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大乱世モノノフサバイバー  作者: ミヤムラ
第1章:再起する剣士
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遠い星への憧憬

「なんか揉めてねぇか?」


「おいおい、アレってランカー2位の足利照々ちゃんじゃね!?」


「向かい合ってるのは蔵景だな」


「無限乱刀流の『剣豪将軍』?この時間にログインしてるの珍しいな」



二人の会話を耳にしたギャラリー達がいつのまにか周囲に集まってきている。喧騒が喧騒を呼び、人だかりは瞬く間に拡張していく。



「このままじゃわたしの気が済まないって話なの!いいから預かっていなさい!!」


「預かりたくないから不要と伝えています。納得がいかないのであれば、今すぐ仕合で片付けましょう。受けて立ちます。その方がわかりやすいと思いますが、どうでしょう?」



蔵景は臆する事なく一歩前に出た。その行動で周囲の人混みは色めき立つ。



「……、わたしこれでもこのゲームのランカー2位よ?その言葉の意味、理解してる?」


「勝敗は最初から決まっているわけではない。貴女の上に1人しかいないとしても、それは貴女が必ず勝つ理由にはならない」


「――あはっ。そうね、ごめんなさい、天狗になってたみたい。いいわ、そうしましょう。ここじゃ手狭ね、場所を変えましょうか」



足利照々は【菊一文字則宗】を引き下げて踵を返し、場所を移動する為に方向転換して歩き始めた。



「……あれっ!?ちょっ、て、照ちゃん!?なにしてるの!?」



グロッキー状態から復活したカルムが足利照々に呼びかけるも、彼女の足取りは止まらず進み続ける。完全に戦闘のスイッチが入ってしまったのか、聞く耳を持たないといった様子だ。カルムは慌てて立ち上がり、彼女の後ろ姿を追いかける。



「……、大丈夫かよ蔵景」



虚空から刀を二本取り出して腰に差した蔵景に問いかけると、蔵景は何事もなかったかのような淡々とした表情を浮かべてこちらを見て口を開いた。



「何も問題はない、平気。それに知りたかったから、丁度良かった」


「知りたかった?何を?」


「私の実力が、憧れに届くかどうか」


「……憧れ?」



要領を得ない返答に頭を悩ませていると、蔵景は伏目がちに言葉を紡ぐ。



「塚原道場の芦屋照紗(あしやあきさ)、覚えてる?」


「アシヤアキサ?」



やや小声で、名前を発する蔵景。アシヤアキサ……芦屋……芦屋照紗(あしやあきさ)。たしか世代は被ってないが、俺達の3つ上の世代の天才剣道少女として一躍脚光を浴びた人物だ。高校剣道で1年生ながらいきなり全国ベスト4に入ったみたいな話を聞いた覚えがある。



「俺らの3個上だろ?……って、まさか」


「声と佇まいが似ていた。あと名前に含まれる『照』。根拠としては薄いけど。このゲームの上位層は大半が何かしらの武道に精通しているから、彼女が居てもおかしくない」



名前をモジッたプレイヤーネームだとするなら芦屋照紗と足利照々で『照』繋がり。蔵景に至っては本名の武蔵景を一部流用して読みだけ変えたそのままなので、まあなくはないんだろうが。



「怪我を負ったせいでもう手合わせ出来ないと思っていたけど、ゲームの中でなら、戦える。もっとも、純粋な剣道で競うわけではないけれど」


「怪我ってお前」



言葉が、途中で止まる。


蔵景の視線が外れた。昔から、景が嘘をつく時はこうなる。いや、嘘というよりは、言ってはいけない事を、喉奥へ押し戻す時だ。



「――っ、…………今のは忘れて」


「いや、忘れてって言ったってお前」


「トミナ君」



底冷えする低い声だった。明確に拒絶の意を示す、短い制止。

そしてふと、気づいてしまった。景の左手が無意識に庇うように、覆い隠すように左膝に触れているのを。


蔵景は俺を見返す。視線は逸れない。拒んでいるのは嘘ではない。そりゃそうだ、誰だって言いたくない事の1つや2つ、存在する。



「トミナ君。今のは、忘れて。必要のない話だから」



蔵景の視線が、逸れる。必要がない、か。それは俺が関係している事を暗に物語っていた。景の怪我は、おそらく俺が関係しているらしい。でもその先がわからない。


俺がいなくなったあと、景に何があったのか。それ以上は、今は分からない。


言葉の続きは来ない。その沈黙で胸の奥が妙な熱で疼いた。どれくらいの怪我なのかはわからない。景が言いたくない以上、わかったふりをする事も叶わない。


ただ、分かった事はある。


それでも、それでも景はここにいる。


僅かに残っていた熱が導いたのか、それとも導かれたのか。それは俺にはわからない。


けれど景は、いまこうして憧れに手を伸ばさんと抗おうとしている。


忘れて、と言われた。


そんな大事な事を忘れられるほど、俺は鳥頭じゃない。


だが、今ここで掘り起こせば、景が飲み込んだものを地面に吐き出させるようなものだ。それは問いではない、罰だ。


だから、触れない。表向きは。



「……あー、その、まぁなんだ、頑張れ。そうだ、勝ったらなんか奢るよ。色々世話になったしな」


「――――、……うん。頑張る。だから、ちゃんと最後まで見ていて」



舞い散る花びらのような繊細な微笑みを浮かべた蔵景は、先を行く足利照々の背中を追って歩き始めた。


俺は、その後ろ姿を静かに見送る。


胸の奥底にまだ少しだけ残っていた熱が、景の飲み込んだ言葉の輪郭に触れて、僅かに温度を上げていた。

【登場人物紹介】


芦屋照紗(あしやあきさ)


・プレイヤーネームは『足利照々』大学1年生。剣道の名門、塚原道場出身。高校ニ年夏ではじめて個人戦全国制覇を達成して以降、高校三年最後の大会で再び全国制覇を果たすまで年間無敗を貫いた傑物。圧倒的な反射神経と動体視力を備えており、並の実力では一太刀浴びせるのも至難の業。


平泉とは部引退後に数ヶ月だけ勤務したバイト先で知り合った。退職後、入れ替わるように湊本が入った為、面識はない。



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