さぁ魂の錬磨をはじめよう
「差し出がましい発言をお許しくだされ星鳴様!拘束が解けたのですが、もう動いてもよろしいでしょうか!?」
「なんじゃと?低級の符を使ったとはいえ、妾の拘束がそんな簡単に――……ああなんじゃ、そなた加護持ちじゃったか。よかろう、好きにせい」
熊男は深々と頭を下げると、四肢を凝縮するように沈み込んだ次の瞬間、虎のように跳ね上がった。
「……森の獣にでも育てられたのかのぅ。まあよい、それではそなたら、どちらか事切れるまで死合うがよい。制限時間は四半刻じゃ」
星鳴がパンと両手を叩くと、視界の左隅に緑のゲージと白いゲージが浮かび上がった。
視線を改めて熊男に向けると、相手も確認を終えた所だったのか互いの目線が交錯する。
刹那、形容しがたい悪寒に襲われた俺は、背筋を伸ばして中段の構えを選択する。
「……ほう? 剣道の心得があるとお見受けする。ワタシはオクマである」
「トミナです。昔取った杵柄程度ですよ」
「よし、ではトミナ少年!どこからでもかかってくるがいい!!」
オクマは膝を深く曲げ、両手を大きく広げた。あまりにも前傾姿勢。柔道ではない。プロレスか、総合格闘技か。
「双方、準備はよいな?決着がつかぬ場合は妾がどちらも仕留める。精々妾の手を煩わせぬことじゃ」
パンっと小気味よい柏手が鳴ると同時に、眼前のオクマの姿が消える。
いや――より深く、地面スレスレを這うように鋭い突進がこちらへと迫る。
「ハァ!!」
半歩下がった俺は迎え入れるような形で刀を振り下ろすが、あっさりと交わされる。
こちらの利は刀を所持する事によるリーチの差だが、組まれるのだけは絶対に回避しなければならない。
しかし、である。低姿勢で狙える部位が頭と手しかなく、叩き切ろうにも上段から振り下ろすまでの時間があれば、あの高速タックルであっさりと捕まってしまうであろう。
そうなると俺が取れる選択肢は必然的に応じ技や出鼻技となる。下段はあまり得意ではなかったが仕方ない。
「む」
オクマの眉間にシワが寄るのを観察しつつ、俺は刀の切先を自分の膝の高さくらいまで下げる。現代剣道において終始この構えで戦う者はほとんどいない下段の構え。
剣先を鋭く突き立てながらジリジリとすり足で近づいていくと、オクマは反発する磁石のようにジワジワと後退していく。いくらゲームとはいえ、刃物が眼前に向けられる恐怖は相当のモノだろう。
擦り寄り続けた結果、オクマは壁際まで追い込まれる。追い込んだ。しかし勝負はここから。
右か、左か。これ以上後退出来ないのであれば取れる選択肢は左右の二択。面抜き胴のように俺の左下に入り込むか、面抜き逆胴で右下に潜り込むか。




