稀代の天才陰陽師、阿倍乃星鳴登場
弓を抱え矢筒を背負った小柄な少女、俺よりも背が高く2m近くありそうなスキンヘッドで槍を担いだ大男。身長は俺と同じくらいだが横にゴツくどこか熊のような印象を受ける茶髪の男。うん?何も装備してないけど素手なのだろうか。
場所は相撲の稽古小屋のような場所だが土俵はなく、ただ焦げた茶色の土が敷き詰められている。足は裸足であり、どういう原理か土特有のひんやりとした感覚が足裏から伝わってくる。――と、違和感。
「揃ったようじゃの」
突然地面から少女の声と共に這い出てきたそれは、ピクトグラムのような形状をした白い紙であった。紙はそのまま急速に膨張すると、人間そっくりに変化して先程消えた少女と瓜二つの顔を持つ存在へと変貌してみせた。
紙から現れた少女は先程の少女と顔は同じではあるが、髪は後ろで一房にまとめ上げられ、纏った衣服は白衣の上着に緋色の袴のいわゆる巫女服であった。
「おわっ!?」
「きゃあっ!?」
鮮やかな手品でも見せられたプレイヤー達はそれぞれ驚きの声を上げる。
大袈裟なリアクションを取らなかったのは俺と熊のような男の二人。立ち姿が一般人のそれじゃないな。空手か柔道か、おそらく武道を学んでいる。
熊っぽいから柔道家かなぁ、という根拠のない推測をしていると、男は突然地面を踏み鳴らして咆哮するかのように天を仰ぎ
「――星鳴様!!!!!」
めちゃくちゃ野太い声で叫んだ。
「ひぃ!?」
弓を抱えた少女がガチめの悲鳴を上げる。そしてすぐに信じられないモノをみたかのような軽蔑の眼差しが熊男に注がれるが、熊男はそんな視線など気にも留めずに巫女服の少女へと駆け寄り、流れるような所作で両手両膝をつきながら顔を上げた。
「いけません麗しき星鳴様!お御足が汚れてしまいます!どうかワタクシめの背にお掛けくだされ!!」
「なんじゃそなたは気色悪い。妾は星鳴ではあるがそなたらが先刻顔見知りた者とは別人じゃ。差異もわからぬ大うつけめ」
ふくれっ面を浮かべた星鳴と呼ばれた少女は右手で左袖の中に手を入れ、長方形で謎の文字が書かれた赤い紙を取り出して熊男の顔にぺたりと張り付ける。
「むっ!!か、身体が動かない!!?」
熊男の四肢は硬直し、全身からは怪しげな赤黒いオーラが漂っていた。どうやらあの御札は対象の動きを封じる効果があるらしい。
「丁度よい。そなた、妾が的を用意してやった、射抜くがよい」
「……へ?わ、私ですか!?」
突然指名された弓の少女は状況を飲み込めず困惑する。まあいきなり人を射抜けと命じられて二つ返事で引き受けるのは難しいだろう。
「そこの男共でも構わぬ。これより行うのは魂の研鑽の初歩、手解きじゃ」
「アンタの喋り方、まどろっこしくてなんだかよくわかんねぇけど、要するにチュートリアルおっぱじめるってことかよ?」
スキンヘッドを撫で回しながら若干苛立ったような雰囲気を漂わせた男が言葉を投げかける。すると星鳴は顎に手を当てて考え込むような所作を取ると、わずかに小首を傾げた。
「ふむ?聞いてわからぬなら見てわからせるとするかのう。百聞は一見に如かず、じゃ。さて、沈黙を貫いておるそなた、特別に褒美をとらす。刀を鞘から抜くがよい」
うーん、ただ観察していただけなんだけど、なんか評価されているなら大人しく受け取っておこう。俺はコクリと頷いて言われるがまま、鞘から刀を引き抜いた。
そして不意に視線を刀に落とすと、小学生の頃に博物館で展示されている刀を見た記憶が蘇る。刀剣の名は忘れてしまったが、国宝に指定される日本刀に引けを取らない美しい波紋が刀身に宿っている。
「その刀でこの男の首を落としてみせよ。そなたらは遍く首が急所である。致魂の一撃を与えたいのであれば、迷うことなく首を狙うのじゃ」
両目を細め、射抜くような鋭い眼光と共に指示を出す星鳴。うーん、正直めちゃくちゃ心苦しい。動けない相手の首を叩き切るとかまるで罪人の介錯人じゃないか。
「ちょ、ちょっと待ってください!このゲームってそんな物騒なんですか!?私はただ朱天童子様と荊棘黄童子様をスクショじゃなくて直接見る為に始めただけなんですけど!?」
突如、表情を大きく変える事もなく淡々と説明する星鳴に対して弓の少女が声を荒げて割り込んだ。あ、なんだこの人、先輩と同じ目的なのか。
「なんじゃそなた。喧しく小鳥のように囀りおって。闘争だけが魂を研磨する唯一無二の方法じゃというのに。……やれやれ興醒めじゃ。よかろう、闘志なき者は疾く失せい。逃げ口はあちらじゃ」
星鳴が指した方角には小さな赤い鳥居が立っていた。鳥居の中心は蒼白い炎が揺らめいており、この世ならざる雰囲気を漂わせている。
「え、なんか燃えてる?」
「狂都へと繋がる黄泉路の焔じゃ。生者であれば大火傷じゃが、いまのそなたらは魂だけの存在。何も問題なく通り抜けられる。ほれ、疾く征け。そして早々に後悔するがよい。妾の手解きを拒絶した事をな」
今度は左手で右側の袖の中に手を入れて長方形の青い紙を取り出した星鳴は、弓の少女の脚めがけて紙を投げると青紙はぺたりと張り付いた。
「きゃあっ!?か、身体が勝手に!?やだナニコレナニコレ!?」
困惑する上半身とは裏腹に、単独で精密機械のように迷いなく動き出した両足はそのまま鳥居へと向かうと、彼女の身体はまるで溶けるようにスゥっと消えていった。
「なんだよチュートリアルスキップ出来るのかよ。んじゃオレもスキップさせてもらうぜ。操作方法ならとっくに頭に入ってるからな」
続くようにスキンヘッドの男も炎の中へと消え、残されたのは俺と熊男。
「…………」
「…………」
「…………ふむ」
そしてしばし訪れる沈黙。それを破ったのは四つん這いになった熊男であった。




