伝播する熱
パキパキと音を立てて漆黒の外壁が崩れていく。二人を覆っていた殻が完全に砕け散る。
破壊された暗幕の中心には変わらず二人の少女。そして地面には彼女らが握り締めた刀と腕が転がっていた。
「……ああもうっ!派手に大見得を切ったのに、これじゃあ格好がつかないじゃない!」
右肩口から青白い光を零しながら、足利照々は悔しそうな声をあげて天を仰いだ。対峙していた蔵景は、鏡合わせのように左肩口から青白い光を散らしている。そして蔵景の右手には、二振りの内の1本が刃毀れしながらも力強く握られていた。
あの半球の中で何が起きたのかは定かではないが、この光景だけ見ればなんらかの方法で蔵景は痛み分けに持ち込んだらしい。
ギャラリーのボルテージが最高潮まで跳ね上がる。悲鳴にも似た絶賛の声がそこかしこから沸き起こる。耳を覆いたくなるほどの感激の洪水は留まる事を知らず、口笛の音や拍手喝采まで聞こえてくる始末。
歓喜の坩堝の真っ只中にいる二人。しかしその表情は対照的であった。眉間にシワを寄せ、唇はきつく一文字に結ばれ、顔全体から悔しさが滲み出ている足利照々。
一方で、相変わらず感情の起伏が乏しい表情だが、どこか満たされたような、ほんの僅かに口角を上げて微笑みを湛える蔵景。
平泉先輩に見せてもらったスマホの画面に表示されていた、精巧な人形のような冷淡な表情の少女はそこにはいなかった。
――熱を感じる。憧れに手を伸ばして届かせてみせた戦友から溢れた熱が、身体の外側から伝播して心の内へと浸透していくのを。
「蔵景、最高よあなた!!油断したつもりはなかったけど、躱せなかった!!あなた、わたしを知っているわね!?」
「……はい。よく知っています」
「紙一重になる理由が腑に落ちたわ。的確に嫌な攻撃を繰り出して、いやらしい子ねあなた!!」
「……、褒め言葉として受け取っておきます」
「褒めてるのよ!大・絶・賛ッ!!花丸満点ッッッ!!」
足利照々は残った左手で渾身のサムズアップを蔵景に贈ると、ギャラリーは限界突破して歓喜の波は防波堤を越えた。憧れの存在から称賛を受け取った蔵景は僅かに俯きながら口元を緩ませる。ああ、そりゃ嬉しいよな。
「三英傑の1人からお墨付きもらっちまったよ蔵景ちゃん!!スゲェな新時代の到来だ!!」
「上位ランカーの勢力図、変わっちまうんじゃねぇか!?」
興奮冷めやらぬといった具合に、盛り上がり続けるギャラリーは留まる事を知らない。少しヒートアップしすぎている。そんな気配を感じ取った直後の事であった。
「……もう我慢出来ねぇ!!片腕の上位ランカーならオレでも仕留められるぜ!!」
俺が居る後方からどこか様子のおかしいプレイヤーが、そんな言葉と共にギャラリーを割って這い出てきた。
苛烈な剣戟の応酬を披露してみせた二人なら遅れを取る事はないだろうが、絶対ではない。万が一があってはいけないし、何より二人の真剣勝負に水を差す行為に俺は強い憤りを感じていた。
俺は即座に刀を抜いて上段に構え、飛び出していく男の背を目掛けて大地を力強く踏み抜いた。この世界なら二度と壊れる事のない両脚が、推進力を得て身体を前へと突き動かす。
「その刀!よ――」
「――――『雲耀』!」
「――ごッッッッッ!!!?」
絶対に仕留め損なってはいけないと判断し、スキルを使用して完膚なきまで叩きのめす勢いで渾身の一太刀を男の首に浴びせる。振り抜いた刀はそのまま止まる事無く一刀両断し、男の身体は真っ二つに裂けた後、汚い花火を弾かせて消えた。
「キャァ!?」
「なんだぁ!!?」
「どこかの馬鹿が横槍いれようとしやがった!とっちめたのは……アイツか!!」
「…………は?なんでアイツ剛兎さんの【同田貫正国】持ってんの?」
「ばっかお前、剛兎さんの【同田貫正国】はこの前蔵景ちゃんに負けて奪われた……アレ?」
「そういえ蔵景ちゃん、【同田貫正国】使ってなくね?」
「言われてみれば。【加州清光】と【大和守安定】だな」
「じゃあアイツ誰だ?」
周囲を取り囲んでいたプレイヤーの視線が一斉にこちらを向く。しまった、派手にやりすぎたか。熱くなると周りが見えなくなる悪いクセが出てしまった。疑惑、疑念、疑心、様々な疑いの視線が注がれる。
堪らず一歩後退りすると、取り囲まれたギャラリーの向こう側から飄々とした声が、俺の耳に届いた。




