剣豪将軍、襲来
受け取った『兵糧丸』と『砥石』を収納していると、こちら側に1人のプレイヤーが歩み寄ってくる。
勝ち気そうで吊り目がちな金と赤のオッドアイ。月明かりのような淡い銀髪を、左側頭部辺りで黒のリボンを使いまとめ上げた少女は、カルムの背後に近づくと気さくに手をあげて語りかけてくる。
「何か聞き覚えのある声がすると思ったらカルムじゃない!」
「――はい?なんだ照ちゃんか。……ん?……照ちゃん!?ウソナンデ!?まだ深夜じゃないよ!?」
華麗なまでの二度見で突如現れた人物に驚きを隠せないといった様子のカルムは大声を出して狼狽える。
「ちょっ、うるさっ!?わ、わたしがいたら悪いの!?」
「いやだって照ちゃんいつもログインするの深夜じゃん!?そりゃビックリするよ!?」
「なんとなく気が向いたの!虫の知らせってやつ?レイド戦、わたしもちょっと参加してみようかなって!」
「照ちゃんも参加するの!?ほんと!?え、ちょっと待って待って、それならもう色々と話が変わってくるんだけど、…………あっ」
「……、ちょっと。なによそのちょっと嫌な感じの『あっ』って?」
照ちゃん、という事は彼女が上位ランカーの足利照々、本人なのだろう。
足利照々は腰に差した息を呑むほどに美しい漆黒と黄金の意匠が施された鞘から、雪のような純白の柄が伸びた刀を1本腰に携えている。【菊一文字則宗】も綺麗な刀だったが、なんというかその刀は格が違うと一目で察する。
「いやー、その、実は照ちゃんに渡したいモノがあるんだけど……機嫌損ねたりしないでね?」
「……?言ってる意味がよくわからないのだけれど、……まあいいわ。なに?」
「あのね、これなんだけど」
カルムは及び腰になりながら、虚空から【菊一文字則宗】を取り出して足利照々に差し出した。差し出された足利照々はギョッとしたように一瞬だけ眼を丸くして、言葉に詰まる。
「っ!?な――え、なんでわたしの【菊一文字則宗】をカルムが持ってるのよ!?」
「あー、えーっと、その、そこにいる蔵景ちゃんが拾ってたみたいで……」
「蔵景!?拾った!?どういうこと!?もっとちゃんと説明して!!」
カルムの両肩を掴んで前後に動かす足利照々。ガクガクと頭を揺さぶられながらカルムは言葉を続ける。
「ヒィ~!お、落ち着いて照ちゃん!もっとちゃんと説明するも何も、これ以上説明しようがないの!!照ちゃんが無くした【菊一文字則宗】、建物の隙間に落ちてたのを蔵景ちゃんが拾ってくれてて!それを私がなんやかんやあって預かったの!」
「なんやかんやって何!?」
「なんやかんやはなんやかんやだよぉ!!」
「蔵景って誰!?」
「そこの女の子だよ~~っ!!」
揺さぶりが高速化してブンブンとシェイクされまくるカルムは、なんとか片手を蔵景に向ける。差し向けた方角を足利照々はキッと睨みつけるように顔を動かした。
「あなたが蔵景さん!?」
「はい」
「見ない顔だけど名前なら見覚えがあるわ!どうもありがとう!!」
「どういたしまして」
蔵景は淡々と、機械のような平静さで返答する。それを受け取った足利照々は、カルムから【菊一文字則宗】を引き取ると、鞘を掴んで蔵景へと突きつけた。
「でもそんな筋の通らない施しを受ける謂れはないわ!これは確かにわたしの武器だったけれど、紛失させられた後に見つけて所持したのはあなた!だから私が無償で受け取るわけにはいかない!だから返します!!」
刀を前面に突き出したまま、足利照々は蔵景の元へと勇み足で近づいていく。
「わたしがあなたを叩き斬って取り返すその日まで、これは預けておきます!!」
「いえ、そういうのは結構なので。受け取ってください。私には不要です」
淡白すぎる蔵景の言葉の切り返しを受けてガクッとずっこけるように肩が下がる足利照々を、背後のカルムは揺さぶられすぎたのか、地面に四つん這いになって項垂れていた。
なんだろう、面倒な大事になりそうというか、嫌な気配がプンプンと漂ってきた。




