芽吹き
『SHIZUKAがあなたを「モノサバ攻略(仮)」に招待しました』
突っ張りを感じるアキレス腱付近を左手でさすりながら、俺は右手でスマホの画面に表示された通知画面をタップし、SNSを開いた。参加と拒否の二択が表示され、俺は参加を選択してトークルームに入室する。
『湊本芳雅が「モノサバ攻略(仮)」に参加しました』
『お、きたきた』
入室直後、烏帽子を被った銀髪キャラがアイコンの平泉先輩のメッセージが送信された。間髪を容れず、通知音が鳴る。
『武蔵景が「モノサバ攻略(仮)」に参加しました』
『ケイちゃんも来たね』
レスポンスが早い平泉先輩はすぐにメッセージを書き込み、既読が2件と表示される。
『じゃ、私はスクショ整理するからあとはごゆっくりー!20時半頃までにまたゲーム内でね!』
『SHIZUKAが「モノサバ攻略(仮)」から退出しました』
「ちょッ!?」
突拍子もない平泉先輩の行動に思わず声が出た。確かに俺と景を招待するという目的は完了したが、まさかトークルームからいなくなるのは想定外である。
……いや、違うなこれは。平泉先輩なりに気を利かせてくれたのだろう。俺と景が水入らずで会話が出来るように。
折角の配慮を無駄にするわけにはいかない。とりあえず改めて、まずは無難に挨拶を送ろうとスマホの画面をフリック操作して文字を入力する。
『改めて、久しぶり』
打ち込んだ文字の横にすぐ既読と表示される。
『久しぶり』
数秒遅れて、景から返事がくる。
さて、ここからだ。平泉先輩のおかげで場は整ったが、突然心に土足で踏み入るような行為はダメだ。距離を測る必要がある。
種はまだ埋まったままだ。芽吹かせるのには、時間がかかる。
さっき景が自ら言っていた【薄緑】の件を話題にしようと思い、文字を入力している最中だった。
『湊本君』
呼び掛ける短文と、入力中の文字が表示される。景の顔が見えずとも、悩んで戸惑っているのが手に取るようにわかった。
俺は入力中の文字をすべて消して、『なんだ?』とだけ返した。
俺の書き込みはすぐに既読になる。そして入力中の文字だけが、消えずに表示されていた。
しばらく待ち続けるが変化はない。それでも俺は急かす事なく、待つ事を選ぶ。
俺は何も言わずに景を含めた道場の仲間の前から消えたのだ。帰って来ないのかと、待たせてしまった。だからこれくらい、待てなくてどうする。
それから景の応答を待ち続けて数分。入力中の文字がついに消え、通知音と共にメッセージが浮かび上がった。
『文字だと話しにくいから、直接、話がしたい』
俺が埋めた種ではない芽が、土を掻いて現れる。




