心の剣
「荊棘黃童子のプライド的にも、朱天童子の性格的にも連携しないとみてよさそうだ。とはいえ、依然として脅威なのには変わりない。顔もばっちし覚えられてるからヘイトもすぐ向くだろうし、困ったねぇ」
そう言って肩をすくめたのは琥二郎だった。
「今回は他のプレイヤーの介入がなかったけれど、次はそれも頭に入れて動かないといけない」
蔵景が短く補足する。
「あー、そっか。漁夫の利狙いもあるもんね」
「漁夫の利?」
「そっかトミナ君は馴染みがないよね。えっと、経験値が美味しいって話はしたよね?」
「はい」
「それが理由で『六厄災』とのレイド戦は経験値目当ての初心者がかなり多いんだけど、その初心者を狩ろうとするプレイヤーも結構参加するの。だから他のプレイヤーからの攻撃も気を配らないといけなくて」
カルムの説明に、俺は頷く。
俺が狂都に到着した直後に初心者狩りしてきたアーチェみたいなのが出没するって事か。『六厄災』と遭遇して経験値稼いで、ついでに動きの鈍い初心者を刈って稼ぐ魂胆。経験値稼ぎのコスパはいいのだろうが、少しモヤモヤする。
「オジサンや蔵景ちゃんにケンカを売るタイプはそうそういないとは思うけど、トミナ少年は持ってる武器がねぇ。始めたばかりで知名度はないし、【同田貫正国】は目立つし格好の的だよ。悪目立ちの要因だ」
琥二郎の視線が腰の【同田貫正国】に向けられる。琥二郎の言う通り、始めたばかりのプレイヤーが所有するには不釣り合いな装備だ。蔵景の前は上位ランカーの人が所有してたみたいだし、蔵景から押し付けられた武器だが、俺が持つには実績が足りない。名刀を名無しの浪人が差しているようなものだ。
「まあ逆に言えば、名を挙げるチャンスでもあるのさ。『誰だアイツ?』と、注目を集めている状態で、大立ち回りを演じる事が出来れば否が応でも称賛される。ま、トミナ少年が称賛を望んでいるかどうかは、オジサン知らないけどね」
琥二郎はさらに言葉を紡ぐ。両肩をすくめてみせて少しおどけたような顔をみせる。望み、俺の望みか。
――ここで俺は、何がしたいのか。
このゲームは先輩に手伝うように頼まれて始めた。それと同時に、景の事も気がかりだったし、現実とは異なるが再び剣を握れるという気持ちの昂りもあった。
先輩の依頼に応えようとする責任感。理由を聞けなかった景への引っ掛かり。怪我で断念した剣の道に再び戻れた高揚感。ゴチャゴチャだ。頭と心の中は嵐のように渦巻いている。
こんな迷いを抱えた状態で剣を握ろうものなら、昔の俺なら師範に酷い叱責を受けていただろう。剣の乱れは心の乱れ。明鏡止水にはほど遠い、乱れた波紋が剣を鈍らせ続けている。
胸の内から熱を感じている。だがそれに蓋をするように、纏わりついた錆が伝達の邪魔をする。
「んー、難しい顔してるねぇ。トミナ少年」
「……え?あ、ハイ」
思考の渦に飲まれていた所に、琥二郎が問い掛けて意識を引き上げられる。反応が少し遅れる。
「オジサンはエスパーじゃないからトミナ少年が何に悩んでいるのかはサッパリわからない。ただね、少年少女ってのは、心の赴くままに突き進まないと。モラトリアムの特権、使わなきゃ損だよ」
琥二郎は椅子からすっと立ち上がった。
「確かにさっき、オジサンは考えろとはいったけど、長考するならそれは思考停止と同じさ。それを履き違えちゃあいけない。その選択が間違っていてもいいんだ。何度でも正解と思えるモノを選び続けられる意思さえあれば、いずれ在るべき答えに辿り着くんだから」
琥二郎は俺の正面に立ち、ゆっくりと見下ろす。
「あまりにも間違っているならアーチェちゃんみたいに口を挟むけど、トミナ少年はそもそもまだ内に抱えたままな気がしてね。心を落ち着かせて綺麗な1本を打ち込もうとするよりも、我武者羅に打ち込み続けるのも悪くないんじゃないかい?」




