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楽すれば落する

「長屋エリアにスポーンする初心者狩って自尊心を満たさなきゃいけないほど、アーチェちゃんはお先真っ暗ってワケじゃないんだからさぁ。そもそも自分より弱い存在にマウント取り続けても何の糧にもならないよ。そんな事する暇あるなら強者に立ち向かう方が絶対将来役に立つから、心機一転で頑張ってみないかい?」


「~~っ!だって!だってアタシこうでもしないとスコア稼げないの!城下町エリアで狩られ続けるくらいなら、初心者狩りでもなんでもしてスコア稼ぐしかないじゃない!!」


「うん、でもそれやっていまトミナ少年に狩られそうになったんだよね?」


「うぐっ!?」


「強くなる、人より稼ぐのに決して楽なやり方なんてないってのがオジサンの持論でね。ほら、『楽』って落下の『落』と同じ読みするでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アーチェちゃん、攻撃を回避するのにスキル枠1つ使ってるけど、その楽を選んだ時点で――」



と、長々と琥二郎が持論を展開し続けていると、アーチェから鼻をすするような音がした。あっ。



「……うぅっ、ぐすっ、うっ……!う~~~~っ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばかばかばかばか!!琥二郎のばかっ!!そこまで言わなくたっていいじゃないっ!!わかってるわよアタシだってこのままじゃダメだってことくらいっっ!!」



鼻声混じりの泣き声を上げたアーチェは連続で琥二郎の胸元を太鼓のように叩き続ける。琥二郎はそれを両手で全部捌き切る。いやそこは甘んじて受け入れないんスか。



「…………ヤッチャッタ。……オジサンの悪いクセがでちゃったよ」


「は、ハハっ」



助けを求めるような目を琥二郎から向けられるが、申し訳ないが俺が両者の間に割って入るにはアーチェからの好感度がなさすぎるので、助け舟を出す事は叶わない。そもそも出逢って間もないが、なんかうっすらとアーチェは苦手な部類なので助ける気にはならない。すまん、正論パンチでそのまま泣き崩れほしいっス。



「……う~~っ!そこなにわらってんのよ!!」


「おわっ」



琥二郎に向けた乾いた返事を自身への嘲笑と受け取ったのか、アーチェは裏拳を振りかざしてきたのでバックステップで回避する。ゆ、油断ならないなこの女……。



「うーん困ったねぇ……、どうしたら許してくれるかい?」


「………ぐすっ、………新しい弓と団子屋で高級みたらし買ってくれたら許してあげるわ……っ!」


「うーん、弓、弓かぁ。オジサン弓はあんまり使わないから手持ちには…………あ、そうだ!このあとちょっと()()があるから、そこでいいのがあったらアーチェちゃんに譲ってあげるよ」


「…………アテ?」


「そ。あれ、運営からのお知らせ見てないかい?朱天童子(しゅてんどうじ)荊棘黄童子(いばらきどうじ)のレイド戦、今日の21時からだよ」



どうやら琥二郎はレイド戦に挑むようだ。アテというのは平泉先輩が提案した武器をパクる云々と同じ事だろう。



「しゅ、朱天童子と荊棘黄童子って『六厄災』じゃない!!あんな無理ゲーのレイド挑むなんて頭おかしいんじゃないの!?」


「んー、まあオジサン含めてランカー連中は頭がおかしいからそこは否定はしないけど、無理ゲーってのは否定したいかなぁ。一見無理に見えても、やってみないと結果ってのはわからないモノさ」


「……なにそれ、理解に苦しむわ……!」


「ハハハ、残念アーチェちゃんには理解しがたいか。じゃあトミナ少年はどうだい?自分より遥かに強い相手が眼の前にいたらどうする?立ち向かう?それとも尻尾巻いて逃げるかい?」



現在進行系で眼前に俺より強い相手がいるんですが、それは俺を試してると受け取るべきだろうか?……いや、そう受け取るべきだろうな。琥二郎からはどこか見定めるような気配をうっすらと感じる。


とはいえ、虚勢を張った所で簡単に見破られるだろう。だからここは嘘偽りなく、飾らない言葉を。



「尻尾巻いて逃げます。勝てないと判断した自分の直感に従って、勝てる実力を身につけるまで自分を鍛え上げます」


「……なるほど。逃げ切れずに次がないとしても?」


「いや、次ならあるじゃないですか。()()()()()()()()()()()()?」



はぁ!?何言ってんだコイツ!?とでも言わんばかりにと目を見開くアーチェとは対照的に、琥二郎は目を閉じてニヤリと口角を上げて破顔する。



「ピンポンピンポン大正解!実にオジサン好みの解答だ!!オジサンからトミナ少年に花丸をあげよう!!そう!ゲームなのさ!ゲームは一発回答が求められる現実とは違っていくらでもやり直しが出来る!一見無理だとしても、試行錯誤をすれば必ず突破口が開けるようにデザインされてるのがゲームの素晴らしいところでね!!繰り返し対処すれば必ず解ける歯応えのあるパズルのようなモノさ!」



パチパチと大袈裟な拍手を送る琥二郎と、ハイテンションの声を間近で聞いて五月蝿そうにしかめっ面を浮かべるアーチェ。とりあえず納得いく解答が出来たようでなにより。



「まあ特定武器やキャラクターがいないと、そもそも突破出来ない意地悪な問題を用意する運営もいたりするけどね。……オジサン、あれはよくないと常々思っていてね、自由さがウリのゲームでそれをやられた事があったんだけど、それはもうほんとビックリするくらい呪詛が溢れだしちゃって。衝動のまま書き連ねてお気持ちレビューを叩きつけた過去があってだね……いやぁ、あの頃は若かったなぁ」


「そ、そっスか。大変だったんスね……」

【登場人物紹介】その③


笹木晃司(ささきこうじ)


・プレイヤーネームは『琥二郎』。剣道六段社会人。『モノサバ』上位ランカーの1人。【大般若長光】と【津田長光】と呼ばれる二振りの刀を所有している。



弓野莉利(ゆみのりり)


・プレイヤーネームは『アーチェ』。中学生。ゲーム初心者が最初に出現する長屋エリアにて初心者狩りでスコア稼ぎをする中級者。笹木はリアルの親戚。

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