口は災いのもと、因果応報
「まぁオジサンのつまらない過去は捨て置くとして、アーチェちゃんのご所望するみたらし団子でも買いにいくとしますかねぇ。トミナ少年も一緒にどうだい?こうして巡り会ったのもなにかの縁だ、オジサンがご馳走してあげようじゃないか!」
「あ、ハイっス。丁度知り合いと団子屋で待ち合わせなので、是非」
思い返せば平泉先輩から団子屋の場所を聞いていなかったので、集合場所がどこにあるのか知らなかったという。二人がこれから向かう先が団子屋というなら俺と目的地が同じだし、お言葉に甘えて同行しよう。
「……え。アタシ、アンタと一緒に歩くの嫌なんですケド」
泣き止んだのか、それとも実は嘘泣きだったのか。すっかり初対面時の調子に戻ったアーチェはジト目をこちらに向けて心底嫌そうな顔を浮かべた。
「俺も嫌なんスけど」と正直に言うとまた面倒なことになりそうな気配を感じたので、言葉と込み上げた感情をぐっと喉奥まで飲み込む。
うーん、この生意気な感じ中身ぜったい中学生だろ。あっても同年代、歳上じゃない。敬意を払える要素が会話の節々から欠片も感じられない。まあ俺も平泉先輩や明らかに歳上な琥二郎相手に『っス口調』で人のことをあまり言えた義理ではないが、現実に言っていないのでセーフ。
そもそも琥二郎の仲裁が入ったとはいえ、ついさっきまで戦ってた相手と同じ場所まで向かうのが嫌という気持ちはわからなくもないが、元はといえば謎の逆ギレかましてたアンタのせいだろう――と言えたらいいが、我慢だ我慢。……我慢出来るかぁ……?
「うーん、よしじゃあこうしよう!オジサンが真ん中で、アーチェちゃんとトミナ少年は両隣!これならいいかい?」
「やだ。アタシの半径10m以内から離れてほしい。アンタの顔も見たくないし声も聞きたくない」
ブチッと堪忍袋が破れる音が身体の内側から聞こえた気がした。納刀せず握りしめたままの刀を持つ手に自然と力が入る。
「琥二郎サン、俺初心者なんでよくわからないんスけど、いまこの子倒したらどうなります?どこにリスポーンするのか教えてもらっていいっスか?」
「……、トミナ少年?」
「なっ、なによアンタ!?やる気!??」
いかん、飲み込みきれずに胃から逆流した感情がつい口から溢れてしまった。売り言葉に買い言葉、犬歯剥き出しで威嚇する小型犬のように、琥二郎を盾にガンを飛ばしてくるアーチェ。ダメだな、どうも調子が狂うぞこの女。前世の天敵か?
「あぁ、そうか。言われてみればアーチェちゃんに狙われてたって事は、トミナ少年は初心者だったねぇ。うーん、じゃあこうしよう!口で説明するよりも、実際に体験してもらった方がはやい」
「……え?それ――――ッ!!!?」
――言葉を言い切る前に、鋭利な鋼の閃撃が俺の首を刎ねんと迫る。
琥二郎の放った殺気にアテられて生存本能が呼び起こされたか、いまだかつてない反応速度で全神経を駆使し、後方へ回避して凶刃から難を逃れる。
「あれま、これを避けるとは思ったよりやるなぁトミナ少年。じゃあ次も避けれるかい?」
「くっ!?」
瞬く間に距離を詰められ、辛うじて視界に捉えた一太刀に対して刀の背を左手で支え、琥二郎の一振りを両手でなんとか受け止める。しかし実力も刀の質も段違いのせいか、受け止めた箇所から刀身に大きな亀裂が走る。
「【津田長光】相手にトミナ少年の持つ初期装備の【無銘】じゃ受け止めるのは悪手だねぇ。オジサンは『避けれるかい?』って言ったんだけど――ね!」
琥二郎は拮抗している刀の背を押し込むと、俺が支えていた刀身はいとも容易く真っ二つに折れてしまった。灰色の砂の上に、スルリと刀身が突き刺さる。
「ハイ武器を壊されてボケっとしないの!」
「がっ!?」
一瞬の隙を逃さず、琥二郎は俺の胴体目掛けて踏みつけるような蹴りを叩き込む。反応が遅れたことでモロに直撃をくらい、HPが一気に半分まで減少する。ただの蹴りでこの威力かよ。
「ああそうそう。言い忘れてたけど、オジサン弱い者をいじめはしないのがポリシーだけど、弱い者いじめをしようとする人間にはめちゃくちゃ厳しいからね?」
刀を中段に構えたまま、琥二郎は一歩一歩、地面をしっかりと踏み締めながらこちらへと歩み寄る。
「トミナ少年は初心者ではあるのだろうけど、オジサンの見立てではアーチェちゃんより強い。そんなトミナ少年がアーチェちゃんを叩き切ろうとするなら、オジサンが身体を張らないわけにはいかないんだよね?わかってくれるかい?」
「…………スンマセン、ちょっと言ってる意味がよくわかんないっス。刀収めるんで、言葉で最初から説明してもらっていいっスか?」
逆鱗に触れたトリガーは攻撃の意思を示した事だと判断した俺は折れた刀を鞘に収め、降参の意思を示すように両手を上げる。その反応を見た琥二郎はすんなりと刀を納刀し、その後すぐにメニューウインドウを表示させた。
「な、なんで攻撃やめるのよ琥二郎!?やっちゃいなさいよそんなヤツ!」
琥二郎の背後から戸惑うアーチェの声が飛ぶ。マジで叩き斬ったろうかと考えたが折れた刀で琥二郎を避けて攻めるのは現状不可能と判断する。刀を交えて一瞬で理解したが、強すぎるこの人。師範や師範代に匹敵するレベル。
「アーチェちゃん、オジサンの話聞いてたかな?オジサン弱い者いじめはしないの。今のトミナ少年は攻撃の意思を放棄した弱い者でオジサンの攻撃対象外。言ってる意味わかるかい?」
「でもそいつアタシの事を斬ろうとしたじゃない!?」
「それを言いだすとアーチェちゃんがトミナ少年を攻撃した事がそもそもの原因で自業自得……って、さっきも似たような話をしたねぇ?」
「さっきはアタシを助けた!!だったらまた助けるのが当然じゃないの!?」
「アレはいきなり攻撃されたのを防いだだけで、オジサン攻撃してないんだよね。うーん、まぁ変なタイミングで声かけちゃったオジサンも悪い、か。……え?オジサン悪い?本当に?どう思うトミナ少年?」
放っておくと無限ループに入りそうな気配を感じたのか、琥二郎はこちらに助けを求めてくる。うーん、いっぺん痛い目に遭って欲しい願いを叶えるとしたら、こんなのはどうだろうか。
「そうっスね、じゃあもう俺とそこの合わせて二人、琥二郎サンが一緒にぶった斬るとかどうっスか?喧嘩両成敗って事で」
名付けて『死なば諸共』作戦。個人で倒せないなら倒してもらう!
「……うん、いいね!それでいこう!…………オジサンちょっと疲れちゃったし」
「はぁっ!?ちょっ琥二郎アンタなに勝手にきめ――」
アーチェが言い終わるよりも先に、琥二郎が振り向き様に放った目にも溜まらぬ一閃がアーチェの胴体を一瞬にして両断した。刀が胴体の中心を過ぎたあたりで青白い爆発を起こしたので、おそらくアーチェ自身、何が起きたのかもわからなかっただろう。正直めちゃくちゃスカっとした。ありがとう琥二郎サン。




