稀代の天才陰陽師、阿倍乃星鳴登場
俺の意識が次の場所に転移した。相撲の稽古小屋のような空間。土俵はなく、焦げた茶色の土が敷き詰められているだけだ。
そこにはすでに三人のプレイヤーが立っていた。
弓を抱えた小柄な少女、2m近いスキンヘッドの槍使い、熊のような印象を受ける茶髪の男。
「揃ったようじゃの」
突然地面から少女の声と共に這い出てきた紙は急激に膨張する。次の瞬間、先程の少女と瓜二つの顔を持つ巫女服の少女へと変貌してみせた。
「おわっ!?」
「きゃあっ!?」
弓の少女と槍使いの男が悲鳴を上げる。
俺と熊のような男は同様しなかった。立ち姿が違うな、おそらく武道をやっている。
熊っぽいから柔道家だろうか、という根拠のない推測をしていると、男は突然地面を踏み鳴らして咆哮した。
「――星鳴様!!!!!」
「ひぃ!?」
弓を抱えた少女が飛び上がる。熊男は流れるような所作で両手両膝をつき、顔を上げた。
「いけません麗しき星鳴様!お御足が汚れてしまいます!どうかワタクシめの背にお掛けくだされ!!」
「なんじゃそなたは気色悪い。妾は星鳴ではあるがそなたらが先刻顔見知りた者とは別人じゃ。差異もわからぬ大うつけめ」
星鳴と呼ばれた少女は赤い紙を取り出し、熊男の顔にぺたりと張り付ける。
「むっ!!か、身体が動かない!!?」
四肢が硬直し、全身からは怪しげな赤黒いオーラが立ち上る。
「丁度よい。そなた、妾が的を用意してやった、射抜くがよい」
「……へ?わ、私ですか!?」
「そこの男共でも構わぬ。これより行うのは魂の研鑽の初歩、手解きじゃ」
「アンタの喋り方、まどろっこしくてなんだかよくわかんねぇけど、要するにチュートリアルおっぱじめるってことかよ?」
スキンヘッドの男が苛立った声を上げると、星鳴は小首を傾げた。
「ふむ?聞いてわからぬなら百聞は一見に如かず、じゃ。さて、沈黙を貫いておるそなた、刀を鞘から抜くがよい」
俺は星鳴の指示に従い、刀を抜いた。
「そなたらは遍く首が急所である。致魂の一撃を与えたいのであれば、迷うことなく首を狙うのじゃ」
「ちょ、ちょっと待ってください!このゲームってそんな物騒なんですか!?」
突如、弓の少女が声を荒げて割り込む。
「なんじゃそなた。喧しく小鳥のように囀りおって。……やれやれ興醒めじゃ、闘志なき者は疾く失せい」
星鳴が指した方角には小さな赤い鳥居が立っていた。中心は蒼白い炎が揺らめいている。
「狂都へと繋がる黄泉路の焔じゃ。ほれ、疾く征け。そして早々に後悔するがよい。妾の手解きを拒絶した事をな」
今度は青い紙を取り出した星鳴は、弓の少女の脚めがけて紙を投げると青紙はぺたりと張り付いた。
「きゃあっ!?か、身体が勝手に!?やだナニコレ!?」
弓の少女の両足が勝手に動き出し、鳥居の炎に溶けて消えていく。
「なんだよチュートリアルスキップ出来るのかよ。んじゃオレもスキップさせてもらうぜ」
続くようにスキンヘッドの男も炎へ飛び込んだ。残されたのは俺と、まだ拘束されたままの熊男。
そして訪れる沈黙。それを破ったのは熊男であった。




