剣乱豪華
「足利照々と蔵景の対決とか見逃し厳禁だろこんなん」
「……しれっと紛れて見物人を斬ってスコア稼ぐのありかな?」
「ばっかお前、城下町エリア以外でそんなコスい真似したら袋叩きにされるぞ。『見廻組』だっているのに」
移動する二人の後ろ姿を追うように、周囲のプレイヤーの波も連動して移動する。まるで大名行列のようにゾロゾロと引き連れて先を行く足利照々は、少し開けた通りの中央で立ち止まり振り返った。
「随分とギャラリーが出来てしまったわね。――先に言っておくけど、戦闘に巻き込まれても文句は受け付けないわよ!!それでも構わない者だけ残りなさい!!」
よく通る声で周囲のプレイヤーに一喝するも、その場から離れようとするプレイヤーは1人もいなかった。
ギャラリーの中には、星鳴が使用していた長方形の札のようなモノを、顔の前に掲げているプレイヤーが数人見受けられた。そういえば先輩がスクショがどうのこうのと言っていたな、アレはスクショや動画を撮る為のアイテムなのだろう。
「こんな好カード見逃せるかよー!!」
「巻き込まれそうになったら倒してしまっても構わないんだろうなー!?」
「面白い啖呵ね、誰かしらいま発言したの!出てきていいわよ!?なんなら全員まとめてかかってきてもいいわ!!返り討ちにしてあげる!!」
売り言葉に買い言葉で足利照々は返すも、周囲のプレイヤーは尻込みして萎縮してしまう。そんなにか。袋叩きにしても倒せないレベルの強さという事なのか。
「て、照ちゃん本気!?このあとレイド戦があるから、蔵景ちゃんを削ってほしくないんだけど!?」
「あら、わたしが負けるとは思っていないのね?」
「いや、照ちゃんが負けるかもだけど!出来れば穏便に済ませてほしかったというか……!」
「それは無理な注文ね。お互い譲れないなら、あとは物理で従わせるのがここの流儀よ。カルム、【菊一文字則宗】は一時的にあなたへ預けるわ」
「わわっ!?」
放り投げられた刀を慌てながらカルムは抱き留める。それを一瞥した足利照々は直後、右手を天に掲げる。
「――――さぁ!どこからでもかかって来なさい!!」
裂帛の声に応じて虚空から刀が1本、2本、3本と次々に取り出しては地面に突き刺していく。足利照々を中心として半円を描くように地面を穿ってそびえ立った刀剣達は総数6本。いずれも見目麗しき装飾が施されていた。
絢爛豪華ならぬ剣乱豪華とでも呼ぶべきか。足利照々は腰に差した刀ではなく、鞘ごと大地へ突き刺さった刀の1本をすらりと抜き取り、水平に構える。その光景に群衆が沸き立つ。対する蔵景は腰に差した二振りの内、一振りの鯉口を切る。
抜き足差し足忍び足。騒ぎ立てるギャラリーとは対照的に静かな闘気を携えて蔵景は距離を詰めていく。そしてその距離が互いの間合いに入った刹那、火花が散る。
「――ッ!」
「――はぁっ!!」
連続で打ち続けられる白銀の閃撃が、互いの急所を一呼吸を入れる暇すらなく攻め立てる。目で追うのも一苦労な連撃が止むこともなく繰り出され続ける。
「うおおおお!!」
「見えん!何が起きてるのかさっぱりなんだが!?」
色めき立つ群衆の声を置き去りに、一進一退の攻防は継続する。蔵景の剣速が徐々に加速していく。先ほど俺と戦った時よりも速い。あれが蔵景の本気なのか、それとも足利照々の強さに引っ張られているのか。速度を増していく剣戟の拮抗、破ったのは足利照々の横薙ぎ。
「ッ!」
勢いに押されて後方に下がる蔵景。だがすぐに身体全体を深く沈み込ませると、刀を鞘に収めて後ろ足を大きく伸ばす。
「――――『縮地』」
爆発的な初速の踏み込みで蔵景の姿が消える。消失した身体は瞬く間に足利照々の眼前に出現し、天を穿つ抜刀を繰り出した。足利照々はそれを迎え撃つように渾身の力で振り下ろし迎え撃つ。耳を劈くような金属の衝突音が炸裂した。
「――ッ!やるわね!!」
衝突は速度を力に変換した蔵景の一撃が競り勝ち、喜色満面の笑みを浮かべる足利照々の手から刀が弾かれ宙を舞う。仰け反るような姿勢になった足利照々は、後方に流れる身体に逆らう事なくバク宙を繰り出してみせる。
その隙を逃すことなく、追撃を仕掛ける蔵景。対する足利照々は振り下ろしを前転で交わすと、地面に突き刺さった別の刀を掴み取り反撃に出る。
――横薙ぎの一閃が蔵景を襲う。
蔵景はそれを刀で受け止めるが、軽く薙いだだけに見えた攻撃とは裏腹に、勢いよく押された蔵景の身体は浮かび上がり弾き飛ばされる。
「なッ――!?」
眼を見開いた蔵景はそのまま大きく後退り、地面を滑って砂埃が舞う。『スキル』を使用したような口の動きはなかったので、素の力で浮かせた事になる。
「驚きを隠せないと言いたげな感じね。種明かしは必要かしら?」
「……。装備によるステータス上昇」
「伊達に上位ランカーじゃないということね、正解よ。重かったでしょう?さっきの一撃」
「面食らっただけ。次はいなせる」
大地を蹴って距離を詰めて攻める蔵景。しかし足利照々は片手で軽々と攻撃を受け止めてみせ、ギリギリと金属の摩擦音が響いた。決め手に欠けている、という印象だ。高速斬撃は通じず、渾身の一刀も簡単に防がれる。これが現在、二人の間に生じている差。




