後だ。いくらキラーマシンの異名を取るこの女とて、そうそう俺に暴力を振っては来ないだろう。そう、人の心があるのならば、少しくらいはしおらしい乙女になっていてもいいはずだ。
とするならばだ、もし俺がなんとなくお尻を触ってみたとしても、鉄拳を飛ばしてきたりはしないのではないだろうか?
いやいや、別に俺はこんな小娘の未成熟な尻など撫で回したいわけではい。決してそうではない! ただこいつが暴力を振るうということに対して躊躇するかどうかの、リアクションが見たいだけなのだ! 女子高生の尻なんて全然興味ないんだからね!!
と、決まったならば即実行だ。
都合よく、花火はテレビを見ながらお口にお菓子を放り込む作業に勤しんでいて、こちらの挙動にまるで関心がないようだ。
さぁ、キラーマシンからお淑やかな乙女へとジョブチェンして、鉄拳ではなく『きゃー』などと女子らしい悲鳴などあげてみるのだ!
俺の手が完全なる死角から、花火の可愛らしいお尻へと、うねりをあげる蛇のごとく向かっていく。
そしてあと一センチでお尻の軟からさを堪能できるといったところで、見えないバリアーのようなものに、俺の手は動きと封じ込められてしまう。
それは藤宮花火の放つ……闘気だった……。
――何なのこの女子高生……なんで北斗の拳のケンシロウ並の闘気を身にまとっていらっしゃるの……。
そして花火はゆっくりとこちらを振り返ると、ニッコリと微笑んでみせた。しかしその微笑みは、死神が死の宣告を放つ形相にしか俺には見えなかった。
「ねぇ? 何やってんの? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?」
笑ってた。が、目はマジだった。真剣とかいてマジだった。
――ああ、死んだわ。俺また死んだわ。
俺が死を覚悟した瞬間。この緊迫した場には場違いなアットホームな着信音(笑点のテーマ)が鳴り響いた。
「で、電話だから! し、仕事の電話だから!」
「チッ……」
俺は電話に助けられ、九死に一生を得た。
どうやら蛙の子は蛙のように、キラーマシンはキラーマシンのままなのである。俺はもう二度と花火にセクハラ行動は取るまいと心に誓うのだった。
そして電話の内容はと言うと……。
※※※※
「ありがとう! お前のお陰で命が助かった! 助けてもらうのはこれで二度目だな!」
「はぁ〜? ベル様こいつが何言ってるのかさっぱりわかんなぁ〜いっ☆」
事務所にやってきたベルを迎い入れた俺は、いきなり頭を下げて涙ながらに感謝の意を述べた。
そう電話の相手は魔法少女アイドルのベルからだった。
どうやら仕事に関して相談したいことがあるとこのことで、うちの事務所にやってきたのだ。
しかしこの魔法少女アイドルは、私生活でもキャピキャピしたかわいらしい服装で、このあざとさ一万パーセントのフリルの付いたミニスカートと黒のニーソックスのコンビネーションは、俺ほどの紳士でなければ、土下座をして踏んでもらおうとしてしまいたくなるほどの破壊力を秘めていた。
そして花火はと言うと、何か言いたいことありげに、部屋の隅から俺にぽ怨念のこもった視線を送り続けている。
「あのね、ベル様が相談したいのはぁ〜。アイドルグループを作りたいってことなのぉ〜☆ てへっ☆」
ソファにちょこんと腰掛けて、上目遣いを俺に送るベル。おねだりってのはこうやるんだぜ! と言わんばかりに、見事なおねだり作法である。
「ベル様は〜、一人でもスーパー美少女アイドルなんだけどぉ〜、やっぱり今の時代、AKなんとかみたいに、グループが良いと思うのっ☆」
確かに昨今ピンのアイドルは数少なくなってきている。そう考えるとグループとして色々なキャラクターを売っていくのはありだろう。などと少しはマネージャーっぽい思考をしてみせる。
「それでねっ、良いメンバーは居ないかなって〜」
「おいおい、俺にそんなアイドルになれるような女の知り合いなんて……」
とそこまで言いかけて、一人心あたりがあることに気がついた。
そう彼女が居たではないか!!
勿論その彼女とは、キラーマシンこと藤宮花火ではない。こいつは格闘家には向いていても、アイドルには全く向いていない。ファンとの握手会などやってみようものならば、何人の腕の骨をぶちおることだろうか……。まさに惨状がそこに生まれるに違いない。
俺はその思い当たった彼女を呼び出すべく、スマホに手をかけて動きを止めた。
――いやまてよ……。あの子を呼び出すと……一緒に……アレがついてくるのでは……。
そんな危惧が心をよぎったが、時すでに遅く俺は電話をかけてしまっていた。




