汝、荒ぶる事を禁ず
「――神聖なる敷地内で何をするつもりだ貴様ァ!?」
「ッ!?」
何の気配もなく背後から叩きつけられた怒声に、心臓が跳ね上がる。反射的に地面を蹴って飛び退く。たった1歩で数mもの距離を一瞬で移動する。
声の主は般若面を被り、紺の作務衣で纏っていた。その手には箒が握り締められている。わなわなと両肩を震わせながら、般若面の男は吠えた。
「敷地内において、いかなる理由があろうと戦闘は禁じられているのを、よもや知らぬとは言わぬな!?」
般若面をつけているので表情は読み取れないが、声音だけで怒髪天を衝いているのがわかる。般若面からはみ出た白髪が逆立ち、不穏な気配を振りまいていた。
「すいません、知りませんでした!スキルの効果を試したかっただけなんです!」
俺は正直に答え、頭を下げた。琥二郎が戦闘禁止と言っていたのを覚えてはいたが、攻撃対象がいない状態でスキルを発動するのも戦闘行為に含まれるとは思わなかったのだ。
「敷地内で己の調子を確かめたいのであれば、そこの修練場へ行かぬか!!」
握り締めた箒で般若面の男は俺の真後ろを指し示す。振り返り視線を向けると、そこには道場のような建物が構えていた。
「わかったか!?わかったなら返事ッ!!」
「はいッ!!」
「…………いいだろう!その声に免じて警告だけで今回は見逃す!だが、次はないからな!?」
般若面の男はそう告げて地面を力強く踏み抜くと、あっという間に姿を消した。なんとか事なきを得た。あの般若面、ものすごい威圧感だった。荊棘黃童子と同等の風格を漂わせていたので、戦闘に発展していたらと思うとゾッとする。
安堵で胸を撫で下ろしながら、般若面の男に指し示された修練場を見る。修練場か、動きを確認するのには悪くないだろうが、今はそんな悠長に時間を使える余裕はない。集合時間を考慮するなら、このまま団子屋に向かいながら動きを確かめた方がいいか。
減りゆく『韋駄天』の効果時間を確認しつつ、早足で神社の敷地内から出た俺は団子屋を目指す事にした。鳥居を潜り抜けて神社の敷地外に出た直後、戦闘再開許可のカウントダウンが始まった。
残り時間1分、このカウントダウンが終わるまでに団子屋まで駆け抜けてみせる。
俺は全力で地面を蹴り上げた。踏み抜いた力が地面と反発し、爆発的な推進力を生んで身体を前へと突き動かす。一歩、二歩、三歩、踏み込む度に加速する。風と一体化したと錯覚するかのような疾走。
気がつけば、俺の身体はあっという間に団子屋に辿り着いていた。危うく通り過ぎそうになったので、たたらを踏みながら急ブレーキをかける。




