21 美少女再び。
ピンポーン
と、事務所の呼び鈴が鳴るや否や、俺はご主人様の帰りを待ち構えていた犬の様に、玄関に向けて尻尾をふりふり猛ダッシュで駆けつける。
そしてドアを開けた先に立っていたのは……。
「お久しぶりでです。大宇宙さん」
少し戸惑いの色を見せながらも、行儀出しく頭をペコリと下げて挨拶をしてみせたのは――そう! あ聖ヱルトリウム学園事件の依頼人であった『綾小路桜』その人である。
俺の中のデータベースで美少女を検索すれば、いの一番で出てくるのがこの子なのだ!
――うむ! 改めて見てもやっぱりかわいい。名は体を表すと言うが、『綾小路』という高貴な雰囲気を醸し出す名字にふさわしいオーラ。さらには『桜』と言う日本を代表する花の名前に何一つ負けることのない可憐さ。百点満点で三万点つけてあげたい!!
「あ、あの……私の顔に何か付いてますか?」
レーザーが飛び出るほどの俺の熱視線に気がついてか、綾小路桜は照れたように耳にかかった美しい黒髪を掻き上げてみせた。俺の熱視線にやられたのか、ほんのり桜色に染まった頬が、抱き締めたくなるほどに愛らしい。
「何やってんのさ……」
蛇のようにネットした視線と、五臓六腑を貫かんとする闘気が俺の背後から注がれる。この闘気……紛うことなく藤宮花火その人である。
更にもう一人……。
「あのねっ☆ スーパーアイドルのベル様を放置しておいて、こういうのっておかしいと思うんだぁ☆」
と言い終えると同時に、ベルは何やら物騒な呪文の詠唱に取り掛かっていた。何やら『漆黒』とか『灰燼』とか『冥府』とか、完全に殺し来ているような言葉が耳に聞こえてくるが、空耳であることを祈ろう。
「ま、まぁまぁ、お話はこっちの応接室でね! うん! いやぁ、久しぶりだねぇ」
俺は敗走するゴキブリのように、二人の鬼神の隙間を縫うようにして、綾小路桜を応接室へと案内した。
※※※※
こうして、美少女学生? 三人に囲まれるというハーレム的環境が、この『大宇宙堂』に発生したわけである。うーむ、なんだか部屋の空気も甘い匂いになってきている気がしないでもない。まぁその甘い香りの発生源の九割以上は綾小路桜からのものに違いないのだが。
「ってあれ? そういえば、俺はベルの歳を知らないな……。一体お前は何歳なんだ?」
俺は改めてベルの頭の先から爪先まで見返してみる。背格好、未発達な胸部から推測するに中学生くらいだと思われるが、実際のところは謎だ。ってか、こいつの存在そのものが謎すぎる。
「あはははっ☆ 女の子の歳を聞いちゃうなんてっ、死にたいのかなっ☆」
と、可愛らしくはにかんで見せてくれたが、これは照れ隠しでも何でも無く、文字通り俺を殺しにかかっていることは間違いない。だってこいつの背後にどす黒いオーラが渦巻きだしてるもん!!
「アイドルには秘密がいっぱいなんだからねっ☆」
アイドルであるかどうかは全く関係なく、こいつは秘密の塊である。魔法とは何なのか、こいつが封印された理由とは何なのか、色々と問いただしたいことはあるが、きっとヤブを突っつくと大蛇が出るに違いないので、スルーしておくことにする。いやさ、こいつの場合は大蛇どころか、ヤマタノオロチや、ニーズヘッグくらい出てきてもおかしくない。
「あの……アイドルがどうとかって……一体どうなっているんでしょう……?」
少し縮こまってソファーに腰掛けていた綾小路桜が、周りの二人を気にしながら問いかけた。
「ああ、ごめんごめん。状況を全く話してなかったよな。どこから話せばいいのか……」
と、改めて考えるとこの奇妙奇天烈摩訶不思議な関係性をどう説明すればいいのか……。はっきりって冗談としか思えないのこの状況。だって、魔法少女だぜ? しかも元おっさんだぜ? さらにアイドルだぜ? もう一人は数日前に俺を撲殺した女だぜ……。何をどこから説明すればいいのか……俺の頭がオーバーヒートしかけて煙を出し始めた刹那、ベルが値踏みをするように綾小路桜を見つめ出した。
「ふふ〜ん。ベル様ほどじゃないけどぉ〜、可愛いじゃん! よし、決定ねっ☆ 今日からアナタはアイドルなんだからねっ☆」
ぱむっとあざとく胸の前で手を鳴らすと、そのまま華麗に一回転。そして、いつの間にか綾小路桜のすご横に並んで立っては、アイドルっぽいポーズを決めさせてしまっている。
「いいな……。うん、かなりいい!」
正統派美少女『綾小路桜』
魔法少女で王女『ベル』
この二人のユニットはありだ! いける、これなら……これなら確実に金が稼げる!!
完全に忘れていたが、俺はマネージャーとしての仕事を承っていたわけだ。うむ、これなら二人のキャラがかぶること無く、多数のファンを魅了することが出来るに違いない。
と、俺が感極まって拳を高型と天高く掲げている横で、女子高生でありながらアイドル編成に全く組み込まれない女こと、藤宮花火は口持ちを尖らせながら少し拗ねていた。
「え? え? えぇぇぇ? ちょっと待ってください。私……アイドルなんて……」
「だいじょうぶっ☆ こわくないからっ☆ 痛いのは最初だけだよっ☆」
何が怖くて、何が痛いのかさっぱりわからないが、ベルは優しく綾小路桜を肩に触れると、ご自慢の有無を言わせぬアイドルスマイルで強引な説得を試みていた。
押しに弱い綾小路桜は、このままかんたんに籠絡されてしまう……と思ったその時である。
窓の外から、咆哮とともに地響きのようなものが伝わってきた。
「何? 何なのぉ〜☆」
――やはりか……。綾小路桜を呼べば、ついてくるとは思っていたが……。
そう、それは窓の外に居たのだ!!




