目覚めの時、来たれり
【ゲーム説明】
大乱世モノノフサバイバー通称『モノサバ』。京の都を再現した「狂都」と呼ばれる箱庭型のマップで繰り広げられるVR型バトルロイヤルゲーム。
ステータスは体力(HP)スタミナ(ST)攻撃力(ATK)敏捷(AGI)耐久力(DEF)の5種類。
体力は0になると戦闘不能となり、10分間のデスペナルティで全ステータスが低下し、マップ中央に位置する『神社』の参集殿と呼ばれる場所にリスポーンする。
『神社』内、及び『神社』外へ出た1分間の間の戦闘行為は禁止されている。この禁止事項を破った場合、理不尽な性能の特殊NPCが出現して対象プレイヤーへと襲い掛かる。
スタミナはダッシュや連続攻撃時に減少し、停止すると一定速度で回復する。一部スキルを発動する際にも消費する。0になると10秒行動不能となる。
ファミレスから帰宅し風呂や食事諸々を済ませて自室に戻った俺は、平泉先輩から貰ったDLカードで早速『モノサバ』をインストールする。それからほどなくしてDLが完了したのでヘッドセット型の端末を被ってベッドに寝転がった。
現在時刻は17時。軽く調べたらチュートリアルは30分前後で終わるそうなので、少し早いがまあ遅れるよりはいいだろうと行動を開始する。
ゲームが自動で起動するとヘッドセットの下部からなにやら緑の光線が首から下に向かって照射されていくのヘッドセットの隙間から捉えたのだが、その動きを最後まで追うよりも先に意識が仮想世界に接続される。
壮大なBGMとハイクオリティの映像が流れ始めるがスキップ。『大乱世モノノフサバイバー』のロゴが堂々と主張されると、数秒遅れてその下部には『あたらしくはじめる』と表示されたので選択すると、視界が暗転し始めた。
「――そなたの魂の名はなんというのじゃ?」
そして『モノサバ』にログインした俺の眼前に立っていたのは、真っ白でまっさらな地面に触れそうな程に長く伸びた黒髪の少女であった。
全身も同様に黒く統一感のある和風の衣装を身に纏い、どこか浮世離れした雰囲気を漂わせている。銀河を凝縮したような輝く瞳の持ち主は目を細め、じっと俺を注視している。
すると、俺と少女の間に割って入るように、半透明のウインドウが表示された。
『プレイヤーネームを入力してください』
その指示に従い、俺は予め決めていた名前を入力した。ネーミングセンスは生憎持ち合わせていないので、安直に名字をもじった名を入力して確定を押す。
「すまぬな、その名はすでに刻まれておる。判別に支障が出る故、別の名にしてもらえぬか?」
どうやら安直すぎて他のプレイヤーネームと被ってしまったらしい。さてどうしたものかと眠ったネーミングセンスを覚醒させるべくウンウン唸りを上げていると、見かねたのか少女はゆっくりと口を開いて言葉を紡ぐ。
「そうじゃな……『トミナ』はどうじゃろうか?」
自動で『トミナ』と訂正されたので、とくに悩む事もなく入力画面の確定を押す。
「1度刻んだ名は改められぬが、問題ないかのう?」
再確認のウインドウが出たが構わずに確定を押すと、眼の前が一瞬パァッと発光した直後どこからかシャラランという鈴の音が鳴った。
「うむ、ではトミナよ。次はそなたの魂の輪郭を浮き彫りにする。魂の赴くまま、示すがよい」
すると今度は現実の俺とそっくりな体型でボロボロの剣道着のような紺色の衣服を纏った男がウインドウに映し出された。男の横には『身長181cm』『性別:男』と表示されている。
そういえばゲームを始める前に被ったVRヘッドセットが首から下をスキャンしていたっけ。顔だけはこのゲームの初期プリセットらしき顔に変わっていた。プライバシー対策だろうか?
画面を操作すると身長の変動と性別の変更や手の大きさ、脚の長さ、大きさなど全身細かく調整出来るみたいだ。だがこだわってしまったら平泉先輩を待たせしまうので、あまり時間をかけている余裕はないしデフォルトのままでいいだろう。確定、と。
「これがトミナの魂の輪郭じゃな?」
再度確認画面が出たので確定を押す。すると再び発光したのちに鈴の音が鳴り響くと、俺はいつの間にか先程まで画面に表示されていた男と同じ姿になっていた。念じるように右手をグッパッと動かすと、現実となんら変わりなく動く。
恐る恐る思いっきり左足で地面を蹴ると、想定外の推進力を得た全身がバランスを崩して前のめりに飛び出した。
「おわっ!?」
慌てて右足を前に出してなんとか体勢を立て直す。
「……突然なにをしておる?」
「あー、いや、その、スンマセン!」
ギリギリで静止出来たものの、あやうくボディプレスを仕掛ける所だったのを怪訝そうな目の少女に咎められ、ペコペコと平謝りを返す。
踏み留めた力が瞬く間に爆発して、全身が重力に抗い突き進む。久しく忘れていた感覚。文字通り壊れるまで、千切れるまで繰り返した所作。
他人からすれば片足の跳躍で転倒しそうになっただけである。しかし俺にとっては、全身の錆を削ぎ落としていくような感覚が駆け巡っていた。
「まあよい。然らばトミナよ、そなたに餞別じゃ。刀、槍、弓。好きな得物を選ぶがよい。得物を好まず徒手空拳を望むのであれば、心許りの加護を授けてやろう」
パチンっと少女が小さな手で指を鳴らすと、虚空から三種類の武器が出現する。俺は迷うことなくノータイムで宙に浮かぶ黒鞘に収められた刀を掴んだ。
「これで!」
「ふむ、それにするのじゃな。重畳重畳。――――では征くがよいトミナよ。魂の研鑽、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
そう厳かに告げた少女が柏手を打ち鳴らすと真っ白な地面が突然光り輝き始め、俺の全身を包み込むのだった。




