無限乱刀流
「いいわ!ならこれはどうかしら!!」
足利照々は後方に大きく下がると空いた手でウインドウを表示し、何やら操作してみせる。画面を見てすらおらず、指先だけが寸分の狂いもなく動いていた。
「――『霹靂雷轟』!!」
気迫の込められた声で足利照々がスキル名を叫ぶと、彼女の心臓辺りから紫電が飛び出した。
それは瞬く間に四肢を駆け巡り、全身を覆い尽くす。実際に帯電しているのか、足利照々の全身からはバチバチという弾けるような音が鳴り、髪は重力に抗うかのように浮遊しはじめる。
「受け止められたら花丸あげるわ!!」
低く、深く、這うかの如く、足利照々はまるで今から川辺で水切りでもするかのような低姿勢で、刀を掴んだ右手を後方へと伸ばしている。
投擲?下手投げ?理解の及ばない構えに注視していると、足利照々の口元が僅かに動いた刹那、大地を稲妻が駆けた。
目が眩む程の雷光が蔵景へと迫る。直視するのも視界に捉えるのも困難な一撃が蔵景とぶつかると、音が爆ぜた。衝撃で砂埃が巻き上がり、周囲のプレイヤーから悲鳴や歓声が沸き起こる。
「やったか!?」
「最上位ランカーこっわ」
電光石火、疾風迅雷の一撃で勝敗は呆気なく決まった。周囲の誰もがそう思っていた。
しかし、砂埃の中心からは紫電が鳴く音とは別に、鍔鳴りの音を俺は確かに聞いた。
「……驚いたわ。まさかわたしの一撃を受け止めるなんて。あなた、花丸満点よ」
「それに似た攻撃ならさっき見たわ。連続でやられるわけには、いかない」
一刀だけでは防ぎきれないと判断したのか、蔵景は二本の刀を交差させて、足利照々渾身の一撃を受け止めていた。しかし防御は出来ていても膂力の差によるものか、上からの圧に押されて片膝を完全に膝をついてしまっていた。
「『縮地』」
「っ!」
蔵景がスキルを発動すると、押し込まれていた身体が推進力を得て足利照々を跳ね返す。そこから畳み掛けるようにニ刀を器用に操り、淀みのない連撃で攻め立てる。
「……ッ!」
だが、蔵景の顔が歪む。当たらない。とにかく当たらない。休む暇なく蔵景は攻め立てるが、足利照々は片手で握った刀で受け流し、紙一重で回避する。まるで流麗な舞踊でも演じているかのようだ。蔵景は洗練された動きに翻弄されてしまっている。
攻撃を見極める動体視力、迫る攻撃を見てから反応が間に合う反射神経が合わさっているのか、ただの一撃も肉体に届かない。
避け続ける足利照々は地面に突き刺した刀を横目で見ると、突然大振りで蔵景を押し返す。膂力に負けて蔵景の全身が僅かに浮かぶのと同時に、足利照々は刀を手放した。
そしてすぐさま別の刀を握ると、また左手でウインドウをブラインドで操作してみせる。
「――――『鴉暈』」
足利照々が囁くように告げると、刀から漆黒の影が半円状に飛び出して二人を覆い尽くした。周囲を取り囲むプレイヤー達と隔絶して切り離される。
蠢く影のような見た目の籠は中の様子を外に漏らさない。完全に遮断されているようだった。
「あ、終わった」
「ここから返せるのは三英傑の残りの二人くらいだろ」
展開された漆黒のドームを見たプレイヤー達は、口を揃えて決着を予感する。
音も遮断されているのか、先程まで鳴っていた雷音はピタリと止み、ギャラリーの声だけが反響していた。
――それから程なくして、突如、半球に亀裂が走った。




