世界は繋がる
「特に教えられるような事はない。ただ見様見真似で二刀を操っているだけで、これといって特別な事はしていないから」
目を逸らすことなく、蔵景は淡々と事実を伝える。嘘偽りのない、明確な拒絶の意思表示。当然だ、さっきの勢いでそう簡単に撒いた種が芽吹くわけがない。
「……でも、それ以外の事なら教えられる。例えば、【薄緑】の他の使い方とか」
しかし予想に反して、蔵景の言葉は続く。
簡単に撒いた種が芽吹くわけがないと、勝手に俺は思い込んでいた。
蔵景の視線はズレている。俺の顔を見ていない。蔵景の目線は、自身の足元へと向けられていた。
景が嘘をつく時は、視線が合わない。
だからこれは嘘だ。だが、どんな嘘なのかまでは判断がつかない。
本心を隠す為についた嘘がどれを指すのかを、問い質す事は出来やしない。今の俺に出来る事は、この提案に乗る事だけだった。
「ああ、それでも全然構わない。頼めるか?」
蔵景を見つめながら確認を取る。伏し目がちな視線は俺の問い掛けに応じるように上を向いて、目と目が交錯する。
「…………わかった」
奮い立たせるような、振り絞るように紡がれた短い返事。それを聞き届けたカルムはパンっと軽く両手を叩いた。
「よぉし!それじゃあ蔵景ちゃんの了承を得たから一旦ブレイクタイムでログアウトだね!ログアウトしたら私がトークルームを作って二人を招待するから、またそこで再会ね!お先ッ!」
即断即決。カルムはメニュー画面を操作すると、一瞬にしてその姿がまるで蜃気楼のように揺らめいて消えた。
残された蔵景と顔を見合わせ、頷く。互いにメニュー画面を操作して、俺の意識は仮想空間から現実世界へと引き戻される。
暗転から復帰した俺はヘッドセットを外す。少し凝りを感じる身体をほぐそうとベッドから上体を起こし、床に足をついて立ち上がろうとした瞬間、違和感。
いや、正確に言えば違和感ではない。アキレス腱が断裂した以降の俺は、これが普通。普通になってしまったんだ。
立ち上がりの歩き始めがこわばる。足首を曲げたり伸ばすと突っ張る。酷い時には痛みを感じる。今夜の調子は悪くない。突っ張るような感覚はあるが、痛みはない。
それがどうだ。ゲームの中で激しく動いても、アキレス腱付近には何の違和感も痛みすら、感じなかった。
錆びついた身体でも、ちゃんと動きを覚えていた。色褪せたはずの日々の先でも、あの頃の身体の感触が残っていた。
足を動かす事への恐怖が薄れた。剣を再び振るえた事実に、気持ちが昂ぶって熱を帯びた。仮想空間であっても、身体は動きを覚えていた事に心が震えた。
途絶えたと思って塞ぎ込んでいた道は、まだ続いていたと気付けた。歩き続けてもいいのだと、言われた気がした。
――直後、スマホが短く振動する。浮かれた意識が現実に引き戻される。それは、先輩からの招待通知であった。




