拙者、義によって助太刀致す。初心者狩り滅ぶべし
青白い炎を潜り抜けた俺の視界に飛び込んできたのは、長屋が立ち並ぶ大通りであった。足元は先程とは打って変わってサラサラとした灰色の砂が敷き詰められている。加えて先程まで裸足であった足はいつのまにか白い足袋と草履を履いていた。
視線を上げて周囲を見渡すが大通りっぽい割に他のプレイヤーの姿はなく、代わりに折れた刀や槍の穂先、弓矢が無造作に地面に転がっているだけであった。
……あの転がってる槍の穂先、さっき見かけたスキンヘッドの大男が持ってたヤツと似てるような、と落ちている残骸を確認しようと近づこうとした瞬間、頭上から風切り音が飛来する。
「ッ!」
即座に横っ跳びで回避すると、離れた位置に弓矢が数十本ものおびただしい数が地面に突き刺さる。どうやら奇襲を仕掛けられたらしい。初心者相手にいきなりスポーン狩りとは、さては治安が悪いなこのゲーム?
俺は急いで長屋の軒下まで走って移動する。どこから襲撃が来るかはわからない以上、狙撃される場所を限定して備える必要がある。
腰に差した鞘から刀を抜いて周囲を警戒するも、射手の姿は確認出来ない。まあ奇襲を仕掛けるような相手がわざわざ姿を晒すわけないか、と警戒を怠らずに周囲を見渡していると、突如として離れた場所で青白い炎が地面から噴き出した。そしてその中から刀を腰に携えた長髪の男が現れた。
「おっしゃぁ!やったるかぁ!!」
と、長髪の男はいきなり雄叫びを上げたかと思うと、刀を鞘から抜き取って天高く掲げてみせる。なんだろう、ものすごい死亡フラグを感じるな――と思った直後であった。
「……ん?なん――だこりゃばばばばばばばばばぁッッ!!?」
またも大量に飛来する弓矢の雨霰が男の頭上から降り注ぐと、それはもう見るも無惨に男の全身を貫いた。数十本に及ぶ弓矢が刺さるたびに男の全身から青白い鮮血が飛び散り、やがて身体が爆発四散する。な、なんてえげつない事をしやがるんだ!?
男の肉体は弾け飛び、掴んでいた刀だけが力なくポトリと地面に落ち、爆発四散したあとに残った液体は一塊になって空へ向かって飛んでいく。あの塊が飛んでいった方角に向かえば襲撃犯の姿は割り出させそうではあるが、まあ今はそれどころではない。
「平泉先輩が道中色々あるって言ってたのはこういう事か……」
そうボヤくように誰に向けたわけでもなく感想を零すと、再び離れた位置で青白い炎が出現してその中から新たなプレイヤーが出現する。飛び出してきた槍を抱えた女のプレイヤーが不安そうに周囲を見渡した直後、三度大量の弓矢が飛来するのを視界に捉える。
「え!?きゃっ、きゃああああああ!!!?」
金切り声の断末魔を周囲に響かせながら女の全身は蜂の巣のように穴だらけになり、先程の男と同じように四方に弾け飛んだ。そして抽出された青白い光球はまたも同じ方角に向かって飛んでいく。
…………なんだろう、無性に腹が立ってきたな?
モラル的に問題はありそうだがゲームとしては禁止されていない行為なのだろう。しかし、しかしである。推定中級者以上のプレイヤーが遠距離から初心者狩りをするという卑劣極まりない行為に対してフツフツと怒りの感情が芽生え始める。
だが剣道において心の乱れは剣の乱れだ。怒りに支配された心では剣筋や構えが鈍り、討たれる要因になりかねない。
とはいえ、だ。俺はしばらく剣道から離れていた身であり、なんなら剣の技量に関しても錆びついているし心構えも全盛期には程遠い。
であるならば、リハビリが必要だ。多少荒療治にはなるが、たるみきった心身を叩き起こして叩き斬るには申し分ない相手を見つけてしまったからには逃すには惜しい。
女のプレイヤーの成れの果てである光球は先程と同じ方角へ向かって飛んでいく。俺はその軌跡を目印にして軒下を上手く利用して襲撃を警戒しつつ追いかける。
一直線に進んでいった塊は長屋と長屋の切れ間となる隙間に入り込むように急旋回すると、その直後パァっと一際明るく光り輝いた。そこか!!
刀を肩に担ぐような姿勢で出来るだけ被弾面積を抑えるように低空姿勢で卑怯者が隠れているであろう路地裏へと突き進む。
「は~初心者狩りさいこ~~!!新鮮な悲鳴が染みる~!!」
「そうなんスね、じゃあ俺にも聞かせてくださいよ」
「ッ!?だ、誰よア――ンンンンンッ!!!?」
地面に両膝を突きながら光悦に浸っていたピンク髪の女の脳天目掛けて、俺は渾身の力を振り絞って刀を振り下ろすも、咄嗟に掲げた弓に防がれて両断には至らない。
「ちょっアンタいきなり何すんのよ!?ってあーもうサイアク!咄嗟に受けたから弓壊れ――ってわわっ!!?」
自分の行為を完全に棚に上げて逆ギレした女は隙だらけだったので、何度か無言で切りつけるも紙一重で回避されてしまい、なかなか攻撃が当たらない。女が回避する度になにやら足首周辺でキラキラとしたエフェクトが煌めいている。素の技量で回避している、というわけではなさそうか。
「ア、アンタね!?いきなりなにすん――」
「スンマセン、俺アナタと会話する気ないっス。とりあえずさっきの恨み晴らします」
「の――よぉぉぉおっ!!?」
連続で斬りつけるも女はひらりひらりと神がかり的な回避を連発する。まるで舞い散る落ち葉を斬っているかのように、振り抜いた刀は虚しく空だけを裂き続ける。
うーん、いくら鈍ったとはいえここまで回避され続けるのはいくらなんでも異常だ、切断攻撃がダメだったりするのか?
と、ものは試しに足蹴を仕掛けようと右足を伸ばした途端、ピンク髪の女の表情が明確に変わった。
「ッ!!」
紙一重の回避ではなく、明らかに大きく飛び退くような行動に攻略の糸口が垂れたと確信する。さて、どうやって断頭台に引きずり出したものかな。




